BO GUMBOS、ZELDA、
サンセッツのメンバーたちが
楽しく創り上げたロックアルバム、
海の幸『熱帯の友情』

音楽仲間が目指したハイブリッド

ここまで説明してきた通り、海の幸とは、ZELDAの小嶋さちほ&高橋サヨコ、久保田麻琴と夕焼け楽団~サンディー&ザ・サンセッツの井上ケン一&井ノ浦英雄、そしてBO GUMBOSのどんと&KYONによるプロジェクトである(ネットに残る海の幸の紹介では高橋が名を連ねていないものも見かけたが、入手したCDの歌詞カード内には高橋の名前もある)。もともとはフリーコンサートでシークレットライヴを行なうメンバーが集まり、その1回きりで終わる予定だったのが、小嶋曰く“一緒に音を出すのが楽しかったので、みんながまたやりたいと思ったのだ”という。そして、レコーディングの話が持ち上がり、“誰からともなくバリという地名が出た”ということである。その時点で、井上&井ノ浦がインドネシアの歌手のレコードを作るためにジャカルタにいたそうで、その辺も関係したのだろう。いずれにしても、レコード会社やマネジメントの主導のビジネスマターというよりは、気心が知れた音楽仲間同士、セッション時の楽しさ、テンションの高さのまま、作品作りに至ったという印象が強い。勢いで…というと若干語弊はあるだろうが、そこに用意周到な計画があったかと言えばそうでもなかったのだろう。そもそもプロジェクト名の海の幸も、シークレットライヴの話をしたのが寿司屋だったことからこの名称になったというから、適当と言えば適当なものではあったようだ。それでいて、この海の幸というプロジェクトは本作と次作『Indonesian Sea Food』(1995年)の制作まで活動していったわけであって、その辺からもアーティストの直感の確かさを感じるところである。

レコーディング先で見聴きしたものを楽曲に取り込んでいることは、それもまたこのメンバーならではの感性の成せる業だろう。ガムランやティンクリックというバリ島ならでは楽器を使用していることもそうだし、歌詞の内容もそうだ。前述した、M8「ムスティカ」の内容は間違いなくそういったものだし、M2「果物売りのババーのうた」もM5「バリ島の日本人」もバリ島レコーディングでなければ生まれなかったものであろう。そうした具体的なものだけでなく、バリ島ならではの空気が醸成したものは確実にあると思う。M1とM9「バリ島で見たニューオリンズの夢」はタイトルからもそれが分かるし、それ以外の楽曲にしても、バリ島でしか録れなかったものであったということが言える。加えて言うと、自らの持ち場を堅持しているという言い方でいいのかどうか分からないが、現地の楽器、あるいはメロディーやリズムを取り込み、バリ島ならではの空気感を纏いつつも、ZELDA、夕焼け楽団~サンセッツ、BO GUMBOSという、その時点での各メンバーが属していたバンドのサウンドをスポイルしていないところは忘れてはならない点だと思う。その時点での音楽的土台を守り、他のメンバーへのリスペクトしつつ、その先にあるハイブリッドな音楽を目指した──『熱帯の友情』はその時、その場でしか成し得なかった、まさにレコード≒記録なのだろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『熱帯の友情』2000年発表作品
    • <収録曲>
    • 1 .バリ島で見たニューオリンズの夢(イントロ)
    • 2 .果物売りのババーのうた
    • 3 .ちばらやーさい
    • 4 .SUCK’EM UP
    • 5 .バリ島の日本人
    • 6 .MAKES ME FEEL SO HAPPY INSIDE BALI
    • 7 .しらんぷり
    • 8 .ムスティカ
    • 9 .バリ島で見たニューオリンズの夢
『熱帯の友情』('00)/海の幸

OKMusic編集部

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