ロイヤル・オペラ『フィガロの結婚』
~現在の私たちの社会に吹く“多様性
”の旋風を先取りしていたモーツァル
ト/『英国ロイヤル・オペラ・ハウス
シネマシーズン2022/23』第11弾

英国はロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)で上演された、ロイヤル・オペラ、ロイヤル・バレエ団による世界最高峰のオペラとバレエを、特別映像を交えてスクリーンで体験できる人気シリーズ「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23」。その第11作目は、モーツァルト作曲『フィガロの結婚』(指揮:アントニオ・パッパーノ 演出:ディヴィッド・マクヴィカー)だ。2023年7月7日(金)より、1週間限定にて全国公開となる。ここでは、家田 淳氏(演出家・翻訳家 洗足学園音楽大学准教授)の解説とともに、本作の見どころを紹介しよう。
(Figaro) Riccardo Fassi, The Marriage of Figaro  (c) The Royal Opera, 2021. Photos by Clive Barda
オペラ『フィガロの結婚』の原作はボーマルシェの同名戯曲。詳述すると、フィガロという男の登場する三つの戯曲(フィガロ三部作)ーー『セビリアの理髪師、あるいは、無用の用心』(ロッシーニが1816年にオペラ化)、『狂おしき一日、あるいは、フィガロの結婚』(モーツァルトが1786年にオペラ化)、『もう一人のタルチェフ、または、罪ある母』(ミヨーが1966年にオペラ化)のうち、シリーズ二作目にあたるのが今作である。
Giulia Semenzato (Susanna) The Marriage of Figaro (c)2022 ROH. Photograph by Clive Barda
このオペラを上演するにあたり、作品の本質に容赦なく切り込む演出家ディヴィッド・マクヴィカーは、ロココ絵画のような美しい舞台の上に、現代の私たちと何ら変わることのない問題や悩み、そして愛情を持てあまして右往左往する人々を描き出す。2006年に英国ロイヤル・オペラで初演されたこのプロダクションは、数ある舞台の中でも「決定版!」と言われるほどに、大評判となった。
(Figaro) Riccardo Fassi, (Marcellina) Monica Bacelli, (Bartolo) Gianluca Buratto, The Marriage of Figaro (c) The Royal Opera, 2021. Photograph by Clive Barda
その見どころについて家田氏は、「美術・照明・衣裳がきわめて美しく、大きな窓から取り込んだ明かりが、一日の時間経過を表しつつ、一瞬一瞬を絵画のように照らし出す。今回の再演の歌手の顔ぶれは若く、人物たちの実年齢に近くて、演技も達者」と述べ、さらに「指揮者・パッパーノと演出家・マクヴィカーは相性が良いようで、指揮者と演出家の作品に対するビジョンが必ずしも一致しない場合も多い中、音楽・演技の表現が完全に融合した舞台は、オペラの理想的な形」と言い切る。
Production photo of The Marriage of Figaro, The Royal Opera (c) 2022 ROH. Photograph by Clive Barda
そして、モーツァルトの代表的オペラとしての『フィガロの結婚』について「その新しさに驚かされる。賢い女性たちが手を組んで、セクハラ親父を懲らしめる物語。これは18世紀の #MeTooオペラ だ。こんなオペラはモーツァルト以前には存在しなかった」と評す。
Giulia Semenzato, Germán E. Alcántara, Gregory Bonfatti The Marriage of Figaro (c)2022 ROH. Photograph by Clive Barda
フィガロは一見、婚約者スザンナを守るために上司の伯爵に果敢に立ち向かうヒーローだが、実は作品中、フィガロの計画はいずれもほぼ失敗に終わる。彼だけではなく、スザンナに言い寄る浮気性の伯爵や、伯爵夫人に恋する小姓ケルビーノもしかりで、男たちはヘマばかりしている。状況を救うのはスザンナであり、伯爵夫人であり、スザンナの恋敵マルチェリーナ、スザンナの従姉妹バルバリーナといった女性陣なのだ。
Federica Lombardi (Countess Almaviva) Germán E. Alcántara (Count Almaviva) The Marriage of Figaro (c)2022 ROH. Photograph by Clive Barda
Production photo of The Marriage of Figaro, The Royal Opera (c) 2022 ROH. Photograph by Clive Barda

さらに、伯爵から、医者、召使、庭師・農民まで、あらゆる階層の人間が登場する。それぞれに性格描写が細かく人間味をもって描かれており、しかも中心にいるのは貴族ではなく召使のフィガロとスザンナである。
(Figaro) Riccardo Fassi and (Susanna) Giulia Semenzato, The Marriage of Figaro (c) The Royal Opera, 2021. Photograph by Clive Barda
これについて、家田氏は「完全な身分社会だったフランス革命前のヨーロッパにおいて、ここまで平民が中心になって活躍するオペラを作った人もモーツァルト以前にはいなかった。音楽的にも、全役の中で一番低い音を歌うのがフィガロで、一番高い音を歌うのがスザンナ。それ以外の人物たちは彼らの間にはさまれている形になっているという、小憎い仕掛けだ。伯爵夫人とスザンナには声が完璧に溶け合う手紙の二重唱を歌わせ、音楽によって身分の差を消している。つまりモーツァルトは多様性の作曲家でもあった。240年近く前に、現在の私たちの社会に吹いている旋風を先取りしていたとは、改めてモーツァルトの慧眼に感服する。」とモーツァルトの先見性について惜しみない賞賛を送っている。
Federica Lombardi (Countess Almaviva) Giulia Semenzato (Susanna) The Marriage of Figaro (c)2022 ROH. Photograph by Clive Barda
※家田 淳氏(演出家・翻訳家 洗足学園音楽大学准教授)『フィガロの結婚』解説全は下記URLにて閲覧可能です↓

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