斉藤和義

斉藤和義

【斉藤和義 インタビュー】
今回はアコギのロックアルバムに
したいと思っていた

“口がそう言いたいんだな”って
ものにはきっと意味がある

あと、歌詞に関してなのですが、まとめてしまうのも恐縮ではありますが、芯が一本通っていると感じたところでして。特に感じたのは“時間”です。“時”や“時計”などが目立つ。

出来上がってみるとそういうのが多いと思ったりは自分でもしましたけど、曲を作ってる時はさして気にしていなくて。“そういうモードだったんだろうな”って感じです。

先ほど『ザ・ビートルズ Get Back』の話が出てましたけど、このアルバムの制作時は何か振り返ったりするようなタイミングだったんですかね?

どうなんですかね? 意識的にはそういうつもりもなかったです。最近は歌詞も悩むんですけど、一回出てきたらそれには逆らわないというか。「問わず語りの子守唄」にしても最初からあのメロディーに適当な英語で歌っていたけど、《問わず語りの子守唄》っていうのだけは最初から口を衝いて出てきたから、“あぁ、そう言いたいんだな”と思ったし、そこから広げていく感じで、最近思っていたようなことをつらつらと書いていったら、《問わず語りの子守唄》につながると思ったから“じゃあ、それでいいや”って。あと、“時間”に関しても「君のうしろ姿」や「マホガニー」にそういう言葉が歌詞に出てきているけど、あの辺も“歌詞を書こう”というよりも、その作業場でダラダラ、グダグダやって、“もう朝だし、帰る前にでたらめな歌詞でもいいから一曲歌って録ってみよう”と思って適当に口を衝いて出てくる言葉のままに歌ってみて、のちにアルバムをまとめる時にそれを聴き返したら、“だいたいこれでできているな”と思って歌詞を文字起こしする感じだったんですよね。だから、何かを考えて“これを書こう”みたいなものよりは、口を衝いて出てたものをあとで自分で書き起こすと“あっ、こんなことを思っていたんだね”みたいな…うん、そうでしたね。

「マホガニー」であれば、メロディーに言葉を乗せた時、本当に《時計の針よ止まれ》という感覚があったな感じでしょうか?

そうですね。ほとんど日記みたいなもんっていうか。20数年くらい飼っていた猫が亡くなっちゃって、それに耐えきれずに新しい子猫たちをもらってきたりとか、ちょうど2022年モデルの新しいギターを買って“なかなか新品もいいな”と思って弾いていたり。

歌詞のまんまですね。

うん。近い時期に1930年代のギターも買ったりしてたんで、そのまんまだったりしますね(笑)。

本当に自然体というか、自然体以前の無意識化で出てくるような感覚だったんでしょうね。でも、それも分かる気がします。というのも、今回の歌詞は楽曲が違っても言葉がリンクしているんですよ。例えば「君の後ろ姿」に《泣いたら負けだって 教わってきたのに》とありますが、12曲目に“泣いてたまるか”というタイトルがあります。あと、「寝ぼけた街に」の《はしゃぎ過ぎた夏を それぞれ胸に抱いて/風の中へ飛び込むのさ》は、「Over the Season」の《夏の匂いが 少し名残惜しそうに遠ざかる》とつながっているようにも思いますし。

それはボキャブラリーがないだけじゃないですか(笑)。

そんなことを言うつもりはないです(苦笑)。無意識に自分の思ってることを素直にメロディーに乗せるとこういうことになるのかなと思ったところでもあります。つまり、全然狙って作っていないことが分かるという。

言葉が分散して出てくるというのは、言いたいことや思っていることはそんなに多くないし、テンポや曲調なんかが違っても同じ人から出てくるものは、そんなに違わないんじゃないですかね?

アルバムを繰り返し聴いて、“あっ、このフレーズ、また出てきたな”とか“今までは気づかなかったけど、これと似た言葉はさっきもあったな”とか、その辺はとても面白かったですよ。冒頭で“このアルバムは繰り返し聴いて楽しい”と申し上げましたが、それは歌詞に関しては圧倒的にありましたし、何度も聴いたら何度か発見があるんじゃないかという感じがしています。

もともと歌詞を書くのは好きじゃないんですよ。自分と向き合わなきゃいけないからすごく嫌だし、面倒臭いとも思うし。でも、締め切りは来るから(笑)、“そろそろまとめなきゃ”って破れかぶれで適当に歌ったりすると“あっ、これでいいじゃん!”と思えたりして。だから、物理的にこねくり回している時間がないというか。“本当はもっとうまい言い回しもあるんだろうな”とか、“韻を踏んだりするような面白さも、もっとこだわればできるのかもしれないな”とか、そういうことも頭を過ぎるんですけど、あんまり考えずにバーって出てきた“口がそう言いたいんだな”ってものにはきっと意味があるだろうし、そこを膨らましたほうがいいはずだって。それはタイアップの曲であろうと自分が普段作るものでも最終的には一緒で、タイアップがあってテーマがあったりすると多少はそこに向かっていこうという気持ちはあるけど…うん、そういう感じですけね。

その無意識で出て来るというのは理解しました。今回もうひとつ歌詞にかなり頻繁に出てくるワードとして“手”があると思います。《この大きな海もキミの手のひらの中》(「底無しビューティー」)とか、《もっとそばにおいで 手でも繋ごうよ》(「君のうしろ姿」)とか、《優しい手にそっと包まれて いつしか大人になった》(「Over the Season」)とか。そこは斉藤さんのヒューマニティという、体温みたいなものをすごく感じるところであって、とても素敵だと思います。

