頭にオーディオ機器が埋め込まれた女
の子たちーーイラストレーター瀬崎百
絵、音楽をテーマにした大阪初の個展
『Trip Mix Juice』で新たな世界を表

アーティスト・イラストレーターの瀬崎百絵が7月29日(土)〜8月13日(日)まで、大阪・難波のexcubeで個展『Trip Mix Juice』を開催している。2022年10月に行われたアートフェス『UNKNOWN ASIA 2022』でイープラス賞を受賞した瀬崎。大阪での初の個展となる今回は、音楽をテーマに制作された最新作9点と、大阪初上陸を含む過去作品あわせて約30点が展示されている。会場のexcubeは古着屋とギャラリーが併設されており、音楽と古着が好きな瀬崎との親和性もバッチリ。カラフルでポップな空間に仕上がっている。SPICEでは、展示初日にInstagramで生配信しながら、ギャラリートーク形式でインタビューを実施。居合わせた来場者からの質問にも回答してくれた。
今回の個展に向けて制作された新作
「Trip Mix Juice」に込めた意味
ーーexcubeで個展を開催することになった経緯は?
もともと大好きなギャラリーで、インスタでずっとチェックしてて。キュレーションも大好きで、いつか自分もやらせていただきたいという気持ちで、去年挨拶に来たんです。そうしたら「やりませんか」と声をかけてもらって、すぐに決まりました。念願がってすごく嬉しいですね。
ーーお店と瀬崎さんの作品のカラーがマッチしていますね。
合う色合いをセレクトしたのもあるんですけど、壁が明るくなればいいなと思ってカラー作品だけにしました。『UNKNOWN ASIA』は背景が黒でモノトーンのドローイングも展示していたので、雰囲気は全然違うと思います。excubeのお客様にも作品を観てほしい気持ちが強くて。古着が好きな方、おしゃれが好きな方、音楽が好きな方。そういう方にいかに楽しんでもらえるかを意識した時に、多少ギャラリーの色に合わせたものを作る方がいいかなと。今回は瀬崎の「ここでやるならこういうバージョンだよ」という世界を観ていただけたら良いかなと思います。
ーーexcubeで展示をすると決まったのが約1年前で、そこから準備を重ねてこられて。
実は企画展ギャラリーで個展をさせてもらうのが初めてで、どのようにコンセプトを作っていったらいいかすごく迷っていました。テーマを決めるのに3か月ぐらい要してしまって。「これでいこう」と決まってからは、3〜4か月で一気に制作しました。
ーー「Trip Mix Juice」というタイトルとテーマについては?
まず「音楽」をテーマにしたいなと思って。音楽を聴く行為を形のないもの、流れていくようなもの、そういう流動的なイメージに例えたくて、タイトルをつけました。「Mix Juice」は過去の作品と新しい作品を混ぜていくという意味。音楽を聴くと気持ちも高揚するし、どこかに行ったような気持ちになるので、旅行の「Trip」と自分の気分が良くなる「Trip」を両方かけて造語を作りました。
ーー新作と旧作を合わせての展示なんですね。
入り口側の壁にはコロナ以降の2021〜2022年くらいまでの作品を中心に集めました。大阪に持ってくるのが初めての作品も半分以上あります。テーマは割と雑多で、ここ2年ぐらい色んなグループ展で出してたものを集結させました。「Mix Juice」と名付けたからには色んなのがあっていいだろうということで、音楽に限らず色々持ってきました。「こういうのもあるんだ」と、色んな角度と広い心で観てもらえたら嬉しいです。

左上がPhotoshopをモチーフにした作品
ーー左上の作品は、Photoshopをモチーフにされているそうですね。

コロナが始まった頃のもので、むしゃくしゃしてダウナーな気持ちを投影しています。情報化社会で、情報を変えられてしまうところがすごく気になっていて。そういうことを涙を透過している部分で表しています。Photoshopで切り抜き作業をすると、背景が網掛けみたいになるんですけど、情報の捻じ曲がりや消されていくことを抽象的に表したくて描いた作品になります。
ーー窓際にも作品が吊ってありますね。
これは『UNKNOWN ASIA』でも出した人魚の絵です。「Mix Juice」という液体のイメージがあったので、夏ですし、ちょっとお魚を泳がせてみようかなと思って。モビールみたいな感じで、エアコンの風でくるくる回ります。
