2年振りにソロ名義でのアルバム『Sphinx Rose』を発表する浅井健一。
深沼元昭(Mellowhead、GHEEE)のプライベートスタジオでの録音を中心にした新機軸の作品だけに、歌にも曲にもいままでにないベンジーが浮かび上がった。
取材:今井智子
部屋で録音したのは初めて 微妙なとこ
ろも追求できた
2年振りに浅井健一名義でのアルバムを発表しますが、ソロ名義とSHERBETSのようにバンドで制作するものとの違いは、どういったところですか?
そんなに意識しないけど、SHERBETSでやる時にはミラクルが起きる。でも、みんな大人になりすぎちゃって、やってるといろんな問題が生じてくるんだよね。
ソロとはいえ、ライヴではバンドで演奏するわけじゃないですか。2002年にJUDEを組んだ時も、当初は浅井健一のソロということで始まったものの、気が付いたらバンドになっていましたよね。今回もそういう可能性はあるのですか?
ソロ名義での良いところを教えてください。
自分が、その時に一番やりたいなと思うことがやりたい人とできる。
それが、今回は深沼元昭さんとやることだった?
深沼くんとは去年の秋に会って、上手く物事が運んで。最初に『SPRING SNOW』ができて、上手くいったんだ。その時に相性がいいんだなって思って。そうこうするうちに、どんどん曲ができた。
ということは、「SPRING SNOW」をきっかけに、今回のアルバムができていったのですね。
前回、シングルのお話をうかがった時にも“この曲を気に入っている”と、おっしゃっていましたが、それはスタートになった曲だったからですか?
どのあたりが?
リラックスした歌い方ですよね。
深沼くんのマンションの一室にあるスタジオで歌ってるからね。いつもはレコーディングスタジオでしょ? だから、気付かないうちにいつも以上に素の状態になった。
それは今までにはなかった感じなのですか?
あったと思うんだけど、そうだねえ…どこか力が入って歌ってる。昔は、そのままレコードになったというのは、何曲かあったと思う。SHERBETSを始めて、2枚目ぐらいからは、素の状態が表現できてると思う。今回の方が、より素になってるかどうかっていうのは比べようがないけど。
「光のスクリュー」のように、ファルセットで歌う曲も珍しいですよね。
そうだね。部屋の中で、すぐ近くに卓があってやってるから、何回もチャレンジしやすいし。微妙なところまで追求できたかな。
レコーディングスタジオと、距離感が違うことが歌や演奏にも反映されているんですね。
そうなんだよね。どっちがいいのか分からないけど。自分としては、部屋でレコーディングしたのは始めてだったから。両方とも好きだけどね。
そうした発見は歌だけじゃないと思うのですが。
ギターの音は、生に勝てない。けど、今回のは今回ので“冒険”という意味もあるし、音は好きだから。
バンドとは違ったことをいろいろトライアルができたこと自体も新しい体験ですね。
そうだね。俺の中では、すごくいいものができたと思ってるんだけど、広まり具合を見て、音がどれだけみんなに受け入れられるのか…。
珍しいですね、そういうことをおっしゃるのは。自分でも反応が読めないってことですか?
でも実際、このアルバムを好きな人はいっぱいいると思う。
きっとそうでしょう。浅井健一という人物が、リアルに伝わる作品だと思いますよ。
そうか…リズムが一定なんでね。今までは人間だから、リズムが少し変わるのがいいところもあるでしょ? リズムが速くなろうが遅くなろうが、胸に来るのがいいテイクだと思うから。今回はまったく…言ってみればリズムは完成されているから、そこで自分をどれだけ表現できるかが大事だった。
逆に、集中できるんじゃないですか?
歌にね。今までは、バンドのみんなが調子良くないとダメだった。俺が調子良くても、みんなが調子悪ければダメだし、逆にみんなが調子良くても、たまたまその時の俺の状態が悪ければダメだし。そこで、みんなが一致する時を探し求めるんだけど。そういうのにエネルギー使ってたけど、今回は歌の時は歌だけに、“歌をどれだけ素に近い状態で表現できるか?”そんな感じでやってたんじゃないかな。
なるほど。今までとまったく違うわけですね。
でも、バンドで録ったのもあるんだけどね。『チーズバーガー』と『COOLER』と『SENSATIONAL ATTACK』は、SHERBETSで録った。
よりバンドとの違いが具体的に分かる内容ですね。
アルバム全部をきっちりしたリズムでやるよりも人間味があった方が、聴く人も聴きやすいのかなと思って。
この作品は、打ち込み然とした音ではないから、そんなに気にならないと思いますけど、メリハリを付ける意味では面白いですね。
制作中に、バンドでも録音しようと?
うん。その方がカッコ良いと思うだろうとバンドでやったんだけど、それほどでもなかったね(苦笑)。今までたくさん起こってたミラクルが、あんまり起こらなかったから、ちょっと心配。
(笑)。それはタイミングとかもあるのでは?
