【JIN】映像とリアルが融合したイベ
ント「二重スリット実験」とは?
GReeeeNをはじめ、数々のアーティストをプロデュース、さらに自らのユニットHigh Speed Boyzの活動を行なっているJIN。彼は4月6日にEX THEATER ROPPONGIにて『二重スリット実験』という不思議な名前のイベントに出演する。GReeeeN、自身のユニットHigh Speed Boyzに加え、kz(livetune)、八王子Pといったボカロ系、エレクトロ/EDM系の注目アーティストCTSなど気鋭のアーティストが出演する同イベント。彼らの共通点は“顔を売りにしていない”こと。リアルでもバーチャルでもあり、どちらでもないライヴイベント『二重スリット実験』に対する思い、JINが考える音楽ビジネスの未来についてのビジョンを語ってもらった。
取材:桂泉晴名
どんなきっかけから『二重スリット実験』というイベントに出演しようと思ったのでしょうか?
最近、GReeeeNを聴いている世代の人たちと話す機会を多くしているんですけれど、彼らはとても“耳の感性”が鋭いと感じています。アーティストの姿形はないのに、耳から入る曲や歌詞で「GReeeeNっていいな」と思ってくれている。GReeeeNに限らず、今の日本ではマスクを被ってやるバンドのように実体が分からないアーティストが増えていますよね。これは“良い音楽さえあれば、中身が誰がやっていても構わない”と感じている人が多くなってきているのかな?と感じています。もうひとつは、ITの進化によって情報が一気に手に入るようになり、全てデータとして残しておけるようになったこと。昔だったら音楽を演奏するにはリハーサルスタジオに集まって一緒に音を出していたけれど、今はその必要がなくなった。全てがクロスオーバーしていて混沌としている。新しいことと伝統が交わる時代。そんな中、“顔を晒す。顔を晒さない”ということは、面白ければ、いい音楽であれば関係なくなってきているんだな…と。そういう新しいアプローチを試しているアーティストを集め、さらにその場に、例えばヴォーカルが実態としては存在しないのに、ファンが“楽しい”と感じるイベントをしたいと思っていて。今回の『二重スリット実験』に出演することになりました。
確かに、今はあえて顔を出さないアーティストが増えていますね。
そういうアーティストの良さを理解する人たちは…僕が思うに…ですが、良い感性をしていると思います。このビジュアル重視の時代に耳だけで想像するわけですから、すばらしい妄想力、感性でしょう。確かに、ビジュアルは重要なもの。料理でも盛り付けは大事ですよね。でも、食べて目を閉じた時に、料理人の愛や素材のうまさが伝わってくる。僕はそういった感性を持った人たちも時代を作っていくひとつの流れだと思っているので、『二重スリット実験』はその数ある流れのひとつの代表例になっていくのかな、と思っています。
昨年GReeeeNの初ツアー『俺らレボリューション』が行なわれましたが、あのツアーも“メンバーはその場にいないけれど、お客さんが楽しめる”というひとつのライヴ形態の提示となったと思うのですが。
そうですね。これは価値観の問題でもあると思うんです。例えば、DJのイベントだったら音楽があるだけで盛り上がる。DJという『人』はいますが…でも、バンドとして考えると、例えばヴォーカルがいなくちゃいけない、という価値観がある。じゃあ、インストバンドは?同じくエンターテインメントならば、映画は? 娯楽って何? 音楽って?…と考えていってしまって(笑)。たぶん、ライヴというビジネスの中で形成された価値観でしかないわけですが…それこそテーマパークの着ぐるみだって、別に誰も中の人が誰だというのは気にしないですよね。エンターテインメントとしてちゃんと成り立っているんだったら。エンターテインメントとは思いませんでしたが、映像を使って実際いなくなった仲間の追悼ライブもありました。その時、僕は涙が止まりませんでした。そこには確かに涙する感動や想いがありました。
そうなんですね。
もしかしたら“人がそこにいるか、いないか”ではなく、“そこに温もりがあるか”といったことが重視されるようになっていくのでしょう。僕は自分の会社でさまざまな技術開発を行なっていきたいし、“あえて顔を出さない”GReeeeNの活動にその技術を生かしたりもしていますが、昨年のツアーをはじめとして、お客さんはとても楽しんでくれていた。もちろん時代のスピードもありますから、こういった考えが一気に広まるとは思っていません。ただ、方向性としてはこっちもあるだろうな、と考えています。
ところで、“二重スリット実験”というタイトルが気になるのですが。
二重スリット実験は1960年代に行われた“粒子と波動の二重性を示す”実験の名前なんですね。電子と言われる粒子は、人が観察しているか観察していないかで形を変えるらしいんですよ。そもそも電子というのは分子と同じように粒子として存在している、という概念で。電子は人が見ていないと粒子として振る舞うらしいんです。でも、人間が観測をすると、波になる。そして、人間が見なかったら、もう1度粒子になる。まぁ、物理学者ではないので完璧な詳しいことは説明できませんが、面白い事象ですよね。「この場所に来て実際に観ることで、あなたにとってこのライヴが形を変えるかもしれない。そして、これを面白いと感じたあなたは、別のあなたがいる未来を作るのかもしれないよ」というメッセージが入っているんです。
今回のライヴでは先端技術を導入するそうですね。
『二重スリット実験』は海外で言うところの“デジタルアート”と呼ばれる部門の音楽らしいです。映像とリアルが融合するから、観た人はすごく驚くと思います。すでにTwitterやLINEにアップしているんですけれど、今回のイベントのために変形ニューギターを作って、これもライヴで活躍します。さらにこのイベントを実施すれば、僕の後輩であるアーティストたちも「こんなライヴもありかもね!」と可能性を感じてくれる人もいると思うんです。そのために僕がチャレンジしたいのは、“考え方を提案する”こと。おこがましいことかもしれませんが(笑)、それは例えるなら相手におにぎりを渡すのではなくて、米の育て方やご飯の炊き方を伝えたり、作る場所を用意することなのかな。それができたら、後はみんな自由に活動をしていくはず、と新しい世代を信じる。今回はライヴの進化という形態で、未来のひとつを提案してみようかな、と。
『二重スリット実験』はこれから先の可能性を盛り込んだ、未来ライヴの提案なのですね。
全ての未来がそうなるとは思っていないんですけれど、ひとつのやり方として感じてほしい、と考えたので。IT技術はどんどん進化していますから、今は実験的でも5年、10年経った時には普通になってくるかも。たぶん2020年のオリンピックの頃には、『二重スリット実験』で提案した技術や演出は当たり前のことになっているでしょうね。
JINさんはGReeeeNを聴いている層、つまり次世代を担う人たちと積極的に触れ合っているそうですが、そこでどんなことを感じますか?