ーー以前、SPICEで瀬崎さんとラッパーのRin音さんの対談をさせていただいた時に、「絶対に作品の全てに意味をつける」とおっしゃっていましたね。(対談記事はこちら)
過去の作品に関してはそういう感じですね。意味付けがちゃんとあって、コンセプトもしっかり作っているものが基本です。逆に新作はそうではないものを作ろうという新しい試みです。
風に揺られてくるくる回る
ーー瀬崎さんと言えば「強い女性」のイメージがありますが、新作は雰囲気が少し違うように思いますね。
そうですね。もちろん「強い女性を描きたい」という確固たる信念は変わらないのですが、その強さにも色々な種類があるんじゃないかと思って。今回は「絵らしい絵」というか、観る人に与える余白を意識して制作したので、過去のものと比べると多少マイルドに感じるかもしれません。
オーディオ機器をモチーフに、時代の流れと女の子の容姿の変容を表現
ーーでは新作のお話を。カラフルな4人の女の子の絵が並んでいます。
右から1960年代、1980年代、2000年代、2010年代と、年代ごとに女の子を描いていています。「FACEシリーズ」​と呼んでいる真四角の絵と、隣のフレームに入った女の子は同一人物の設定です。女の子の服装やメイクは時代とともに目まぐるしく変わっていくので、モチーフ選びも工夫して、その年代を表すようなものを入れてみました。時代の流れと女の子の容姿の変容を表したいと思ってシリーズ化しました。
ーーFACEシリーズは女の子の頭にオーディオ機器が埋め込まれていますね。
時代が変容していくごとにオーディオ機器も変化してきたというところを表現したいなと思って。1960年代がレコード、1980年代がカセットテープ、2000年代がCD、2010年代が配信を表しています。女の子の顔と何かを組み合わせて描くのは、過去の作品でもたくさんやっていたので、そういう意味では自然の流れではあります。
ーーモチーフ選びは具体的にどのようにされたのですか?
とにかく調べまくりました。特に60年代と80年代は私は生まれてない時代なので、その時代を生きた人に聞いたり、資料を探したり。自分も古着屋さんで働いていたことがあって、60年〜80年代ぐらいの古着を着た経験があったので、割と下地があって。自分の実体験や知識の中で消化できるものだったので、何とか助けてもらった感じでした。
1960年代がテーマの作品
ーー(来場者からの質問)FACEシリーズの背景も、時代ごとに解釈があって選ばれてるんですか。
モチーフは年代に合ったものにしたかったので、例えば60年代は実際にあったソファや灰皿、オーディオ機器も実際の型番を調べました。もし知ってる方が観て、違っていたらがっかりするポイントになってしまうので、映画なども参考にしながら頑張って詰めましたね。
ーー(来場者からの質問)ご自分が生きてみたいなと思う時代の作品はありますか?
濃い質問ですね。難しいな。横尾忠則さんが好きで、彼のデビュー当時である1960年代以降の活気のある雰囲気や、景気のいいカラーや思い切った構図が好きで追いかけてる部分もあるので、この時代にいたら楽しかったのかなと思いますね。まだ整備されてないからこその自由があったのかなと想像します。
生活の中で「Trip」する女の子たちを描く
FACEシリーズ
ーーフレームの絵の女の子ですが、1960年代がチルしているところ、1980年代が寝ているところ、2000年代が食事してるところ、2010年代はお風呂に入ってるところが描かれています。それぞれの場面の振り分けはインスピレーションですか。
フレームに入ってる絵は基本的にオーディオ機器を入れていて、音楽を聴いている状態を表しています。気持ち良い状態になっている女の子を描こうという試みだったので、表情を工夫してますね。あとはバスルーム、ダイニングルーム、寝室、リビングみたいな感じで、それぞれの部屋について描き上げることも意識しました。家の中から出なくても旅行した気分になれる部分を表現したかったので、あくまで外は描かず家の中を、部屋ごと・時代ごとに描いていく。今回はここに挑戦したいと思っていました。
ーー2010年代のバスタイムは今回のキービジュアルでDMにも使われていますが、これは今回の展示を象徴するような1枚になったということでしょうか。