あぁ、そうですか。ありがとうございます。「泣いてたまるか」は一年前くらいにできて…部屋にアコースティックピアノが欲しいと思って、自分とちょうど同い年の古いヤマハのピアノを買って、それが届いて弾いていたら戦争が始まったんですよ。やっとコロナも終わろうかというムードになっている時に、“何してくれんねん!?”ってちょっと凹んだりもして。そこから今回のアルバムを想像し始めた感じもありましたしね。

国際紛争とか政治的な駆け引きとかではなく、普通に人と人が向き合うこと、文字どおり手をつないだりすることが無意識的に導き出されたのかもしれないですね。

そんな感じだと思います。“もう止めようよ”って感じが。だから、ベースにはダウナーな気分がずっとあった気がしますね。

確かに「泣いてたまるか」はちょっとダウナーでもありますよね。ポップではあるんですけど、明るくなりきっていないというか。

そうですね。歌詞がない時はTom Waitsごっこをして、ひとりで♪ウェイ〜とかやっていたんですが(笑)、そのうちに歌詞が付き出したらこうなったという。

「泣いてたまるか」に関して言えば、歌詞の内容を100パーセント理解してはいないし、正直に言えば“どう受け取ればいいんだろう?”と思っています。でも、これから何度か聴いて、それこそ何年後かもしれないし、またライヴで聴いた時かもしないし、そこで“こんな解釈もあるかな?”というふうに思える素敵な曲だと思っいて。その意味も含めて、もう一回言いますけど、この『PINEAPPLE』は繰り返し聴くことに耐え得るアルバムだという印象が強いです。

おぉ! 良かったです(笑)。

取材:帆苅智之

アルバム『PINEAPPLE』2023年4月12日(水)発売 SPEEDSTAR RECORDS
    • 【初回限定盤】(CD+GOODS)
    • VIZL-2030
    • ¥4,400(税込)
    • ※三方背ブックケース仕様
    • ※GOODS:30周年限定オリジナルBIGピンバッジ2種
    • 【通常盤】(CD)
    • VICL-65670
    • ¥3,300(税込)
    • 【アナログLP】
    • VIJL-60280
    • ¥4,290(税込)
    • ※重量盤
    • ※見開きポスター封入
    • 【ビクターオンライン限定セット】
    • (初回限定盤+斉藤和義×ギブソン×ルードギャラリートリプルコラボTシャツ)
    • NZY-10056
    • ¥8,800(税込)

『KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2023』

4/29(土) 千葉・市川市文化会館 大ホール
4/30(日) 千葉・市川市文化会館 大ホール
5/03(水) 熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
5/05(金) 福岡・福岡サンパレス ホテル&ホール
5/06(土) 長崎・長崎ブリックホール
5/12(金) 奈良・なら100年会館 大ホール
5/13(土) 和歌山・和歌山県民文化会館 大ホール
5/15(月) 大阪・オリックス劇場
5/16(火) 大阪・オリックス劇場
5/21(日) 山梨・YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
5/27(土) 栃木・栃木県総合文化センター メインホール
5/30(火) 広島・広島文化学園HBGホール
6/01(木) 岡山・岡山市民会館
6/03(土) 京都・ロームシアター京都 メインホール
6/04(日) 兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
6/07(水) 東京・NHKホール
6/10(土) 神奈川・神奈川県民ホール 大ホール
6/15(木) 北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
6/16(金) 北海道・苫小牧市民会館
6/18(日) 北海道・コーチャンフォー釧路文化ホール 大ホール
6/24(土) 秋田・あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
6/25(日) 青森・八戸市公会堂
6/27(火) 宮城・仙台サンプラザホール
6/29(木) 山形・希望ホール(酒田市民会館)
7/06(木) 新潟・新潟県民会館
7/08(土) 石川・本多の森ホール
7/09(日) 長野・長野ホクト文化ホール 大ホール
7/13(木) 三重・三重県文化会館 大ホール
7/15(土) 愛知・刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
7/16(日) 静岡・静岡市民文化会館 大ホール
7/22(土) 埼玉・川口総合文化センターリリア メインホール
7/26(水) 島根・石央文化ホール
7/27(木) 山口・KDDI維新ホール
7/29(土) 広島・ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ 大ホール
7/30(日) 愛媛・松山市民会館 大ホール

斉藤和義 プロフィール

サイトウカズヨシ:1966年6月22日(かに座)。出身地:栃木県。血液型:O型。93年8月にシングル「僕の見たビートルズはTVの中」でデビュー。翌94年にリリースされた「歩いて帰ろう」で一気に注目を集める。代表曲である「歌うたいのバラッド」「ウエディング・ソング」「ずっと好きだった」「やさしくなりたい」はさまざまなアーティストやファンに愛される楽曲となっている。自他ともに認めるライヴアーティストであり、弾き語りからバンドスタイルまで表現の幅は広い。また、自らの音楽活動に加え、さまざまなアーティストへの楽曲提供、プロデュース等も積極的に行なっている。また、11年には稀代のドラマー、中村達也とのロックバンド、MANNISH BOYSの活動もスタート。寺岡呼人、奥田⺠生、浜崎貴司、YO-KING、トータス松本と共に結成したカーリングシトーンズの一員としても活動しており、デビュー30周年を迎える23年は、4月に22枚目のオリジナルアルバム『PINEAPPLE』のリリースや全国ツアーの開催など精力的な活動が続いている。斉藤和義 オフィシャルHP

「底無しビューティー」MV

OKMusic編集部

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