【Mili インタビュー】
Miliは好きなことを
やりたい人が集まっている
歌詞は自分の中で
プロパガンダなんです(笑)
分かりました。それでは、続いて「雨と体液と匂い」についてうかがいます。「雨と体液と匂い」はダイナミズムがある「sustain++;」とは真逆と言いますか、アンビエントな感じでありながら、リズムは若干シャフル気味で、何とも不思議な印象の楽曲でした。
Kasai
そうなんですよね。若干シャッフルさせている感じで…何なんでしょうね、あの感じは?(苦笑)
それを訊きたいと思ってます(笑)。
Kasai
ははは。僕の中で「雨と体液と匂い」のような楽曲のシリーズを…これは今まで口にしてないですけども、勝手に“サスペンス・シリーズ”と思ってるんです。昼間にやってる家庭向けのサスペンスドラマではなくて、ひと昔前にNHKの深夜帯にやっていた、ちょっと雰囲気のあるサスペンスのような感じをすごく出したくて。で、ちょっとミニマムにまとめ上げるんだけど、歌謡曲くささもあって、言葉選びは小説的な内容というか、ストーリー仕立てにするのが好きなんです。ただ、この「雨と体液と匂い」もそうなんですけど、“サスペンス・シリーズ”は言語化が難しくて、ああいうかたちになっているところもあるんです。昔、僕が個人で作った「考える脳の引き金」という楽曲があるんですけど、それなんかはまさにそうで。ペンションで、夕刻で雨が降っていて、ちょっと湿度が高い感じで、部屋には照明が付いていない…そのシチュエーションで殺人事件を起こした人はどんな人間か? どんな気持ちなのか? そんなことを考えて曲を作ったんです。
純文学的なサウンド…という感じでしょうかね?
Kasai
そう…ですかね?(苦笑) いわゆる純文学的なものではなくて、“サスペンス・ホラー”とでも言ったらいいですかね?(笑)
「雨と体液と匂い」に言語化しにくいものを音に換えている感じは確かにあって、歌詞からは明確な物語をうかがえないですけれども、サウンドで不穏な感じを醸し出しているというか。
Kasai
うんうん。ちょっと不思議な感覚になる楽曲だと思うんです。歌詞は写実的というか、具体的なんですけど、音を聴いているちょっとフワフワとして浮遊感があるという。かと言って、さわやかな感じはなく、薄暗くて怪しい感じがするというところを音にして歌詞を乗せたんですね。だから、音楽的にどう説明していいか分からなくて。たぶんああいうジャンルは…僕自身、ヒット曲の中では聴いたことがない(苦笑)。
「雨と体液と匂い」はアニメ『グレイプニル』のエンディングテーマですから、こう言うのは適切じゃないんでしょうが、失礼を承知で申し上げると、テレビサイズじゃない感じはしますよね。
Cassie
それに何かエロいですよね(笑)。歌い方もちょっとそこを意識してます。もともとキーがもっと低かったんですけど、それを上げて、ずっとキーが高い状態で、もっと雰囲気が出しやすいようにして。何と言うか…あやかしのエロさというか、昔の日本のホラ[q]映画に出てくるエロい女の人の幽霊みたいな。
妖しくて色っぽいというね。
Kasai
そういう妖しさ、妖艶さというのは、かなり意識したと思いますね。あと、さっき言語化できないと言ったんですけど、NHKで2000年に放送された『喪服のランデヴー』というドラマがあって。藤木直人さんが主演で、5話しかないドラマだったんですけど、このドラマを観ていただくと、たぶん「雨と体液と匂い」の世界観が掴めると思います。さっき言った“サスペンス・シリーズ”の曲はこれの影響がすごく大きいんです。
Kasaiさんの作風を知る上で『喪服のランデヴー』というドラマは格好なテキストなんですね。
Kasai
そうですね。“このドラマの雰囲気だよ”って言うと説明が早いと思います(笑)。
そこは強調しておきましょう。それでは、「Static」へと話題を移します。「Static」はクラシカルなサウンドで歌もオペラ調のナンバーで、Kasaiさんのルーツであるクラシックが色濃く反映されたナンバーと言ってもいいでしょうか?
