『お囃子プロジェクト』望月秀幸&左
太寿郎が挑戦する、お囃子と洋楽のミ
ックスが新しい!

『お囃子プロジェクト』は、邦楽囃子(ほうがくはやし)演奏家の望月秀幸(もちづき・ひでゆき)と望月左太寿郎(もちづき・さたとしろう)による音楽ライブだ。二人はお囃子の魅力を伝えるべく、音楽ジャンルの垣根を超えた仲間とともに2010年より活動を続けている。2018年9月18日に開催される『お囃子プロジェクトvol.12』を前に、秀幸と左太寿郎が、都内で合同インタビューに応じた。
お囃子って何? という質問から、自主活動『お囃子プロジェクト』に取り組む理由、ライブの見どころを語った。伝統芸能ビギナーから、長年の歌舞伎ファン、日本舞踊ファン、さらにプロレスファンにもチェックしてほしいインタビューとなった。
パッときて気軽に楽しめるお囃子ライブ
——お囃子の基本的な知識から教えてください。お囃子の音はなんとなくイメージできるのですが、どのような楽器を使い演奏されているのでしょうか?
左太寿郎:僕らが演奏するお囃子は歌舞伎や日本舞踊等の舞台で活躍する「邦楽囃子」と呼ばれるお囃子です。主に使う楽器は小鼓、大鼓、締太鼓(しめだいこ)と笛。この4つの楽器を四拍子(しびょうし)と呼びます。そして四拍子をメインに、大太鼓を入れたり細かい楽器を入れたり、約50種類の楽器を使い分けます。
——50種類!
秀幸:洋楽(古典の「邦楽」に対し、五線譜で表せる西洋音楽の意味)のパーカッショニストが、色々な打楽器を使うのと似ていますね。違う点として、洋楽の方は曲の中で複数の楽器を持ち替え、右手でこれをやり左手シェイカーを振り……ということもされますが、僕らはやりません。お囃子は打つ姿を作法として見せるジャンルの音楽でもあり、基本的に一つの楽器だけを担当します。
望月秀幸。邦楽囃子を六世藤舎流家元藤舎呂船、望月太喜雄に、長唄を人間国宝杵屋五三郎に師事。2004年東京芸術大学音楽学部邦楽科邦楽囃子専攻卒業、2006年同大学大学院音楽研究科修了。
——秀幸と左太寿郎さんの、普段のご活動についても教えてください。
秀幸:二人とも日本舞踊の公演や邦楽演奏会などへの出演が活動の中心です。忙しくしているのですが、「いつどこで演奏しているの?」と本当によく聞かれます(笑)。活動はしているけれど、一般の方には伝わりづらい。この状況を打開してこうと考え、2010年にスタートしたのが『お囃子プロジェクト』です。
——『お囃子プロジェクト』をはじめてみて、いかがですか?
秀幸:始めた頃は、本当に何をしたらいいのかが分かりませんでした。演奏はできるけれど、ライブって何をしたらいいの?という状態。
——意外です。お二人とも幼少より稽古を続け、舞台での演奏経験も豊富ですよね?
秀幸:僕らは「技術が大事」という教育を受け、先生に褒められる演奏を目指し、日本舞踊の会ではBGMとして舞踊家さんが踊りやすい演奏を目指してきました。その反面、自分たちが主体となり、お客様を喜ばせようという演奏はやってきていませんでした。求められているものがそもそも違うんです。
これは友達であり、第1回のライブにも出てもらったニトロクン(パーカッション・プレイヤー)の言葉なのですが、「秀ちゃん、音楽で大事なのはここだよ」(胸をたたく)って。自主活動としてライブを経験したことで、その言葉の意味が分かった気がします。
古典曲からプロレス入場曲まで
——9月18日『お囃子プロジェクト vol.12』の会場は、ヤマハ銀座スタジオです。
左太寿郎:とてもいい環境の会場ですよ。銀座という場所も、お客様に喜んでいただいています。お酒もお召し上がりいただくこともできますし、カジュアルな格好でお越しいただいて全然大丈夫。自由に気軽に楽しんでいただける雰囲気です。
——ライブではどのような曲を聞けるのですか?
