集合的知性の音楽、Nonturnの2ndアル
バム「Jellybeans」
集合的知性から始まる音楽
2023年5月13日にイギリスはシェフィールドの老舗レーベルAudiobulb Recordsからデジタルリリースされた「Jellybeans」は、東京を拠点とするコンポーザーNozom YonedaのプロジェクトNonturnによる2ndアルバムだ。この作品は集合的知性をテーマに制作されている。
彼の言う集合的知性とはなにか
1980年代に経済学者ジャック・トレイナーが行ったジェリービーンズの数を予測させる実験は、集団の平均値が個人の予測折も正確であることを示したという。これにより集合知が多様な分野で活用されるようになり、現在ではウィキペディアからワクチン開発まで日常生活の至る所で見られるようになった。
Nonturnはそこから着想し、集団の知力を音楽制作に利用する方法を考えた。より賢い集団になるために必要な、意見の多様性、独立性、分散性、集約性の4つの要件を軸に、世界中の企業や個人が作ったサンプリング・ライブラリを広範囲のジャンルから60セット入手、その中から計500個のオーディオデータを用意し、それらの素材のみを使用して編集だけで音楽を成立させるという試みでこのアルバムの制作は行われた。
Nonturnはそこから着想し、集団の知力を音楽制作に利用する方法を考えた。より賢い集団になるために必要な、意見の多様性、独立性、分散性、集約性の4つの要件を軸に、世界中の企業や個人が作ったサンプリング・ライブラリを広範囲のジャンルから60セット入手、その中から計500個のオーディオデータを用意し、それらの素材のみを使用して編集だけで音楽を成立させるという試みでこのアルバムの制作は行われた。
Jellybeans
1stアルバム「Territory」では自分の足を使って集められたフィールドサンプリングのみを使って制作した非常にパーソナルなコンセプトだったのに対して、今作2ndアルバム「Jellybeans」は真逆に既成の様々な音源をもとに作られたなるべく多くの他者を扱ったコモンな作風になっている。同じAmbient作品でありながらも、音もやはり大きく変わっていて、前作はDubTechnoに近い都会的で灰色のコンクリートを彷彿とさせる音像を扱っていたにも関わらず、今作は音像的にも開かれ親しみやすく、明かりの差し込むカラフルに煌めくジェリービーンズのような作品だ。
ともすればサンプリング・ライブラリの波の中で溺れて、均され没個性的となってしまってもおかしくない量のデータを前に、長い期間向き合った結果、それは確実に個性を持って立ち現れた。
Nozom Yonedaは「1年間の作業期間を経て、全ての素材が使われた段階で、曲の構造が徐々に明確になり、具体的な音楽が浮かび上がってきました。それぞれ異なるルーツを持つフレーズの集合体から、未知のオリジナルのスタイルを持つ楽曲群が生成されはじめたのです。集合知が音楽性を持った個人のように働き、最終的には、これらの楽曲群がこの音楽アルバムとしてアウトプットされました」とこの作品が産声を上げた際のことを語っている。
彼がこのように自由に想像力を羽ばたかせて前衛的なコンセプトで仕事ができているのは、今年20周年を迎える老舗レーベルであるAudiobulb Recordsの懐の深さにもあるのかもしれない。Experimentalな音楽を中心とした作品を多くリリースするこのレーベルは、アーティストが創造的な表現の範囲を拡大し、新たな音楽的可能性を探求するプラットフォームを提供することを旨としている。この開かれた環境がNonturnを既存の音楽への桎梏から解き放ち、Jellybeansという作品を作れた要因の一つだろう。
さて、この作品が彼の意思を介在したからか、それとも本当に俯瞰した視点からこれらの集合知を見つめているうちに音が形を成したのかは不明だが、自己の音階的な発想を抑えてエゴを排除し、他者のアイディアの集合体であるというその音は、ある種のノスタルジーを伴って鳴っている。この作品を通して感じさせる20年前、2000年代のElectronicaを思わせる音楽は、それそのものが叙情的でノスタルジックである。昨年高く評価されたブルックリンのコンポーザーRachika Nayarや、フィラデルフィアのAmbientアーティストUllaなどの作品はまさにその2000年代の音を今鳴らしていた。それは見えない過去の憧憬であり、これから来る2000年代の再発見に繋がるひと綴りの連綿としたムーブメントの端緒となるのではないか、そしてNonturnのこの作品もそういった郷愁の音楽の流れの中に組み込まれて行くのではないか、と私は感じている。10年前に鳴って蒸気のように消えていったVaporwaveなどのジャンルが1980年代のシティポップを再発見して、あるはずもない架空の過去を構築したように、この作品によるPost-Rock、Electronicaの再発見は今後の音楽ムーブメントに新たな郷愁と光を差し込むのではないかと考えられる。
ともすればサンプリング・ライブラリの波の中で溺れて、均され没個性的となってしまってもおかしくない量のデータを前に、長い期間向き合った結果、それは確実に個性を持って立ち現れた。
Nozom Yonedaは「1年間の作業期間を経て、全ての素材が使われた段階で、曲の構造が徐々に明確になり、具体的な音楽が浮かび上がってきました。それぞれ異なるルーツを持つフレーズの集合体から、未知のオリジナルのスタイルを持つ楽曲群が生成されはじめたのです。集合知が音楽性を持った個人のように働き、最終的には、これらの楽曲群がこの音楽アルバムとしてアウトプットされました」とこの作品が産声を上げた際のことを語っている。
