安住の地がシアタートラム・ネクスト
ジェネレーションvol.14『凪げ、いき
のこりら』で初の東京単独公演! 岡
本昌也×私道かぴインタビュー~生き
残りをかけた種族の大バトルに「今」
へのまなざしも込めて

2022年12月16日(金)〜18日(日)の3日間、シアタートラムにて安住の地の第8回本公演『凪げ、いきのこりら』が上演される。本作は、世田谷パブリックシアターが主催する若き才能の発掘と育成を目的とした事業“シアタートラム・ネクストジェネレーション”の第14弾目の選出作。2017年の旗揚げ後、京都を拠点に活動をしてきた安住の地が東京の劇場で単独公演を行うのは今作が初めてとなる。
結成わずか5年の安住の地だが、近年の躍進ぶりはまさに「次世代」と呼ぶに相応しい。『ボレロの遡行』でかながわ短編演劇アワード2021のグランプリ、今年5月には『アーツ』で第12回せんがわ劇場コンクールのオーディエンス賞を受賞。団体の躍進はさることながら個人の活躍もまた目覚ましく、私道かぴ作の戯曲『丁寧なくらし』、『犬が死んだ、僕は父親になることにした』はそれぞれAAF戯曲賞、北海道戯曲賞の最終候補作でもある。俳優としても活動する岡本昌也は、7月にシアタートラムで上演されたハイバイの『ワレワレのモロモロ2022』に出演し、話題を呼んだ。最新作『凪げ、いきのこりら』は、そんな私道と岡本による共同執筆・演出の3作目となる。
物語の舞台は近未来の地球。荒廃したその地に残された生き物たちは命の存続をかけ、一世一代の大バトルを繰り広げようとしていた。果たしてその対立の果てに和解は起こり得るのか。出演には、安住の地のメンバーである森脇康貴、日下七海、山下裕英、沢栁優大のほか、池浦さだ夢(男肉du Soleil)、古野陽大、金谷真由美の3名の客演を迎える。ダイナミックな種族間の争いを主軸に今の世にも通じる「多様性」や「共生」をもあぶり出す本作について、作・演出を手がける岡本昌也と私道かぴに話を聞いた。

生命のエネルギーがほとばしるオープニングの一幕。客演の池浦さだ夢を筆頭に俳優一人一人がその身体性を駆使してダイナミックな演出に挑む様に引き込まれる。 左から池浦さだ夢、沢栁優大、日下七海、古野陽大、森脇康貴
■京都が拠点の安住の地、東京初の単独公演へ

――本作をシアタートラム・ネクストジェネレーションに公募されたきっかけと、選出された時の心境からお聞かせいただけますか?
岡本 「応募しよう」って言い出したのは僕でした。東京で本公演をしたことがなかったのですが、有難いことに近年は東京のお客様からも「安住の地を観てみたい」とお声がけをいただくこともあったので、是非挑戦したいと思ったんです。選出の知らせを聞いた時は「よっしゃー!」ってすごく喜んでいたんですけど、いざ劇場の方と予算や規模のお話をしたり、記者会見をしていくにつれて、プレッシャーを感じて怖くなってきたというのが正直なところでした。ただ、稽古が始まった今は「全てを出し切るしかない」という心持ちでいます。
私道 私としては正直「まだ早いんじゃないか」という思いもあったので、選出された時はびっくりしました。かつてない規模の公演になるので、力が足りていないのではないかと不安になることもありますが、徐々に覚悟が決まってきたような体感があります。先輩方とお話する中でも「自分の実力がこれくらいだろうっていうところ以上のチャンスをいただいた時にどれだけ頑張れるかだよ」という励ましや助言をいただきました。
――安住の地は京都を拠点にこれまで活動されてきました。今回初めてその上演を観るという方も多くいらっしゃると思うのですが、結成のきっかけや、カンパニー名の由来、メンバーの編成にはどんな経緯があったのでしょうか?
岡本 カンパニー名には二つの由来があります。一つは命名した僕個人が山本直樹さんの『安住の地』という漫画が大好きだということ。もう一つは、集団創作をしていく中での足場という意味があります。我々が集まっていること自体が安住の地ということではなく、“安住の地を希求する人々”という意味合いで命名したんです。足場を踏まえてものを作ったり、物事に向き合える場所を探している人々、というイメージです。
――なるほど。たしかに安住の地は演劇を主軸に据えながらも、様々なアートやカルチャーとの融合を試みたり、ジャンルを横断したミクストメディアな表現活動を繰り広げています。個々の表現が集ったアーティストグループという趣も強く感じます。
岡本 最初は僕と代表の中村彩乃の2名で旗揚げをしたのですが、そこから中村と「一つの作家性に依存したり、一人の主宰に追従していくよりもいろんな作家がいてほしいよね」という話をしていたんですよね。そこで真っ先に「私道さん、何してるんだろう」って思って……。
私道 私は当時、社会人として働いていたんですよ。岡本とは大学が一緒だったので、交流自体はあったのですが。
岡本 学生時代に私道さんの演劇に出演したりして、すごく面白かったので、「あの人まだ演劇やっているのかな」ってなって……。
私道 やってないよ!(笑)
岡本 そう、やってなかったんです(笑)。最初にお誘いをした時は「もうちょっと話を整理してからきてください」って言われました。
私道 そうそう。会社帰りにサイゼリヤに呼び出されて、2対1で向かい合って、「お嬢さんを下さい」みたいなテンションで旗揚げの話をされて……(笑)。熱意はすごく伝わったんですけど、一体どんな団体で何をやろうとしているのかが最初は分からなくて。
岡本 資料も何も持たずに、熱意だけで行っちゃったんですよね。
私道 そこから、旗揚げ公演に役者として出演してみて、参加をするようになりました。まさかこんな場所で一緒に演劇をやることになる未来があるなんて当時は思いもしなかったですね。