秀幸:古典曲はもちろん、洋楽やジャズ、オリジナル曲も。昭和歌謡などの懐メロとミックスする曲は、年配のお客様に喜んでいただけますね。
左太寿郎:オペラにも同じことが言えますが、古典の音楽を聞くときは、知識が少しでもあったほうが楽しめます。でも「お囃子プロジェクト」はパッときて、気軽に楽しんでいただけるライブです。お囃子や歌舞伎などの豆知識や裏話、演奏した曲のアレンジの意味合いも、ライブではトークでご説明します。
望月左太寿郎。邦楽囃子を望月左太郎、日本舞踊を父である二代目家元立花寿美造、長唄三味線を松永忠五郎、清元を清元志寿子太夫に師事。東京芸術大学音楽学部邦楽科別科終了。
——『お囃子プロジェクト』のチラシに、「マスターオブ着到」という曲が紹介されています。これは……。
秀幸:ライブでも人気の曲です! プロレスラー田口隆祐選手の入場曲「MASTER OF DROPKICK」と、歌舞伎の開演30分前に流れる「着到」をミックスしたものです。
左太寿郎:ちなみに「着到」は、もとは看板役者が楽屋入りしたことを歌舞伎座内に知らせることが目的の儀礼音楽でした。今では雰囲気作りもかねて、お客様が入る時間(=開演30分前)に流されている曲です。
——入場曲という共通点のある2曲をミックスされたのですね。
秀幸:お囃子には、曲に意味があるんです。歌舞伎で神仏系の役が登場する時はこれ。幽霊や動物が出てくる時はこれ。日本舞踊の喧嘩のシーンは祭囃子、など。プロレスで「この選手が入場するときは、この曲」と決まっているのと似ています。
——プロレスがお好きなんですね(笑)。
秀幸:好きです! 歌舞伎とプロレスは、共通点が多いんですよ。歌舞伎で役者さんが見得を切るときには、型がありますよね。プロレスにも型があります。この技で相手を倒したら、トップロープに上がり左右をみてキメポーズ、みたいな。歌舞伎もプロレスもエンターテインメントですから、共通する点が多いんですよね。
左太寿郎:……と思っているのは、秀幸だけです。
——(笑)。左太寿郎さんもプロレスがお好きで?
左太寿郎:いえ、興味ありません。僕が好きなのはサッカーです。
(一同、爆笑)
『お囃子プロジェクト』の曲作り
——曲作りやアレンジでは、どのような点にこだわりが?
秀幸:邦楽囃子のリズムをなるべくそのまま崩さず、洋楽(西洋音楽)とミックスさせるようにしています。洋楽のパーカッションやドラムでやるフレーズをお囃子で打っても、ただ楽器が変わったというだけで面白くはない。古典のお囃子のまま、洋楽のメロディとミックスできた方が面白いと思いますし、僕らも思いきり演奏できます。
左太寿郎:僕らから古典のベースがなくなったら、他のジャンルと変わらないものになってしまいます。古典というベースがあった上で、洋楽のミュージシャンの方々とライブをしていることが、僕らの強みかなと思っています。
胴の部分は筒状(3、400年前のもの! )。表と裏の2枚の革は、厚さ0.2㎜程度。緒を握る強さで音の高低を作るのだそう
——古典の曲と、西洋音楽のルールでつくられた曲。刻むリズムも違いそうですが、そのままミックスできるのですか?
秀幸:歌舞伎のお囃子は能楽から入ってきたものが多く、能楽のフレーズというのは八ツ割(やつわり)という8カウントで1セットの拍で構成されます。そこに僕らお囃子は、洋楽でいうバックビート(裏打ち)で入る。すると4ビート系の洋楽とお囃子は、けっこうきれいにハマる。偶数のリズムで刻むオーソドックスな曲は、すんなりミックスできるんです。
2拍3連や3拍子の洋楽をやる時も、お囃子のリズムは崩しません。パーカッショニストの方にブリッジになってもらうことでミックスさせます。なので本当にすごいのは、ゲスト出演いただくパーカッショニストの方々ということになります。(一同、笑)
左太寿郎:邦楽も分かるパーカッショニストの方々が、僕らがやりたいことのニュアンスを汲み、邦楽と洋楽の架け橋になって『お囃子プロジェクト』を成立させてくれるんです。
——そのおかげもあり、本格的なお囃子で、親しみやすいジャンルの曲を聞けるライブになるのですね。9月の『お囃子プロジェクト vol.12』を楽しみにしています。
秀幸:自主活動を経験したことで「技術もだけど、大事なのはここ(はーと)だよ!」って思えるようになりました。この経験を、今度は邦楽の舞台に出た時に、また生かせるようになれば、邦楽の舞台ももっと面白くなると思います。
左太寿郎:自分たちでライブを続けてきました。そして「ライブでお客様と向きあうことは、やった方がいいことだったんだな」と実感しています。銀座にいらっしゃるのとあわせ、フラッと『お囃子プロジェクト』に遊びにきていただけたらうれしいです。
秀幸:ライブの最後は、いつもみんなで明るく手拍子で盛り上がって終わります。曲の演奏だけでなく、楽しんでいただくための知識も提供し、皆さんに楽しんでいただけるライブにしていますのでぜひお越しください!
隙あらばプロレスネタをいれる秀幸。それにあわせる左太寿郎。
取材・文・撮影=塚田 史香

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