Kasai
そうですね。『ゴブリンスレイヤー』シリーズのひとつの話の締め括りということをかなり意識して作りましたね。エンディング感というか、ひとつの冒険が終わった締め括りに相応しい楽曲になるように…ということで、ああいうかたちになりました。
「Static」はタイムを見ると3分半と決して長い曲ではないんですけどれども、聴き応え的にはまったく短くない。そこを面白く感じました。
Kasai
“この曲は長いんだけど、短く感じるよね”と、逆に“短いんだけど、長く感じるよね”というのにはテクニックがあると僕は思ってて、意図的にそういうことに挑戦するんですね。僕らのやっている音楽って、言ってしまえばプログレッシブじゃないですか。展開を短く、細かく詰め込んでいくと、3分の曲でも長く感じるんですよ。だけど、5分でA→B→サビを繰り返すと、体感時間って短くなるんですね。要は飽きさせないかたちというか、展開をツルツル変えていくと…人間の体内時計の関係なのか何なのか分からないですけれど、そのひとつひとつを濃密に感じて長く思えるんですよ。で、「Static」は3分半の曲なんですけど、壮大さを出す上では長さを感じさせないといけないから、ゆったりした感じで始まるんですけど、展開もしっかりとある状態なのでボリューム感があるんですよ。
しかも、「Static」はベースとドラムも入ってないですよね?
Kasai
これは完全にストリングスとピアノだけですね。
となると、他の楽曲に比べて音数は少ないはずなんですけど、その辺もほとんど感じさせませんね。
Kasai
それは弦楽を組む上で、ベースはリズムであったり、上モノはメロディーだったり、役割を与えているので…ピアノもそうなんですけど、リズム隊がなくてもある程度のリズム感はあって。当然ドラムがいる状態よりは難しいんですけれども、リズムを感じるようにはなっていますね。
Cassieさんはいかがでしょう?
Cassie
全体的にはクラシックなんですけど、サビだけでもキャッチーなメロディーを入れたくて…歌のメロディーだけで聴くとちょっとポップス感があると思うんですね。そういうところで聴きやすくしたというか、アニメのタイアップですし、覚えやすいメロディーがいいかなと。映画館で観て、そのメロディーが頭に残って、劇場から帰る時にいい感じの余韻があったらいいなって意識して。あとは、作品に合わせているところもあるんですけど、この曲にはコーラスワークがすごく合っていると思ってて、コーラスは結構濃厚になりましたね。
個人的には「Static」の体温を感じる歌詞がとても印象的です。《温もり》《ブランケットで包んでくれた》など、これは「sustain++;」の歌詞の話でも述べましたが、そこにしっかりとヒューマニティーがありますよね?
Cassie
…やっぱり思っていることを素直に書くほうなので、共通する思考、メッセージは絶対にあると思います。“この曲のメッセージはあの曲と同じものにしよう”って意識することはないんですけど、結果としてはそうなるようで、ファンの人からも“あの曲とあの曲にはこういうつながりがあるんじゃない?”みたいなことも言われますし。
Cassieさん自身、そもそも人間味を大切にしたいという気持ちがあるんでしょうね。
Cassie
単に雰囲気がある曲とか、ただ美しい何かを表現したくはなくて、絶対にメッセージを入れたいんですよね。ちょっと教育的? そんなふうに仕上げたいんです。
聴き流されるようなものにはしたくなくて、しっかりとそこにある意図を汲み取ってほしいということでしょうか?
Cassie
そうです。“私はこう思っていて、これが正しいと思っているから聴いて“という、ちょっと強いメッセージなんです。そういうことって言葉にして、例えばTwitterとかに書いて投稿すると、“それは違うよ! お前は何様だよ!”って思われることもあるじゃないですか? だけど、同じメッセージをきれいにまとめて曲に入れたら普通に受け入れられるんですよ。だから、歌詞は自分の中でプロパガンダなんです(笑)。
取材:帆苅智之
・・・
シングル「Intrauterine Education」2020年6月10日発売
FlyingDog
・・・
シングル「雨と体液と匂い / Static」2020年6月10日発売
FlyingDog
クラシカルなサウンドを土台に、幅広い作曲を手掛けるコンポーザーYamato Kasai、
天使の歌声を持ち、トリリンガル(3カ国語)で作詞も担当するカナダ人ヴォーカリストのCassie Wei、高度なテクニックでMiliの音楽を支える実力派プレイヤーのリズム隊Yukihito Mitomo&Shoto Yoshida、Mili の世界観を視覚的に表現するクリエイターのAo Fujimori の5名からなる世界基準の音楽制作集団。Yamato Kasai とCassie Wei が創り出す幻想的で物語性がある楽曲は聴いた者を一瞬で虜にする。全世界で大ヒットしている音楽ゲームアプリ「Deemo」に多数の楽曲を提供し、人気のアーティストとしてその認知度を広め、20年には世界的なSFアクションの金字塔として知られる『攻殻機動隊』シリーズ最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』エンディングテーマを担当するなど活躍の場をさらに広げていている。
Mili オフィシャルHP
「sustain++; (ending ver.)」
「Static」