■共同の台本執筆と演出、その強みをフルに活かして

――8月に京都で上演された『丁寧なくらし』は、私道さんの戯曲を岡本さんが演出された一人芝居形式でしたね。今作にも出演されるメンバーの山下裕英さんが身体と精神の連動をつぶさに拾い上げる姿が印象的でした。今回は台本の執筆と演出を共作で手がけられますが、その取り組みにはどんな強みや苦労があるのでしょうか?
私道 二人での共作は今回で3回目なのですが、周りからもよく「喧嘩しないの?」なんて言われます(笑)。なんで上手くいっているんだろうと考えた時に、やっぱり持ち味や得意分野が違うことが大きいのかなと思っています。今回の台本はGoogleのスプレッドシートにそれぞれが書いて、「ここを変えたい」とか「ここは任せたい」とかコメント加えたりして進めていきました。
岡本 元々今作で僕が出したプロットが「生き残りをかけていろんな種族が戦う大バトル」という設定だったんですけど、いざそれを世田谷パブリックシアターさんに選出していただいた時に「これで二時間の上演どうやっていこう、今のままでは10分しかもたん!」ってなったんですよね。
――なるほど。そこから改めて執筆に取り掛かっていたのですね。
岡本 争いを描くうちに現実の「戦争」にも通じることに気づいていったのですが、僕自身が戦争について語る言葉を持ち合わせていないと感じて、その途端に書けなくなったんです。キャラクター同士が技を使って倒し合うことを書いていく中で、「これって今の世界で起きていることと地続きだよね」っていう話になった時に完全に筆が止まっちゃって。その部分でまず私道さんにすごく助けられました。私道さんは沢山の文献を読んだりして、それらを元に「これについて語るにはこの文脈が必要だよね」っていう部分を細やかに挿入してくれているんですよね。
私道 逆にここは岡本に任せた方がいいと思う部分もあるんです。派手なシーンや、セリフの言い回しを面白くしたいところは岡本の得意分野なのでお任せして、細かく辻褄を合わせていくようなところは私が担当しています。そんな風に役割分担ができているのは共作する上でのやりやすさだと感じます。
――近未来の荒廃した地球というディストピア的な設定ではありますが、稽古を拝見するうちに身近な話でもあるかもしれないと背中を冷やすような瞬間もありました。そのバランスもお二人の共作だからこそ生まれたものなのですね。
岡本 このお話は確かに突拍子もない設定から始まるのですが、私には関係ない話だ、で終わりたくないとは思っています。楽しんで観ている中でふと、「これって全然遠い話じゃないんじゃない?」「自分の生きている世界の話でもあるのかも」っていうところまで持っていけるように日々創作を続けています。
私道 作品を通して見ると、ちょっと温度の違うシーンが二つくらいあるんですね。でも、それこそが、観客の方に密接に感じてもらいたいという切実な部分でもあって……。今日はその部分の稽古を重点的に行ったのですが、うまくいきそうだという手応えも感じました。
岡本 めちゃくちゃファンタジーの中に、普段の生活の半径5mで起きているようなリアルが突然入ってくるような感触なんですよね。まだ実験的な段階ではありますが、なんとか成立させられるように積み上げていきたいと思っています。

