堀込泰行

堀込泰行

【堀込泰行 インタビュー】
音楽的なチャレンジを含んだ
セルフカバーとして伝わってほしい

最近はイベントやフェスにも精力的に出演している堀込泰行から届いた新作『星屑たち』は、ソロや馬の骨、キリンジ時代から選曲したセルフカバー+新曲からなるEP。ピアノやドラムがいない編成ながら、アレンジの手腕で新鮮でオルタナティブな印象を与える仕上がりだ。もちろん名曲のエッセンスはそのまま息づいている。

小さい編成でも工夫次第で
面白い世界がちゃんと作れる

今回のEPを制作されたきっかけというのは?

もともとは『LIVE in the DARK』というプラネタリウムでのライヴで、僕がアコギと歌で、あとはガットギターとペダルスティールとウッドベースっていうちょっと変わった編成でやっていたんですよね。それの評判が結構良くて。最初はピアノと歌でやるのもいいなと思ったんですけども、どうせやるんだったら音楽的にちょっと自分でもチャレンジしたものがやりたいと思って、今話したような変わった編成になりました。

なるほど。

どういうところが変わっているかというと、まずピアノみたいなしっかりとした鍵盤楽器がいないっていうことと、リズムを司るリズム楽器がいないっていう意味で。で、ウッドベースとペダルスティールはフレットレスだから、音階を自分の耳で聴いて合わせる楽器なんですね。4人中2人がフレットレスっていう微妙にファジーな音程をはらんでいる楽器なので、そういった特殊性みたいなのにプラスして、プラネタリウムの星空の下で、しかも真っ暗闇の中で演奏したら面白いものができるんじゃないかと、そういうライヴを2年ぐらいやっているんです。いつかこの形態でレコーディングしてみたいということで、今回こういうかたちになりましたね。

これまでと違う発見はありましたか?

発見っていう意味だと、この編成でもできるんだなってことですね。工夫してやるとこういった偏った編成って、逆にその制約が面白い世界観を生むというか、変な宇宙を生むみたいな。それが音楽的に楽しいし、ミュージシャン的に刺激になったりする。全員がサボれない状況ではあるので。そういったいわゆる最小編成で自分の楽曲をやるっていうのは、ちゃんとアレンジを考えてやると結構広がりのあるものになるというか…もともとの心がけとしては、アコギ1本でも成立するような音楽を作ってはいるつもりなので、こういう小さい編成になった時も工夫次第で面白い世界が作れるっていうのは発見でしたね。

他のインタビューで拝見したのですが、“流行っている音”っていうのは“飽和している音”だとおっしゃっていたので、今回のアプローチはオリジナルで新しいものを作るための手段の模索のような気がしたんです。

そういうところもありますね。だから、この4人プラス何かっていうかたちで自分の曲をやってみたい気持ちも今回やってみて生まれましたし、今回は全ての曲に4人がかかわっていますけど、例えば僕の声と田村玄一さんのペダルスティールのエキゾチックな音色だけという極端なものもありだと思ったし。楽器数を減らしていってミニマムな方向に行くっていうことが、イコール音楽的な広がりがなくなるわけじゃないと分かったので、それは次に何かを作る時にすごく勉強になったっていうのはありますね。

今回の選曲理由はどういうところなんですか?

まず、新曲以外のものに関しては、「アメリカン・クラッカー」は特にですけど、この4人でやっていることの面白さがサウンドで表現できているものという理由で入れましたね。「スウィートソウル」とか「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」に関しては、単純に人気のある曲っていうところプラス、プラネタリウムのライヴでも評判が良かったので入れました。「だれかの詩」はプラネタリウムのライヴでやる前もバンドでやっていたりしたんですけども、プラネタリウムでやるようになってからは曲順的に最後にやることが増えて、そこからファンの間でももう一回人気が出たみたいなところがあって。なので、僕的にも個人的に気に入っていて、地味な曲なんですけど聴いてほしいなぁっていう気持ちがありました。

「アメリカン・クラッカー」の今回のアレンジは、千ヶ崎学さんのウッドベースの弓弾きや田村さんのペダルスティールがSEのように聴こえました。

そうですね。それぞれの得意技が詰まっているのが「アメリカン・クラッカー」かなって感じがしていて。ちがちゃん(千ヶ崎学の愛称)のウッドベースは弓で弾いていて、クラシックの奏法ですけども、こういうポップミュージックの中に入れると曲が先鋭的になるというか。この曲自体がちょっとユニークなタイプのポップスだとは思うんですけど、いい意味でオルタナティブになるんですね。どの楽器も特に斬新な楽器ではないし、昔からポップスの中で使われてたものですが、弾き方だったり聴き手の解釈の仕方だったりで、音楽がいかようにも面白みを増したものになる。そういうのは、やりようなんだなっていうのは、改めてこの曲をやってみて思いましたね。

オリジナルではゲームミュージックみたいな音でしたが、今回もペダルスティールが効果音的に聴こえるっていう面白さがありました。ジャンルっていうよりは宇宙感の置き換えというか。

うんうん、そうですね。宇宙感っていうところで言うと、玄さんのペダルスティールの役割もかなり大きいと思っていて。ペダルスティール奏者の上手な方はいっぱいいると思うんですけど、玄さんみたいにいろんなサウンドエフェクトをかませて、時折トリッキーな指使いでキラキラした世界を演出できる人っていうのは、まぁひとりしかいないだろうと。ありきたりな言い方ですけど、改めてすごい人だなぁって思いましたね。

「スイートソウル」は『GOOD VIBRATIONS 2』(2020年5月発表のEP)でLITTLE TEMPOとの共演もあったので、今回で3つ目のバージョンですね。

そう。これが3度目ということに何かすごく理由があるわけでもないんですけど。ただ、どのアレンジでも結果的に自分の曲は耐えうるようであってほしいなぁとは思っていて、例えばレゲエとかにリズムが変わったり、今回みたいな編成になったりした場合でも、ちゃんとその魅力が伝わる音楽であってほしいとは思っています。そういう意味では「スイートソウル」の3バージョン目ですけど、これはこれでこのバージョンが好きっていう人もきっといてくれると思いますね。

歌詞面の共通項としては星とか星座、銀河が登場する曲でもあり、物語がつながっている印象がありました。

そうですね。EPとはいえ、曲が5曲集まるので、やっぱり作品集として楽しんでもらいたいところが、僕ぐらいの世代だとやっぱりどうしてもあって。曲順で聴いた時も楽しめるっていうのは心がけたところではありますね。
堀込泰行
EP『星屑たち』

OKMusic編集部

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