【MOSHIMO インタビュー】
“化かし合うことをやめた
愛”を追求する一枚になったら
昨年8月より4人体制となったMOSHIMOがフルアルバム『化かし愛』でメジャーデビューを果たす。“夏を感じられるアルバム”というコンセプトを掲げ、岩淵紗貴(Vo&Gu)の赤裸々な恋愛観を綴った歌詞や、ポジティブなパワー漲るロックサウンドなど、彼ららしさが全面に出た今作について訊いた。
愛というものに向き合っても
いいんじゃないかと思った
『化かし愛』はリスナーに飛びかかるような勢いがあって、曲ごとの喜怒哀楽がはっきりしているのも聴いていて清々しかったです。手応えはいかがですか?
岩淵
今までリリースしてきたMOSHIMOの作品の中で一番の自信作です。その時々の気持ちを曲に詰め込めたし、リアルにあったことと勝手に空想して作ったストーリーのハイブリッドみたいな感じでできたアルバムだと思います。
「青いサイダー」は学生目線で綴られていて、空想で描いたようなロマンチックなストーリーが思い浮かびました。
岩淵
実際にあったことがベースになってるんですけど、《好きと言われた日に》と歌っている部分は“現実になったらいいな”と期待した未来を描いて、入れ込んだフレーズです。
前作アルバム『噛む』(2020年3月発表)は特にリアルな表現が多い印象でしたが、今作ではそのリアルさもありながら、映画のワンシーンのような要素も入っているのが素敵でした。タイトルの“化かし愛(化かし合い)”然り、日本特有の言葉がよく使われていたり、夏っぽさを感じる曲が多かったのですが、何かコンセプトはあったのですか?
一瀬
これまでも「命短し恋せよ乙女」(2016年9月発表のミニアルバム『命短し恋せよ乙女』収録)や「電光石火ジェラシー」(2019年3月発表のアルバム『TODOME』収録)もそうなんですけど、四字熟語やことわざを現代っぽくアレンジするのが好きなので、今回もそういうテイストで作っていった曲はあります。今はコロナ禍で季節の変化を感じづらいので、このアルバムを聴いて感じてもらえたらと、夏っぽい要素は意識しました。夏と言えばお化けということで、タイトルの“化かし愛”にちなんで、ジャケット写真にお墓を入れてみたり。今までは曲が先にできている状態で収録曲を選んでいくことが多かったんですけど、今作はアルバムの全体像が決まってから制作に入ったので、コンセプトも意識しながら曲を作っていきました。
収録曲「化かし愛のうた」もそうですが、今までは恋を歌った曲が多かったので、タイトルに“愛”が入っているのは新しいなと。
岩淵
“自分はこんな感じ”と決めつけちゃうのは良くないと思うんですけど、私って愛よりも恋のほうがしっくりくるというか。今までは単純に“好き”という気持ちが原動力だったから、恋はしても愛なんてよく分かってなかったんです(笑)。今だから言えるけど、相手に対する思いやりがあんまりなかったのかなと思う部分もあって。
その心境からどんな変化があったのでしょうか?
岩淵
コロナ禍というのもあって、自分なりに人として向き合うことがたくさんあったんです。恋愛を通して学ぶこともたくさんあったし、人から学ぶこともあって。そこには恋というレベルじゃなくて、ヒューマニズムとしての愛があると感じました。その愛はエゴとエゴのぶつかり合いでもあるし、リスペクトをし合っているのか、やさしさのぶつかり合いなのか…とか、すごく考えていて。まだ自分の原動力は“愛してる”よりも“好き”のほうがしっくりくるけど、人として成長するために愛というものに向き合ってもいいんじゃないかなという気持ちで使ったのかなと思います。
一瀬
あと、制作中に話していたこともあって。ライヴに来てくれるお客さんがよく恋愛相談をしてくれるんですけど、前は恋人同士だったふたりが別れていたり、結婚して今は夫婦になっていたり、お客さんから聞く話でも時間の流れや変化を感じているんです。MOSHIMOの楽曲も恋愛が軸にあるものが多いけど、「3年前に別れた彼はどっかの誰かと結婚したらしい。何とも言えない何とも言えない何とも言えない敗北感の歌」とか、昔一緒に住んでた人のことを歌った「蜂蜜ピザ」だったり、恋愛は恋愛でも表現に変化が出てきていて。今は好きって感情がなくても、一緒に過ごした時間がある人に対しては情が生まれるじゃないですか。その感情は一直線な恋ではなく、もっと人として相手を思う気持ちだから、愛情に似た気持ちに変わっている部分もあると思います。「命短し恋せよ乙女」は“好きになっちゃったかも”っていう世界観だったけど、今作ではそれが過去になった時の気持ちを書いた曲もあるので。
今作がメジャーデビューアルバムだから新しく変わったということではなく、今までの経験の積み重ねで、自然と“愛”という言葉が出てきたと。
岩淵
でも、MOSHIMOにとってのメジャーデビューはひとつの大きな節目なので、人と関わる中で“化かし合うことをやめた愛”を追求する一枚になればいいなっていうのは自分の中にありました。気持ちを化かし合う人たちとは一緒に制作しなくていいとも思ったし。ちょっとドライですけど、自分で取捨選択をしていく強さを持ったアルバムになったんじゃないかとも思います。