【GLAY インタビュー】
メンバーの音がちゃんと
鳴っていなきゃダメだ
コロナ禍での鬱憤を晴らすかのように2023年はライヴ漬けのGLAYから、新曲と未発表曲を収録したEP『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』が到着。その制作背景を11月から始まるアリーナツアー『GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023-The Ghost Hunter-』の話と併せてJIRO(Ba)にうかがった。その発言からは、図らずも変わり続けるGLAYと変わらないGLAYが浮き彫りになったように思う。
作者のニーズに応えられるところまで
精いっぱい持っていく
前作「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」(2023年2月発表)のインタビューで、今回の『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』にHISASHIさん作詞作曲の楽曲が収録されることを予告された上で、“ベース的にはめちゃくちゃ超ムズです。演奏するのが怖いです”と苦笑いしていらっしゃいました。それが「Pianista」なのですが、確かにこれはベーシスト的には苦笑いだろうなと思いました。表現が適切じゃないかもしれませんが、忙しない曲だなと(笑)。
そうだ! “忙しない”だ! どう表現していいのか分からなくて、“面倒くさい曲”とか“ややこしい”とかっていう表現をしてたけど(笑)、これは“忙しない”ですね。
「Pianista」はメロディーに突飛なところはなく、ポップな感じですけど、リズムがかなり複雑ですよね。
今、アリーナツアー用にこの曲を練習しているんですけど、難しさのひとつの要因としてあるのが、打ち込みドラムの音域が軽くて芯がとらえづらいんですよ。生ドラムだったら、バスドラ、ハイハット、スネアってあるんですけど、「Pianista」の打ち込みドラムは全体的に重心がフワッとしていて、どこにベースを当て込んでいいのかが難しくて。なおかつ変拍子で忙しなくて、1番と2番のAメロのリズムの拍の取り方とかもちょっと違ったりして、その辺りもあって難しいんですけど、でも聴けば聴くほど、だんだんと理解できてきましたね。自宅レコーディングだったんで、何が本当に正解か分からないまま、ひとりで弾いてたんです。とりあえずクリックにも合っているし、ドラムのフェーダーをがっつり上げてベースと一緒に聴いて、“これで合っているな”って納品した感じで(笑)。その時にはまだヴォーカルの本データも入っていなかったんで、僕は全てが曖昧なままに弾いて、“とりあえず理論上は合っているから、これでHISASHIに戻そう”みたいな感じだったんですよね。
最初にこの曲をもらった時は“どんなふうにアプローチすればいいのか?”という感じでしたか?
そうですね。なおかつ、デモテープの音源もシンセベースだったんで、やっぱりエレキベースの音域と全然違うから、その辺でもベースの音符の長さのつけ方とかもちょっと混乱して、それもなかなか大変でした。
素人考えですけど、こういうベースラインって、例えばDJの人がリミックスで貼りつけたりするような感じで、生のベースで演奏するタイプではない印象がありますね。
たぶんそうです。「Pianista」の究極のオケのかたちは、ベースは生ではないんじゃないですかね。でも、GLAYの良いところって“メンバーの音がちゃんと鳴っていなきゃダメだ”っていうところで、そこはルールとして守ってくれていると思うんで、作曲者は“この曲の正解はシンセベースだからシンセベースでいきます”ってことを言ったりしない。だから、僕も精いっぱい作者のニーズに応えられるところまで持っていきたいと思うんです。
ギターもBメロからは結構細かく音符が並んでいる感じで、左手の指が細かく動いているでしょうし、右手のストロークも速いことは分かるんですけど、そもそもベースってギターとは奏法も違うじゃないですか。「Pianista」のMVでは“JIROさんばっかり動いてるな”という感じでした。
あははは。撮影はちょうどホールツアー(『HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost of GLAY-』)のファイナルの2日後くらいだったんで、身体がすごくライヴモードだったから動けたっていうのもあったんですけどね。
ベースが忙しなく、JIROさんにとってチャレンジングな楽曲だったという「Pianista」ですけど、今はツアーに向けてかなり肌に馴染んできた感じですか?
そうですね。音源に合わせてひとりで弾くのは、今は70点くらいまでできていますけど、バンドでやるとそこから50点くらいに下がると思う(苦笑)。やっぱりみんなのこの曲の把握度が違うところからスタートするので、最初はめちゃくちゃボロボロだと思います。でも、こういう曲こそ、“じゃあ、もう一回やろうか?”ってなるから、逆に仕上がりも早いんじゃないですかね。
では、「Pianista」以外の楽曲についてもうかがってまいりましょう。1曲目「Buddy」はホールツアーでも披露されていた楽曲ですが、音源で聴くとまた印象が違いましたね。こんなに渋いブラスが入るとは思わなかったです。
はいはい。「Buddy」は曲調のわりにはすごくテンポが遅くて、バンドで初めて演奏した時にすごい前のめりになったんですよ(笑)。確かテンポ100くらいなんですよね。ただ、前のめりになっちゃうんですけど、そこをグッと抑えながらグルーブを作っていくと、何かすごいハマる瞬間があって、日に日にそれを楽しめるようになってきたのかなって、ツアー中は感じてましたね。ブラスのアレンジに関しては亀田誠治さんだと思うんですけど、バンドだけで構築していく感じじゃないのは、やっぱり亀田さんのキャラ、人柄によるものがあると思います。TAKUROが提案したものなのか、亀田さんがやったものかは分からないけど。
誰の発案か分からないにしても、このブラスアレンジに亀田誠治さんがかかわっているのは納得するところではあります。ブラスはGLAYの楽曲でこれが初めてではないですけど、その入れ方がこれまでとは微妙に違う感じはしますね。
そうですね。今まではエッセンス的な感じで入れたのが今回は結構がっつりなので。
あと、全体通してこの楽曲はバランスが何か妙です。出だしの10秒くらいは最近流行りのシティポップの雰囲気を感じさせて、その後に楽曲全体にブラスが入ってきて、アウトロ近くでストリングスが厚めに入ってサイケデリックロックっぽくなるという。
アレンジに関してはTAKUROと亀田さんとで進めていったんで、僕はベースアレンジくらいしか関与してないんですけど、確かに曲調としては今までにない感じだと思いますね。
物語性のある歌詞は新鮮ではありましたけど、歌のメロディーはこれまでのGLAYから大きく変わらないし、HISASHIさんのギターはやっぱりHISASHIさんだなと思いました。“渋いなぁ”と思って少し驚いたんですけど、「U・TA・KA・TA」はさらに渋くて、その渋さに驚きました。
これはコロナ禍で外出自粛になってから、TAKUROが“黙ってても始まんないんで曲を作ろう”と言って、リモートで、みんなで音源を回しながら作っていった曲ですね。この頃、宅録で7曲くらい作ってたんじゃないですかね。
ドラムもいいですね。音色とオカズが完全に1960年代で。JIROさんには「U・TA・KA・TA」にそれほど意外性はなかったですか?
僕のイメージだと、ちょっとThe Beatlesっぽい匂いがするなと思って、“そんなに派手に作らなくてもいいのかな?”“テンションは低いままでいいか”という感じでした。
確かに、この楽曲にはアッパーな感じはないですね。TERUさんのヴォーカルもウィスパー調で、人生を達観しているようでも悲観しているようでもありますよね。50代にもなるとこういうのも出てくるのかと。
昔からたまにこういうのを作ってきている印象はあるんですけどね。まだ表に出てない曲にそういうのがあるのかな? なので、そんなに“これは難しいぞ”と頭は捻ってないですね。