松原みきのデビュー作
『POCKET PARK』は、
今、世界から注目を集める
日本独自のAOR
名うてのミュージシャンがバックアップ
言うまでもなく、歌の主旋律は秀逸。とりわけ展開がお見事であると思う。いわゆるJ-POP構造で、落ち着いたAメロから始まり、Bメロで徐々に盛り上がっていきつつ、サビで突き抜ける。突き抜けると言っても、スパッとどこまでも昇っていくような感じではなく、抑制の効いた感じが大人っぽさを与えているように感じる。これはどなたかも指摘されていたことだけれども、サビの《Stay With Me》が英語であることも効いている。否応にも歌にキャッチーさを与えているし、それが結果的にRainychのカバーにつながったのではないかと想像することもできるだろう。また、歌メロ以外にも、例えば、1番と2番とのブリッジで奏でられるメロディーであったり、前述した間奏でのサックスやアウトロでのギター、さらには随所で聴こえてくるコーラスが、いずれもしっかりとメロディアスなため、歌は2番までで2番のサビは2回廻しとシンプルな構成ながら、聴き手を飽きさせない作りになっていることも見逃せない(聴き逃せない)。その辺も「真夜中のドア〜」がワールドワイドに注目を集めるポイントだったかもしれない。
あと、これは筆者が2000年代以降のいわゆるコンテンポラリーR&Bの歌唱に慣れすぎたからかもしれないのだが、彼女の歌い方に変な癖がないことにも好感を持った。アウトロ近くに少しアドリブっぽい箇所があるが、フェイクとかはほとんどない。歌はうまいし、圧しも効いている。若干、滑舌が悪い感じがしなくもないが、それは個性の範疇だろう。無個性とは言わないけれど、(これもまた失礼な言い方になってしまうかもしれないが)余人をもって代えがたい歌声ではない気はする。でも、そこがいいのだと思う。このメロディーとサウンドで、仮に歌声がとてもソウルフルで迫力のあるものだったとしたら、「真夜中のドア〜」の世界観はこうなってはいなかったはず。シングルがリリースされた時、松原みきは20歳だったと考えると、このくらいの温度が丁度いいように思う。そして、その彼女の歌唱もまた、「真夜中のドア〜」を世界的に広めることになった要因ではないかと想像する。