FACEシリーズはこれが1番最初に描き上がっていました。バスタイムの絵はテーマをガチッと決めるにあたって作った作品なので、「もろTrip」という部分を表すために飛行機を描いたりして、キービジュアルになることを意識して最初に描きました。オーディオ機器を入れることと黄色、緑、青、ピンクというカラーリングも先に決めてあったので、バスタイムを描いたら次は、他の顔に合う他の部屋を描かなきゃなと。「これは背景ありでこういう感じにしたから、次の絵はこういうコンセプトでやろう」というふうに膨らませて、結局連作になりました。
ARを活用した、絵が動く仕掛けも
ーー絵の下のQRコードを読み込むと、ARで絵の一部が動くようになっていますね。
レコード、カセット、CDと、それぞれ作品と連動してるグッズを作ろうという構想があって、時代ごとにグッズを作っていきました。2010年代は音楽配信を表現したかったのですが形がないので、仮想現実で絵を動かしてみようと。2000年代のCDケースには中身がなく、ブックレットだけの作品集になっていて、今回の新作が全部収録されています。CDのパロディみたいな感じで、絵に曲名もつけて。タイムは絵で時間軸のないものなので、無限に観られるよという意味で「0:00」や「∞」を入れてます。表面はデザイナーの方にCDジャケットを意識して今回の展示タイトルをデザインしてもらいました。
2010年代がテーマの作品
ーーなるほど。2000年代は魚が印象的ですね。
人魚の絵の真ん中の子(イエローの背景)はうちのペットの熱帯魚のベタがモデルですが、この絵には合わなくて断念して。グッピーを合わせてみました。ちょっとでかいねと言われますが、敢えてこの大きさにしました(笑)。水中で女の子自体が浮いていて、水の中に行ってしまうイメージですね。ないものが見えたり、あるものが見えなかったり。
ーーこの作品は女の子の眉毛の形を修正されたそうですね。
よくご存知で(笑)。やっぱり眉毛の位置1つでだいぶ表情が変わるので。最初に出来上がったのを見た時に、女の子が思っててほしいことが眉毛に出てないと思ったので、全部描き直しました。結果的に納得いくようにはできたかなと思います。
1980年代と1960年代をテーマにした作品
ーー今回の新作で1番難しかった作品はありますか。
60年代ですね。これが1番最後に上がって、ラフのアイデアもなかったのですごく苦戦しました。座ってる女の子を前から描くのは、デッサンの授業でも「難しいからやめろ」と言われるんですね。だから決めた時に「やっちゃったな」という感じでしたけど、描いちゃおうと。
レコードモチーフのコラージュ作品
ーー60年代では過去作のコラージュが「音のないレコード」というタイトルで置かれていますね。
最近は音の良さが見直されて若い子の間でも買う人が増えたと聞いたので、良い文化だなと思っています。自分もそこに乗って最近プレイヤーを買いました。レコードと同じサイズなのでディグって選んで、その場で持ち帰っていただけるライトなもので、全て一点物です。
女性視点の男性の様子が描かれている
ーーカセットも最近リバイバルしてますよね。
カセットはA面B面というコンセプトで、違う人の視点から描いた同じ時間軸のストーリーを表現しています。女性から見た男性と、男性から見た女性の飲み会の席の1コマみたいな感じです。「001」としているので、これからも別バージョンを色々作っていきたいなと思って、今回はそれの足掛けになります。
ーー改めて大阪初個展、開催してみてどんなお気持ちですか。
まだ始まったばかりですが、既に来てくれたお客さんや、オーナーさんが呼んでくれたお客さんとの出会いもあったり、ほんとに温かい場所です。大好きなギャラリーで展示できるのが嬉しすぎて、一生懸命準備しました。なのでできれば多くの方に見ていただきたいです。関西というエリアも好きですし、好きなものづくしの場所で個展をできてほんとに嬉しいので、皆さんをおもてなしできたらと思います。気さくなオーナーさんもいらっしゃるので、ぜひ在廊期間が終わった後も作品に会いに来てください。
瀬崎百絵個展『Trip Mix Juice』は7月29日(土)〜8月13日(日)まで、大阪・難波のギャラリー・excubeで開催。入場無料。ぜひこの機会に、『UNKNOWN ASIA』とはまた違う彼女の世界を覗きに行ってみてほしい。
取材・文=久保田瑛理 撮影=SPICE編集(川井美波)

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