手嶌葵の
『The Rose 〜I Love Cinemas〜』は
これからも時代を超えて愛される
不朽の歌集
選曲に見る女性シンガーとしての自負
「The Rose」がアルバムタイトルにもなっていて、オープニングとラストに収められているのも、彼女にとって必然である。その説明もWikipediaに譲る。[中学生の頃、対人関係の問題から登校拒否に近い状態になった。その時に心の支えとなったのがベット・ミドラーの「The Rose」であり、アマチュア時代からライヴでカバーしている。このカバーの音源がデビューのきっかけとなる]([]はWikipediaからの引用)。慣れ親しんだ曲であると同時に、プロのシンガーへの分水嶺だったとも言える重要な楽曲だったのである。「The Rose」はBette Midlerが歌った楽曲で、彼女は過去4度グラミー賞を受賞しているが、この楽曲もそのひとつ。映画『ローズ』の主題歌であり、この映画はJanis Joplinをモデルとしている。つまり、彼女は、伝説のロックシンガーを演じた映画女優兼グラミー賞歌手が歌ったナンバーを、カバーしたということになる。何とも肝の据わった話ではないかと思うのは筆者だけだろうか。偉大な女性シンガー×偉大な女性シンガーである。アマチュア時代から歌っていたということだから、彼女自身には気負ったところはなかったのかもしれないけれど、それならそれで、逆に彼女の度胸を感じるところである。M2「Moon River」をAudrey Hepburnバージョンで歌っているのは当然としても、M4「Raindrops Keep Falling On My Head」を彼女ならではの歌唱で歌っているところにも、いい意味で原曲に惑わされない芯の強さのようなものも感じるし、実質的なアルバムの最後と言っていい位置にM8「Alfie」を置いていることにもメッセージ性が感じられる。このラインナップ自体、“手嶌葵、すごい!”と言わざるを得ない貫禄があるのである。
TEXT:帆苅智之