彼がこのように自由に想像力を羽ばたかせて前衛的なコンセプトで仕事ができているのは、今年20周年を迎える老舗レーベルであるAudiobulb Recordsの懐の深さにもあるのかもしれない。Experimentalな音楽を中心とした作品を多くリリースするこのレーベルは、アーティストが創造的な表現の範囲を拡大し、新たな音楽的可能性を探求するプラットフォームを提供することを旨としている。この開かれた環境がNonturnを既存の音楽への桎梏から解き放ち、Jellybeansという作品を作れた要因の一つだろう。
さて、この作品が彼の意思を介在したからか、それとも本当に俯瞰した視点からこれらの集合知を見つめているうちに音が形を成したのかは不明だが、自己の音階的な発想を抑えてエゴを排除し、他者のアイディアの集合体であるというその音は、ある種のノスタルジーを伴って鳴っている。この作品を通して感じさせる20年前、2000年代のElectronicaを思わせる音楽は、それそのものが叙情的でノスタルジックである。昨年高く評価されたブルックリンのコンポーザーRachika Nayarや、フィラデルフィアのAmbientアーティストUllaなどの作品はまさにその2000年代の音を今鳴らしていた。それは見えない過去の憧憬であり、これから来る2000年代の再発見に繋がるひと綴りの連綿としたムーブメントの端緒となるのではないか、そしてNonturnのこの作品もそういった郷愁の音楽の流れの中に組み込まれて行くのではないか、と私は感じている。10年前に鳴って蒸気のように消えていったVaporwaveなどのジャンルが1980年代のシティポップを再発見して、あるはずもない架空の過去を構築したように、この作品によるPost-Rock、Electronicaの再発見は今後の音楽ムーブメントに新たな郷愁と光を差し込むのではないかと考えられる。
Jellybeansは音楽だけではない
この作品57分の作品は一つのムービーとしても存在している。5月13日から9回に分けてMVトレーラーが公開され、7月15日にはフルバージョン、57分の映像作品として結実する。この車窓から映したようなモノクロの映像は、風景が徐々に変化していくさまが絵画的な渺々たる静謐さで貫かれており、彼自身がこの音楽に向けたストイックさ及び音像の様式と共鳴し、2つの幻想的なミニマリズムがビデオ・クリップの中で収斂することで美しく懐かしさを感じさせている。
Nonturn / Jellybeans
2023 / 5 / 13 リリース
収録曲
1. Wherever
2. Digress
3. Pedestrian
4. Eventually
5. Abandon
6. Opportunity
7. Struggle
8. Intention
9. Gratification
Jellybeans Nonturn
収録曲
1. Wherever
2. Digress
3. Pedestrian
4. Eventually
5. Abandon
6. Opportunity
7. Struggle
8. Intention
9. Gratification
Jellybeans Nonturn
Nonturn: Profile
Nozom Yoneda は、東京で広告やエンターテイメントの映像作品のサウンドトラックを制作している作曲家です。彼はトラディショナルなJAZZ理論を学んだ後に、クラブミュージックやドローンミュージックなどのコンテンポラリーな音楽のアーティストとして活動を経験しました。そのため、それらを融合させた現代的な楽曲を書くことができます。
Nonturn は彼のアーティストとしての名義ですが、ここでの彼は既存の作曲方法を放棄し、新たな技法を実験する姿勢をとることで、さらなる未知の領域を探索しています。1stアルバムの「Territory」では器楽を禁止し、100%がフィールドサンプリングによる素材で音楽を構築しました。同時に彼は壁面を撮影して抽象的なアートを制作する写真家としても活動をしています。
Nonturn Official Web サイト: https://www.nonturn.com
Instagram: https://www.instagram.com/nonturn/?hl=ja
集合的知性の音楽、Nonturnの2ndアルバム「Jellybeans」はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
Nonturn は彼のアーティストとしての名義ですが、ここでの彼は既存の作曲方法を放棄し、新たな技法を実験する姿勢をとることで、さらなる未知の領域を探索しています。1stアルバムの「Territory」では器楽を禁止し、100%がフィールドサンプリングによる素材で音楽を構築しました。同時に彼は壁面を撮影して抽象的なアートを制作する写真家としても活動をしています。
Nonturn Official Web サイト: https://www.nonturn.com
Instagram: https://www.instagram.com/nonturn/?hl=ja
集合的知性の音楽、Nonturnの2ndアルバム「Jellybeans」はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
アーティスト
ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。