『PARACHUTE from ASIAN PORT』の
色褪せないポップさに、
Parachuteのミュージシャンとしての
基本姿勢を感じる
楽曲を濁らせないリズム隊のプレイ
M2以降も(もちろん、いい意味で)終始そんな感じ。ベースは比較的派手なM5でスラップを聴かせてはいるが、あくまでサビの開放感、ポップ感に合わせて導入している印象ではある。少なくとも無理やりプレイヤーの個性を発揮しているようなところは感じられない。ドラムは若干暴れているようなナンバーがある。M2やM8の後半もそうだが、最も派手なのはM6のアウトロだろう。フェイクを入れるヴォーカルのテンションに当てられたのか(一発録りでなかったら、ヴォーカルはレコーディングされるので、むしろヴォーカルがドラムに当てられたのかも…)、他にはない熱っぽいフィルインを聴くことができる。だが、それが最も熱く鳴らされる時、楽曲全体がフェードアウトしていくのだ。ライヴならこれから…というところで音量が下がっていく。 ポストプロダクション時に“そんなに熱い演奏はこのアルバムには必要ない!”と言われているようでもあって、これもまた興味深いところではある。
パーカッションはベース、ドラム以上に生真面目な印象は強い。淡々と…という言い方が適切かどうか分からないけれど、個人的にはそう思う。ただ、冷静になって考えれば、打楽器という性格上、ドラムに寄り添っていなければ楽曲全体にリズムが台なしになるだろうし、そもそも独自のフレーズを鳴らしづらい。そう理解した上で、パーカッションに注目して聴いてみると、パーカッションの存在がメロディーともリズムとも異なる効果を楽曲全体に及ぼしていることが分かった。いい演奏は随所にあるが、その中でもM4に注目した。M4は何と言っても愁いを秘めた旋律が特徴的だが、もしこれがドラムだけで、それこそ淡々と展開していったら、冷たい印象が残るような気がする。だけど、そうなっていなのは、パーカッションの鳴りがアーバンな雰囲気に温かみのようなものを加味しているからだと思う。楽曲にドラムとは別の推進力を与えているのだ。ウインドチャイムで情景描写しているのも見逃せないところだし、実にいい仕事っぷりだと思う。パーカッションの生真面目さがミドルナンバーに合っていたとも言えるだろう。
旋律を奏でる楽器はポップに、リズム隊はそれを邪魔せずに持ち場を堅持する。それが少なくとも『ASIAN PORT』時点でのParachute であったと言えるとは思うが、先ほども述べた通り、名うてのメンバーたちが集い──しかも、当時は全員20代で血気盛んであってもおかしくない年頃だったメンバーが、言わば、自作自演の悪さみたいなものを出さなかったことは、不思議とは言わないまでも、少し気にかかるところではある。スタジオミュージシャンとして仕事をしていた人たち故のことと…とも考えられるが、そう簡単に片付けていいものか。そんなことを考えながらあれこれ調べていたら、メンバーのひとり、安藤芳彦のwebサイトに注目すべき言葉が載っているのを見つけた。2016年に逝去した松原正樹のインスト曲に安藤が歌詞を付け、Bread&Butterの岩沢幸矢が歌ったアルバム『君を見つけた日 Knock! Knock! Heaven's Door』(2018年)について、そのプロデューサーでもある安藤芳彦自らが解説している中で、松原正樹についてこんなことを言っている。恐縮ながら引用させていただく。
〈彼の「歌を支える」というその姿勢は生涯変わりませんでした。全ての源は音楽に対する愛情だと思います。どうしたら自分が格好良く見えるかよりも、どうしたらその曲がもっと素敵に聞こえるかを最優先する姿勢には、今でも教えられる事が沢山あります〉
※Head Writers OFFICEからの引用
安藤はもとより、Parachuteの他のメンバーもその松原の姿勢に共感、共鳴していたのだろう。だから、自然とポップなものが湧き上がり、突飛なフレーズでそれを邪魔することはなかった。そう考えられる。彼らが多くのアーティストたちの寵愛を受け、シーンの第一線に居続けることができた理由もそこにあるだろう。
TEXT:帆苅智之