【安野希世乃 インタビュー】
美しい『ARIA』の世界に
溶け込むような作品になっている
声は出せなくても通じ合える気持ちを、
引き算の空間の中で手繰り寄せたい
想像が膨らみますね。では、もう一曲の「echoes」には『ARIA』シリーズとのどんなリンクが隠されているんでしょう?
「フェリチータ」がシリーズ全体の世界観を表した曲だとしたら、「echoes」は今回の『ARIA The CREPUSCOLO』のための曲という印象が強いですね。メッセージ性がとても明確で、完全に大切な“あなた”だったり、パートナーに向けて歌っているから、聴き手それぞれの中に思い浮かぶ人がいるんじゃないでしょうか。私の場合は脚本も読ませていただいていたので、映画に登場するアリス・キャロルとアテナ・グローリィとの関係性を思い浮かべながら歌いました。
パッと聴きはラブソングのようにとらえられなくもないですが、どちらかと言うと友情や絆の歌のようで。
それも大きな括りでは愛だし、恋愛じゃないって言い切る必要もないと思うんですよね。尊敬もしていて惹かれるし、背中を追いかけたいし、近づきたい気持ちもあるけど、あなたのままでいてほしい…みたいな。とても複雑な気持ちではありますが、広い意味での愛に手を伸ばしている歌ととらえていいんじゃないかなと。曲調自体は可愛らしくて、最初のほうは自分に自信がないがゆえのよちよち歩きな拙さも見えるのに、だんだん曲が盛り上がっていくにつれて、“あの人に近づきたい!”頑張りたい!”という想いから、しっかりと歩いていけるようになっていくんですよね。ひとりの曲からふたりの曲になっていくような展開に感じるんです。
最初はフォーキーな印象なのが、後半《想いよ響け》という歌詞でブレイクしてから一気に音数も増えて盛り上がるのに、歌声は朗々となるわけではないところにも何かしらの意図を感じました。
あくまでも「echoes」は呼びかけの声であってほしかったので、目指す先は手を取り合うことや調和だと思ったんですよ。背中を追いかけて認めてもらいたいけど、追い越したいわけではなく、目の前にして“いつもありがとう”と想いを伝えることがゴールだから、ひとりで突き抜けなくていいのかなぁと。
なるほど。そして、今回は歌う上での“buddy”ことパートナーとして、安野さんも所属するワルキューレのメンバーでもある東山奈央さんがコーラスに参加されていますよね。
ワルキューレ以外でも共演の機会が多かったり、アーティスト面でも宣伝担当のスタッフさんが同じだったりして、私にとって奈央ちゃんはすごく身近な存在なんです。人の良いところを見つけるのが本当に上手な女の子で…でも、自分にはストイックで努力を怠らないし、人として尊敬してる大好きなレーベルメイトですね。音楽プロデューサーさんが彼女のコーラス力というか、調和を導く歌声にものすごく信頼を置いていて、なおかつ私との関係性についても考えた上でお声がけくださったんですが、今回一緒に歌ってくれて嬉しい気持ちでいっぱいです!
コラボが決まってから連絡を取ったりは?
しました。私が先にレコーディングして、奈央ちゃんがそのあとにコーラスを入れてくれた時に、“希世さんの歌を聴きながら歌ってきたよ”っていう報告をくれたり。私もミックスに立ち会った際、いい音響で流れてるのを動画で撮って奈央ちゃんに送りつけたりしました(笑)。お互い忙しくてなかなか一緒に遊べないんですけど、私的には頻度じゃない…東山奈央さんは公私ともに尊敬している大事な人です!
まさに“会うスパンと心の絆は別”ってことですよね。ちなみに「フェリチータ」と「echoes」と、映画の絵がついた状態でも御覧になりました?
観ました! 「フェリチータ」は単体で聴いても多幸感のある曲になっていますが、この『ARIA The CREPUSCOLO』のオープニングとしてアニメーションを背負った時にこそ、究極の魅力が発揮される曲だと思うんです。『ARIA』の物語に触れるのが初めての方にも、世界観を全面に伝えられる曲になっていますし、「フェリチータ」を聴きたくなったら『ARIA The CREPUSCOLO』を観る!くらいの楽しみ方をしてほしいですね。「echoes」は本作のストーリーを全部観終えたあとに流れるので、そこでキャラクラーの関係性や伝えたかったことが、ギュギュッとひとつの曲にエッセンスとして染み込んでいることを実感できるんです。なので、一度観た人は「echoes」を聴いたら何度でも泣けてしまうかもしれませんね。
“CREPUSCOLO”はイタリア語で“黄昏”という意味ですし、観終えた時には温かな想いが胸に残りそうですね。
夕暮れ時に“今日もいい一日だったな、たくさん思いやりの交流ができたな”って噛み締めながら、温かい気持ちで聴いてもらいたい曲なので、“黄昏”というタイトルの本作のEDテーマにはぴったりですね。黄昏は幸せな一日の終わりの象徴であり、それは明日も続いていく…“一日一日を丁寧に生きよう! 今、隣で働いてる人に感謝の気持ちを伝えて一緒に頑張ろう!”っていう気持ちが、こうして話していても湧いてきます。
3曲目には既発曲のアコースティックカバーを収録するという初めての試みをされていますが、これは春に控える初のアコースティックライヴを見据えてのものなんでしょうか?
まさしくそうです! 今回のカバーに参加してくださった演奏家のみなさんが、今度のライヴでもバンドメンバーとしてステージに立ってくださるんですよ。もともとアコースティックライヴという形態のほうが、私が今までいただいてきた曲がいっそう輝くんじゃないかっていう想いもあって、選び抜かれた楽器と歌声だけで構築する生演奏のライヴを前からやってみたかったんです。それをフルライヴというかたちでやれるのは本当に贅沢だと思いますし、そこにいる人の出す音しか存在しない手作りの音楽空間で、みなさんを椅子に沈み込ませて、心地良く音楽を受け取ってもらえるようなライヴを作っていきたいです。
コロナ禍の今、むしろアコースティックのほうが好都合ですしね。
はい。声は出せなくても通じ合える気持ちというものを、引き算の空間の中で手繰り寄せたいというか、より感じられるライヴにできたらいいですね。そこで初めて私の音楽に触れる人にもたくさんお目にかかりたいですし、まだ生ライヴをバンバンやっていける状況ではないだろうから、2021年は想いが募るアーティストになっていきたいと思っております。会えない、会いたい、またあのライヴ空間に溶けに行きたい…って恋慕してもらえるように、丁寧な音楽活動を通じて丁寧に足跡を刻みながら、みなさんの中でひとつひとつが星のように輝く、そんな思い出を一緒に作っていけるアーティストになりたいです。
取材:清水素子