2023年8月15日 at 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 撮影:スエヨシリョウタ

2023年8月15日 at 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 撮影:スエヨシリョウタ

【矢井田 瞳 ライヴレポート】
『矢井田 瞳「ヤイコの日」2023
〜ピアノとハーモニカと〜』
2023年8月15日 at
SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

2023年8月15日 at 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 撮影:スエヨシリョウタ
2023年8月15日 at 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 撮影:スエヨシリョウタ
2023年8月15日 at 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 撮影:スエヨシリョウタ
2023年8月15日 at 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 撮影:スエヨシリョウタ
2023年8月15日 at 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 撮影:スエヨシリョウタ
2023年8月15日 at 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 撮影:スエヨシリョウタ
 まず、矢井田 瞳様、ならびに倉井夏樹様(hmc)、河野 圭様(Pf)、鶴谷 崇様(Pf)、そして、スタッフ、関係者の皆様に謝っておきたい。
 舐めていて、すみませんでした!
 “〜ピアノとハーモニカと〜”のサブタイトルとおり、ステージ上にはヤイコ本人とピアノ、ハーモニカという構成。公式サイトには“ピアノとハーモニカという新たなアプローチで届けられる矢井田 瞳の新旧織り交ぜた色とりどりの音世界をステージ上のミュージシャンと作りだす“躍動感”を感じながらぜひ会場でお楽しみください”とある。しかし、そうは言っても3ピース。“ジャズアレンジか、ブルースアレンジ、あとはカントリーもあるかもしれない”くらいに考えていた。“いずれにしても、サザンロック寄りなんだろう”と高を括っていたのである。もう一度謝っておく。
 すみませんでした!

 この日の公演は筆者の怠惰で稚拙な想像の遥か上を行く、創造性に長けた素晴らしいコンサートであった。何と言ってもハーモニカである。こんなに奥深い表現ができる楽器であることを初めて知ったと思う。冒頭から“3人のわりには音が派手だな”と思っていたら、その変幻自在な音世界にどんどん引き込まれていった。“本当にハーモニカから出てる音なのか?”と倉井夏樹の演奏を注視することが何度かあった。ほとんど、あっけにとられたと言ってもいい。こちらが想像するハーモニカの音色に留まらず、ストリングス、ブラス、エレキギター、オルガンと、サウンドが変化していく。特に魅了されたのは、M5「モノクロレター」とM6「オンナジコトノクリカエシ」。M5では最初、弦楽奏のように鳴らされたハーモニカが間奏でサックスへと変わる。足元のエフェクターで音色を変えているのは分かるが、弦楽器と管楽器では節回しも違うわけで、言うほど簡単なことではなかろう。もとの演奏がしっかりしていなければ、あんなふうには聴こえないはずだ。M6では間奏がエレキギターの速弾きにしか聴こえなくて驚いた。あの細かな音符がハーモニカで吹けるとは!? その奏法の凄さに舌を巻くしかなかった。それ以外でも、M12「Not Still Over」ではハーモニカをヴォイスパーカッションのような使い方をしていたし、倉井夏樹の世界はまだまだ深そうである。後日、調べたら、彼は2018年にはワールドツアーを行なっているし、2019年には日本ハーモニカ賞特別賞を受賞されているとのこと。納得しかない。もちろん、彼のような新進気鋭なアーティストと共演を画策したヤイコの審美眼にも感服である。

 河野 圭の存在も見逃せなかった。獅子奮迅の活躍だったと言っても大袈裟ではなかろう。そもそもこの編成は、もとよりドラムのいない3ピースなので、ビートがないのは当然として、ベースもいないので低音を中心に出す楽器もない。サウンドの厚みではなく、奥行きを強調するのかと考えていた。しかしながら、極力オリジナルを忠実に再現するかのように真っ向勝負する楽曲も多くて、そこにも驚いた。ピアノもいわゆる上モノではあるものの、音域が広い分なのだろう。リズム隊も兼ねていたように思う。それだけでなく、足元にはバスドラムの代わりとなるフットストンプも備えていたので、しっかりとビートも効いている。後半のM13「Look Back Again」、M14「My Sweet Darlin'」のキラーチューンは、体感ではバンドバージョンと変わらないというか、オリジナルを大きく改編した印象がなかった。それは河野がボトムをしっかりと抑えていたからだろう。そうかと思えば、オリジナル版ではアコギ中心のM10「ゆらゆら」を、ピアノならではの綺麗な旋律でリアレンジするなど、本来の役割(?)もしっかりと見せる。M13では、このツアーで河野と共にピアノを担当した鶴谷 崇をゲストに招き入れて連弾も披露。事前の惹句どおりの“躍動感”を放つ。あと、これはピアノというよりは河野自身の働きだが、M12では一瞬ピアノを離れて倉井の目の前にあるウインドチャイムを鳴らしに行っていた。ヤイコとは古くからの知り合いであるものの、意外にも今回のツアーが初共演だったとMCで紹介されていた河野 圭。ヤイコが全幅の信頼を置いているピアニストであることは、そのサウンドからも十分に伝わってくる熱演であった。

