『Johnny Hell』は
浅井健一にしか醸し出せない
独特なロックの世界に
魅せられる傑作アルバム
ストレートな物言いとメッセージ
《生き続けろ やり続けろ はき続けろう/飛び続けろ やり続けろ 乗り続けろ/生き続けろ 飛び続けろ》(M2「WAY」)。
《僕には何にもできないけど/近くに困った人がいたら/助けてあげたいそう思ってる/そこから大きく広がれるさ》《だから言おうぜ 自分の道は/自分で決める 左右されるな》(M3「原爆とミルクシェイク」)。
《あまりあまり この世は ひどいことが 多いから/せめてせめて 物語は 美しいままで おいとこうよ》(M4「Pola Rola」)。
《あまりにも残酷な事がなされてる/僕たちには知らないが本当なんだ》《Hey Johnny Hey Johnny いかれようぜ/Hey Johnny Hey Johnny だって世界は/Hey Johnny Hey Johnny いかれてるぜ》(M9「Johnny Hell」)。
《話したってつまらないよ 神秘的なところまで行こうぜ/心には壁なんかないのさ》《素直な自分の思いは 真水だとか炎だとか/同じものでできてるのさ/さえぎるものなんかないよ》(M10「哲学」)。
《確かに悲しみあるのは知ってる/確かに恐怖があるのも知ってる/だけれど人々 みんなゼロだから/失うものなど 失うものなど/失うものなど どこにもないよね》(M12「Green Jell」)。
《人はなぜ こんなにも 愚かなの 愚かなの/自然界で 涙を流せるのは 唯一なのに/唯一なのに 唯一なのに》(M13「人はなぜ」)。
本作『Johnny Hell』収録曲には、わりとストレートな物言いと、ストレートなメッセージ性が多いことに気付く。筆者は浅井健一ソロ作品を始め、BJCもSherbetsもAJICOもJudeもそのすべてをチェックしたわけではないし、聴いていない作品も多いから、他にも上記のような歌詞があるのかもしれない(あるとしたら、先に謝っておく。すみません)。だけど、ここまで多いとそれは本作の特徴とは言えるのではなかろうか。
また、浅井健一の磁場の話に戻るとすると、こうした歌詞でもそれが完全に浅井健一のものになっているのは見逃せないところだと思う。《自分の道は/自分で決める》や《心には壁なんかない》、《人はなぜ こんなにも 愚かなの》などは、それとまったく同じものではないにしろ、近いフレーズを使っているアーティストは多いと思う。浅井健一が初出ではないだろう。よって、仮にこれが、“今さら、ゆずのコピーかよ!?”と思わず突っ込みを入れてしまいそうな、オリジナリティーが皆無のフォークデュオであったり、ソウルなんてちゃんと聴いたこともないのに“ブラックミュージックって最高だよね”など言ってるような基礎もできてない自称ヒップホップグループとかが持ってきていたとしたら、それほど響かないのではなかろうか。もしかすると、上記にしても歌詞をピックアップしただけではピンと来ない人もいるかもしれない。ありふれたメッセージと言ってしまうと語弊があるとは思うが、人によってはそう思う人もいても不思議はなかろう。だけれども、浅井健一が創造した旋律に乗せ、浅井健一自身が歌うことで、リスナーへの伝わり方がどこか違ってくるように思う。演者が信じて表現すれば、仮にそれがありふれたと思われるようなものだったとしても、その輝きは増す…といった感じだろうか。どうも上手く言い切れた感じがしなくて申し訳なく思うけれども、そんなふうにも思う。また、こうしたストレートな感じは、ソロ作品であるがゆえに、バンド以上に浅井健一というアーティストの核にある部分が色濃く出た──そんなことも言えるのかもしれないとも思ったところではある。
TEXT:帆苅智之
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