この間、19歳の子が「夢を追いかける人は心が貧しい人だ」とブログで書いていたんです。それで「あれはどういうこと?」と直接本人に訊いたら、「夢を追いかけている人は、夢中になっているから他が見えない。他が見えている人からしたら視野が狭い。だから、何かに夢中になっている人は心が貧しいと思ったんです」と言っていて。僕なんかは今の年齢になって音楽に夢中になっていたことで失ったものがあると実感しているのに、その子は19歳ですでに理解している。話を聞いて、今までの人たちと違う世代がやってきたかも、ということを感じました。
ものすごくしっかりした考え方を持っていますね。
海外では17歳でインフルエンザの新薬を発明した子供もいれば、13歳の男の子が原子力の実験を成し遂げたというニュースもあります。僕は時代が加速度的に進化しているととらえたい。ずっと悩みながらも情熱を持って歩み続ける若い奴らに、休むことを覚えた大人は勝てるはずがないじゃないですか。もしかしてその子たちはGReeeeNをどこかで聴いていただろうし、彼らの話を聞いているとGReeeeNの影響もあると信じたいが、逃げない子たちが増えたんだと感じています。僕らの時代だったら、受験勉強みたいに、人生の難問から逃げる、もしくは逃げたい…なんていったことが結構あったけれど(笑)、今は「逃げたってしょうがない。乗り越えようよ」と考える子たちが、すごく増えていると感じています。カッコいいですよね。
まさに、気になるイベントには直接足を運ばないと、体験というのはできない…という感覚ですね。
直接行って体で感じるから心が動く。体感と感動。そこに行き着くまでのストーリー。“自分が信じたものを観に行く。観てみたいと思ったものを観に行く”という行為を諦めない人を信じたい。簡単に行為を疑ったり罵りあうのではなく。やってみなくちゃ、行ってみなくちゃわからない事もある。例えば、道で募金をやっている人を見かけた時、心のどこかでふっと気持ちが揺れる。「募金をしてあげたい」「でも、その行為は嘘かもしれない」そのどちらの選択をするかで変わってくる。人生はその積み重ねでしょ? 『二重スリット実験』というイベントの告知を見た時に、「これは面白そうだから行こう」と思う人と、「何となくやめておこう」という人と「まったく理解できません」という人では、人生は変わっていく。それのどれが正しい、間違いではない。ただ、何事も“面白そうだ”とアンテナを張る人たちが、これからの鍵となる。僕はそう信じているんです。特に今年以降は。あたり前の事をしていたらあたり前の未来が来るだけ。言ってる事、変ですかね?(笑)
・・・
『are u docono Softpunk!?』
- 『are u docono Softpunk!?』
- VICL-63555
- 2800円
- 「愛すべき明日、一瞬と一生を」
- UPCH-80361
- 1080円
ジン:様々なバンドでのプレイヤー活動を経て、05年頃よりプロデュース業務を開始。オルタナティブROCKから、実弟のユニット「GReeeeN」等、様々なアーティストのプロデュースを行う。最近では「ゆず」の楽曲での共作、共同プロデュース等、クラブミュージック・スタイルでのトラックメイキングとバンド出身ならではの生音を使い、高いレベルで融合、レコーディング~ミックスまでマルチな領域を担う。DTMの時代を早くから捉え、生バンドのエネルギーを融合させた数々の作品を生み出した日本のトッププロデューサーの一人。また、自身のユニット「High Speed Boyz」でアーティスト活動を行う。 JIN LINE公式アカウント:スマートフォンで「LINE」アプリをダウンロード→「その他」→「公式アカウント」→「アーティスト」→「JIN(High Speed Boyz)」→「追加」
ハイスピードボーイズ:2008年1月に結成されたロックバンド。09年6月、詳細なプロフィールが明かされないまま先行配信された楽曲「BAD CITY」が着うたで異例のヒットを記録し、“正体不明の新人バンド”と呼ばれ話題となる。同年9月に1stシングル「CHILDHOOD’S END」をリリース。PVで初めてその素顔をみせ、エレクトロニックとロックを融合したハードかつエッジィなナンバーで人気を集めた。10年7月7日にアルバム『are u docono Softpunk!?』リリースし、その5日後の12日にclub asiaにて『1stアルバム発売記念サプライズライヴ』を実施した。High Speed Boyz公式サイト