 そして、ヤイコである。今回の編成に限らず、アコースティック編成になると、歌のメロディーもさることながら、彼女の声そのものを堪能できる。楽器が少なく、音の隙間も多いため、PAで他の音と一緒くたにならないからだろう。ある意味、“素”に近いかたちとなるわけだが、それによって彼女が本来、声と歌唱法だけで勝負するシンガーであることを、この日、再確認できたように思う。矢井田 瞳の歌はその旋律のキャッチーさ、親しみやすさで多くの人に支持されてきた。それは間違いないけれど、それと同等に彼女の歌声がリスナーを惹きつけてきたこともまた間違いない。フェイクというかビブラートというか、デビュー以来変わらない、彼女ならではの歌唱は、“シンガーソングライター・矢井田 瞳”の比類なきアドバンテージである。M4「さらりさら」の擬音が重なるサビが説得力を持っているのは、その歌声がシアトリカルだからだろう。M6「オンナジコトノクリカエシ」では歌詞が台詞調だからからか、その歌はシャンソンやミュージカルに近いように感じられた。そうしたヴォーカルの表現が変わる様子を聴いているだけでも十分に楽しかったことを記しておきたい。

 倉井夏樹と河野 圭を絶賛しておきながらこう言うのも何だが、個人的に一番の聴きどころは、中盤にヤイコ独りでの弾き語りで披露されたM8「speechless」、M9「fast car」だったと思う。“言葉にとらわれすぎず、その向こうにある可能性を信じることが大事”と制作背景を語ってから演奏されたM8は、まさにその言葉どおり、歌詞の中身以前にギターが鳴らすコードが興味深かった。和音が歌詞の行間を埋めているようでも、雄弁に語っているようでもある。アコギの弾き語りだからそれが際立っていたのだろう。最小限の伴奏であるがゆえにむしろ世界観が広がったような印象だ。トレイシー・チャップマンのカバー曲であるM9は、弾き終えたあとで本人は“緊張した”と言っていたけれど、その緊張感が良かった。当然、緊張もするだろう。M9はJ-ROCK、J-POPとは異なり、楽曲の展開で盛り上げていくのではなく、ループミュージックに近いというと語弊もあるが、循環コード多めで構成されているようなタイプである。バンド編成であれば、楽器が折り重なることで楽曲に強弱もつけられるだろうが、この日は歌とギターのみで抑揚をつけなければならないのだ。実際、その演奏のスリリングさが客席にも伝播し、ピーンと張り詰めた空気が場内を支配していたように思う。他のミュージシャンとでアンサンブルを作り上げるのもいいし、オーディエンスとの一体となって盛り上がるのもいい(本編の後半やアンコールがまさにそうだった)。だが、M9のような、こちらが食い入るように聴き入ってしまう演奏もまたライヴの醍醐味だ。今年デビュー23周年を迎えるシンガーソングライターの貫禄を見せつけられた気がする。

 さて、『矢井田 瞳「ヤイコの日」2023 〜ピアノとハーモニカと〜』の千秋楽をいろいろと振り返ってきたが、この公演で印象に残っているのはライヴで見聴きするからこそ良さが分かるものだったのだと、今になって思う。倉井夏樹の変幻自在のハーモニカ。河野 圭のピアノ(とそれ以外)による獅子奮迅の活躍。そして、ヤイコの歌の表情と弾き語りならではの緊張感。それらは全て生のステージでなければ体験できなかったことだ。3ピースというミニマムな編成であり、しかも、あまり他ではお目にかかれないメンバー構成であったがゆえに、未知を体験している感覚が強かったこともその要因かもしれない。SHIBUYA PLEASURE PLEASUREという会場の観客席とステージの距離感が良かったのかもしれないし、それらが合わさった効果もあったかもしれない。いずれにしても、生のステージならではの体験がそこにあったことは疑いようもない。いいものを観せてもらった。

 もっとも、コロナ禍で全世界の人が体験したように、さまざまな理由で当日にそこへ赴けないというケースもあるので、放送や配信、あるいは映像作品となったものを見聴きすることも、ライヴ体験とは別に重要なことであろう。ライヴに参加した人が“あの時の感動を再び…”と想い出を反芻することもできるだろうし、何ならモニターで見られるライヴは今や必須ではないかとも思う。この日の公演は9月30日にU-NEXTにて独占ライブ配信される。筆者はまだその映像を観ていないけれど、手持ちカメラを持ったスタッフが縦横無尽に動き回ってシューティングしていた様子からすると、かなり躍動感のある画となっていることは想像できる。ヤイコはもちろん、他のメンバーにかなり近付いて撮影していたこともあった。ということは、客席からははっきりと見ることはできない細かな表情などもとらえていると思われる。そこは映像のほうに軍配が上がる。今回のツアーに行けなかった人、行けた人、ともにU-NEXTの独占ライヴ配信も必見だろう。

撮影:スエヨシリョウタ/取材:帆苅智之


セットリスト

  1. 01.オールライト
  2. 02.地平線と君と僕
  3. 03.Everybody needs a smile
  4. 04.さらりさら
  5. 05.モノクロレター
  6. 06.オンナジコトノクリカエシ
  7. 07.shadow/alone
  8. 08.speechless
  9. 09.fast car
  10. 10.ゆらゆら
  11. 11.LOVESiCK
  12. 12.Not Still Over
  13. 13.Look Back Again
  14. 14.My Sweet Darlin'
  15. 15.Life's like a love song
  16. <ENCORE>
  17. 01.一人ジェンガ
  18. 02.駒沢公園
矢井田 瞳 プロフィール

ヤイダヒトミ:1978年大阪生まれ大阪育ちのシンガーソングライター。2000年5月に青空レコードより「Howling」でデビュー。同年7月に「B'coz I Love You」でメジャーデビューを果たし、1stアルバム『daiya-monde』はアルバムチャート初登場1位を獲得。2020年にはデビュー20周年を迎え、新曲のリリースやライヴの開催等、精力的にアーティスト活動を続け、2022年9月7日に12thアルバム『オールライト』をリリース。矢井田瞳 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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