MORRIE

MORRIE

“俺たちはこれしかできない”
みたいなところがあった

1986年6月にインディーズレーベルからリリースしたアルバム『DEAD LINE』は2万枚以上の売上を記録していて、デビュー前にもかかわらず大阪・バーボンハウスで開かれた発売記念ライヴには800人以上が集まるという、そのデビュー前の反響はどう受け止めていましたか? それこそ『DEAD LINE』は当時、インディーズでは前例がないほど売れたわけですが。

バンドで本格的にアルバムを作るというのが初めての経験で、そこで自分の実力を目の当たりにせざるを得ませんでしたね。メンバーのことは分からないので僕だけの話ですけど、“ダメダメやな”と思いました。でも、出来上がって、お金もかけて作ったからリリースするしかない。心の中では“売れないでくれ、売れないでくれ…”と思っていましたよ。なのに、バカスカ売れるし、お客さんは増えるしで、“おいおい…もうやるしかないな”と。まぁ、今では笑いながら聴けるんですけどね。やっぱり当時の破天荒なエネルギーが詰まっていますし、若さはそれ自体が価値じゃないですか。それはもう絶対にできないことなので。

その翌年の1987年9月にアルバム『GHOST OF ROMANCE』でDEAD ENDでメジャーデビューされましたが、MORRIEさんにとってメジャーデビューというのはどんな出来事でしたか?

上京して生活環境が変わって、メジャーデビューをして制作規模も大きくなりましたけど、“この流れに乗ってガンガンいくぜ!”という感じでもなかったですね。メジャーになると、1枚目のアルバムを作って、次は“さらに売るには?”となりますよね。それこそ曲をポップにするとか、歌詞を分かりやすくするとか、ラブソングを書くとか、実際にそういう要求もありましたし。分かっていたけど、それが肌には合いませんでした。いい意味でも悪い意味でも、バンドのアティチュードとして“俺たちはこれしかできない”みたいなところがありましたから。ある程度は売れないと次が出せなくてやっていけない状況の中、それぞれに個人的なせめぎ合いはあったとしても、最終的に妥協した人はいないと思います。まぁ、それしかできないんで。

売れようと思って売れることができたとしても、歴史に残ることというのはやろうと思ってもなかなかできないことだと思います。DEAD ENDのやりたいことをやる姿勢が結果的に今もロックシーンに影響を与えていますし、やりたいことに没頭したからこその影響力があったのではないかと。

結果から見てきれいにまとめるとそうかもしれないですね(笑)。1989年の9月に『ZERO』というアルバムを出したんですけど、制作中からバンドはもう終わるかなって感じがちょっとあって。「I WANT YOUR LOVE」という曲から始まりますが、僕の口から《I want Your love》、しかもど頭のコードがDメジャーでガーン!なんて、それまで聴いていたファンからしたらあり得なかったはずです。あれは売れようと色目を使ったのではなく、“もう何でもいいや”みたいな(笑)。ある種の開き直りというか。DEAD ENDはうまいバンドだったので、テクニカル的にも結構いろんなことができてしまうんですよ。結果的にはあのアルバムがメタルからの完全脱却になって、僕の見立てでは9割くらいファンが変わりました。たぶん前作の『shambara』(1988年5月発表のアルバム)まで好きだった多くの人はそっぽ向いちゃったと思います。ところが何十年も経って“今聴くといい”と言う人がかなりいるので、開き直ってメジャーな感じの曲を作りましたけど…僕のことは置いておいて、演奏はしっかりしているし、筋が通っているから、未だに聴かれていても十分に聴き応えがあるんじゃないかという気はしますけどね。

何かに憧れて自分でもやってみようとなると、まずは真似から始めると思うのですが、MORRIEさんは何かの真似をしていた時期はないんですか?

真似というか参考にするようなことはありますが、人生において誰かを崇拝して、とことんその対象の真似をするようなことはないですね。ただ、バンドを始めた時にGASTUNKってバンドがいて、僕が見て一番カッコ良いバンドでした。ライヴを観に行ったり、対バンもさせてもらったりして、ヴォーカルのBAKIさんのシャウトがすごいと思っていたけど、それを自分でやっても同じようにはできないじゃないですか。でも、そこで衝動的直感的にやっているうちに自分なりの歌い方ができていくという按配です。とにかく歌っていて法悦的に気持ち良くなれるのがベストですね。何か引っかかるとか、苦しいとか、いつも限界みたいなところでやっていた時期もあったので、陶酔とは遠かったことが多いけれども、稀にそういう瞬間があったとは思います。それを瞬間ではなく、あらゆるパフォーマンスにおいてそういう境地を実現できるのが理想です。覚醒された忘我というか無我の境地。そうやって最高のものが出るんだと思うんですけど、それでウケなかったらしょうがない。それは今もそんな感じです。

この企画では最後にもっとも影響を受けたキーパーソンをうかがうのですが、そういった存在はいますか?

ひとりあげるとすれば、やはり初期に大きなインスピレーションを与えてもらったGASTUNKのBAKIさんです。ただ、その時その時で好きな人はいますけど、絶対的に崇拝する人はいないですし、根源的、本質的観点から言っても全ては“私”ですから。

誰かを目指すという気持ちではないのであれば、MORRIEさんは今どんな感覚で音楽を続けていらっしゃるのですか?

歌を歌うということは多分に肉体労働ですから、この肉体を駆使してどこまでできるのかっていう挑戦ではあります。“目指す”というのではないですけど、“まだ可能性がありそうだな”と思えるので、そこがやり続ける一番の理由ですね。あとは、やっぱり楽しくないと。ソクラテスの“生きるために食べよ、食べるために生きるな”じゃないけど、“音楽をやるために生きているのか、生きるために音楽をやっているのか”ということです。可能性が感じられる間はやるでしょうし、じゃなかったら辞めると思いますね。生活のためという比重が大きくなるならば、ミュージシャンなんてお金を稼ぐには非効率ですし、やっている意味がないですから。音楽に限らず、アートをやっている人も文章を書いている人もそうだと思うんですよ。だから、やはり大切なのは志だと思います。

取材:千々和香苗

OKMusic編集部

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