友達は腹を割って話せる人 おらんかっ
たら寂しいし、大事だね
シングルになっている「FRIENDLY」と「Mad Surfer」は、どちらも友達とのことを歌っていますね。
このアルバム全体のテーマが“友情”なのかなと。
そういうのは毎回自分では考えてなくて、聴いた人が抱く気持ちでいい。これを聴いた人の力が沸いてくる方向に、元気が出る方向に、なればいい。そういうふうに聴いてくれればいいかな。
でも、“友達”は浅井さんの歌によく登場しますよね。浅井さんにとって友達とは、どういう存在ですか?
どういう時、どういう人のことを友達というのでしょうか?
やっぱり、腹を割って心から話せる人。本心をね。照ちゃん(照井利幸)とか。いろいろな時があるけど。JUDEの(渡辺)圭一は、友達だなと思った。最近、店を始めたらしいから、今度九州に行ったら行ってみようと思ってるし。
照井さんとは長い付き合いですよね。
うん。二十歳ぐらいから。しばらく音沙汰なかったんだけど、サーフィンやるようになって、照ちゃんに教えてもらうようになったから、また親交が深くなった。
サーフィンを始めたのですね。いつ頃から?
今年の5月ぐらい。サーフィンやると、別世界なんだわ。社会と全然違うところだから。それに、波に乗ると元気になる。照ちゃんとふたりで行くと、盛り上がるし。いい感じになるんだ。海に行って、波に乗って、帰って来る時とずっと最高。たくさん乗れた時はうれしいね。
教わってるということは、照井さんは相当サーフィンができるみたいですが。
照ちゃんは1年ぐらい前から始めて。すごいと思うよ、ひとりであんだけ乗れるようになったのは。根性あるよ。すごい体もできてるし。
以前からサーフィンには興味があったのですか?
興味はあったけど、なかなかやる機会がなかった。けど、この歳になって、照ちゃんがやってるから、俺もやる気になった。
その経緯が「Mad Surfer」に歌われたと。
まるで予知してたような(笑)。
そうしたことを曲に反映させていくと、曲作りは煮詰まったりもせず順調に進んだのでは?
結構大変だったよ。『SENSATIONAL ATTACK』とか、苦労したところもあるよ。
どういったところで?
こういう曲は得意そうなのに意外ですね。
得意なんだけど、サビのメロディーを探した。で、結局、これに落ち着いた。
メロディーと声が一瞬裏返る歌い方が印象に残りましたよ。あと、反戦の気持ちが歌われているようですが、こういことを歌に入れていきたいと?
偶然出てきたね。そういうことを入れていきたいとか、決め事みたいな考えはないけど。『ディスカバリーチャンネル』で兵器自慢みたいな番組があって。人を殺す道具を自慢してどうするんだろうと思って。恐ろしい世の中だわ。
男の子は戦争ものとか好きじゃないですか。
子供の時はね。大人になっても好きな人もいるけど、どうかと思う年頃になっちゃったね。
歌詞で苦労したというのは?
言いたいことがたくさんありすぎて、それを整理するのが大変だった。
歌詞で大変な思いをする時は、そういうケースが多いのですか?
そうでもないよ。この時はたまたまそうだけど、何も浮かばない時もあるし。
「Your Smile」のような曲を聴くと、そんな苦労は微塵も想像できませんでした。
この曲は人気度高いね。激しい曲の後だからホッとするんだね。こういう曲が、スタジオで作れちゃう。
その場で作れると?
うん。本当だったらスタジオで何度もチェックしてエンジニア呼んで、ってやるけど、深沼くんの家に自分の頭の中にある構想を持って行けば、そこでギター弾いて歌えばできちゃう。
考えたものが、すぐに具体的な音になるというのは、曲作りの理想ですか?
本当はメンバーみんなで、生の音でリラックスして曲録るというのが一番だと思うけど、時代が変わったんだね。
今後はこのスタイルで進んでいくのでしょうか?
それは分からない。こういった作り方もあるし、バンドでバーンとやるカッコ良さもあるから、両方あり得る。
この作品の曲をライヴでやるのは、今までと違ったものになりそうですね。深沼さんとのツインギターが新鮮な編成ですし。
ギターが2本でないと再現できない曲があるからね。それとコーラスワーク。深沼くんの人間性が、派手な人じゃないけど真面目で、俺は好きで。いいヤツなんだよ。ツアーは絶対カッコ良くなるから、観に来た方がいいよ。
- Sphinx Rose
- BVCL20009~10
- 3780円
アサイケンイチ:1990年~2000年までの10年間にわたるBLANKEY JET CITYとしての活動後、自主レーベル“SEXY STONES RECORDS”を拠点にバンドSHERBETS、AJICO、JUDE、PONTIACSやソロ名義で活動。音楽だけでなく詩や絵画の才能も注目を浴びており、独特なセンスで描かれた作品集を発表し個展も行なう。現在は浅井健一& THE INTERCHANGE KILLSとして活動中。浅井健一 オフィシャルHP