3人のキャラクターのさりげない会話によって、それぞれの立場や性質が露出していくシーンには綿密なトライ&エラーが重ねられていた。

――稽古を拝見させていただき、お二人の視点の違いは演出面にも活きているように思いました。お二人がそれぞれ演出を加えた後にシーンの印象が全く違うものに変わって、奥行きが生まれたように感じて……。演出面でも役割分担を意識的にされているのでしょうか?
岡本 細かく決まっているわけではないのですが、着眼点という意味合いでは住み分けが出来ているのかもしれません。僕はひらめきやアイデアで「この瞬間はこの人とこの人を交差させたい」とか「ここはダイナミックに見せたい」とか画的な魅せ方に目がいく。対して、私道さんは文脈や身体性をすごく見てくれていて、その身体の動きにいくまでに必要な辻褄や流れを汲み取っていてくれている気がします。
私道 大きいところは岡本がつけてくれるので、私は細かいところを見た方がいいのかなって、自然と分担されているような感じはありますよね。演出面では、岡本が全体に言及するのに対して私は俳優個人と話すことが多い気もしています。
岡本 時々意見が割れることもあるんですよ。でも、物事というのはいつも多面的なものだから、人間二人の視点があることは心強くはあるし、どっちの視点も踏まえたいという局面も生まれてくるんですよね。ただ、それを体現して下さる俳優さんにはある程度の方向性をお伝えしなくてはいけないので、その点で苦戦しているところはあります。

■馴染みのメンバーと心強い客演陣で挑む、新たな試み

――稽古では俳優さんたちの能動的な姿勢によって、お芝居がみるみる鮮やかに更新されていく様も感じました。
岡本 俳優さんがとてもアグレッシブなので、救われている部分はとても大きいです。今日も客演の金谷真由美さんとお話をしたのですが、台本の解釈を一つ一つ聞いて下さった上でアプローチを細やかに精査して下さっていることを痛感しました。安住の地のメンバーだけだと、5年の活動の中で共通言語がすでに出来てしまっていることもあり、心強い反面でそういった細かいやりとりがあまり起こらないという側面もあって……。
私道 それはすごくあるよね。今回はそういう意味でも挑戦な気がしています。
安住の地メンバーの沢栁優大、日下七海。舞台袖から自身の出番ではないシーンの流れを真剣に見つめる姿があった。

提案された演出を俳優の言葉によって変換させることで共通認識へとすり合わせる一幕も。シーンのうねりを牽引して体現する古野陽大の姿が印象的であった。 

岡本 メンバーもどんどん進化していて、今の稽古場はすごく刺激的だし、自分も俳優さんたちに追いつかなきゃって思いますね。芸術監督の白井晃さんとお話した時にも、新たな人たちと一緒につくる上では演出家も新たに言葉を獲得しなきゃいけない、ということをアドバイスしていただきました。初めての試みに挑む中で、これまでとはまた違う風が吹いているような感覚があります。
私道 いつもの稽古と違うところは本当にいっぱいあるよね。もう全然違うんですよね。白井さんは本読みも見にきてくださったんですけど、「茨の道を歩んでいるね」って言われました。そんな覚悟を胸に、しっかり苦しんで、一つ一つを乗り越えていきたいと思っています。
安住の地の見どころの一つでもある舞台美術と身体のユニークな連動を全身をフルに使って体現する森脇康貴。
――新たな試みに向かう上での苦悩や意気込みが伝わってくるお話の数々でした。これからさらに稽古は続きますが、開幕に向けてどんな展望を描いていますか?
岡本 今回の公演は、僕たちのやってきたことを見せる場ではない気がしていて、どちらかというと、僕たちも新しいことに挑戦する気持ちで挑むような演劇だと思っています。今まで扱えなかったテーマを通じて、これを描くときにどれくらいの覚悟がいるのか、それを見せものとしてどう成立させていくのか、ということを日々考えています。丁寧に、かつダイナミックに描く作品なので、正直反応が怖くもあるのですが、観客の方がそれぞれどんな感想を抱かれるのかも全部受け入れていきたいと思っています。どなたでもお越しください、という心意気で挑みたいと思っています。
私道 今回はたまたま我々が選んでいただけたのですが、作・演出を共作で行うことであったり、いろんな人の意見や視点が入った作品づくりをされるカンパニーは今後も増えていくと思うんですよね。だから、「こんな感じになるんだ」って気軽に観にきてもらえたら嬉しいです。私自身、めちゃくちゃ難しいことを考えられるから演劇を好きになったわけではなくて、「大人がこんな楽しそうなことしてるの?」っていうところに何より惹かれたっていうのがあるんですよね。そういった醍醐味が今作では実現できそうだと感じているので、大人が汗水流して走り回っている様子を楽しんでもらえたらと思います。
左上から時計回りに私道かぴ、山下裕英、岡本昌也、古野陽大、池浦さだ夢、沢栁優大、金谷真由美、森脇康貴、日下七海 写真/安住の地提供
取材・文/丘田ミイ子
写真/吉松伸太郎

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