【Dew】日常を大事にする中で生まれ
た自然体のアルバム
その清廉なイメージを越えて、包み隠さぬ心の内を自由度を高めた音世界に乗せて紡ぎ上げたアルバム『SEASONS』。冨田ラボとの初タッグとなる先行シングル「CRY」を含め、ひとつ殻を破って進化した姿がここに刻まれた。
取材:竹内美保
アルバム『SEASONS』は全曲シングルにしてもいいぐらいの楽曲たちですが、今回のアルバムに向けて、どういうビジョンを描いていましたか?
清水
前作の『PRESENT』を出した後、“今、自分たちがしたいこと。これからしていきたいこと”を考える時間があったんですね。そこで思ったのが“日常を大事にして、その中でもう少しマイペースに音楽をしたい”ということだったんです。で、日常の中で人と触れ合ったりしていると、“アーティストとして頑張らないと!”という気負いがなくなって、より素直に音楽と向き合えるようになったんですね。だから、シンプルに楽しみながら、日常を大事にしながら、ゆっくり時間をかけて感じたものを詰めることができたと思います。
大西
純粋に音楽を楽しみたくて音楽をやり始めた…その原点に戻って、それを確かめながら作れた作品ですね。
清水
前作は“曲を通してメッセージを伝えよう”というところをピンポイントで集中していたんですけど、“何かの答えや意味を探し続けることを一回止めて、日常の小さな幸せを大事に思える自分でいたい。もうちょっと等身大でいい”と思えたんです。友達に“私、もっとしっかりせなあかん!”って言ったら、“あんた、自分が思ってるほどできた人間やないで”って言われたことで自分の器も分かったし(一同笑)。“そうや、ウチらには世界平和なんか歌われへんよな”みたいな(笑)。
大西
“でも、家庭の平和ぐらいは歌えるよな”って(笑)。だけど、それってどこかで大きな世界とつながっていると思うんです。そこで私たちが大事にできることを音楽にしていったらいいんだって思えたんですよね。
清水
だから、全部本音。自然体の曲たちですね。
視界がすごく開かれているし、見晴らしのいい場所に立っている印象を受けましたよ。あと、全体的に躍動感がかなり出ている気がしたのですが。
清水
今年の夏、いろいろなフェスに行ったんですよ。そこでリズムにただ揺られる、心が揺さぶられる感じを体感したので。そういうところでいろいろ刺激を受けたからかもしれませんね。
大西
それまではずっと“ピアノとヴォーカルの勉強のため”というスタンスで主に弾き語りのライヴを聴きに行ってたんです。でも、インストのバンド…SPECIAL OTHERSを観に行った時に、気が付いたら体を動かしている自分がいて。“こういう楽しみ方もあるんや!”と。別に“頑張れ!”っていう歌詞も何もないけど、ライヴが終わって会場を出た瞬間に“明日も頑張ろう!”って思える…それも音楽の力だっていうことが、すごく分かったんですよ。もちろん歌詞も大事ですけど、メッセージがあるかないかじゃないところにある音楽の良さに気付きながら作れたのが、良かったのかなと思います。
「勇気の力」の4つ打ちとか、Dewとしては斬新ですよね。
清水
この曲は応援歌というオファーをいただいて作ったんですけど、最初は歌詞重視で聴かせる感じだったんです。でも、気持ちを鼓舞するには何かが足りないと思って、それで4つ打ちを取り入れるかたちで作り直したんです。
大西
初めてやったのでどうなるか分からなかったんですけど、届けたいメッセージとこのリズムが意外としっくりきましたね。
もう1曲、面白かったのが「緑の小道」なのですが。間奏で鳴っているのはチェンバロですか?
大西
チェレスタですね。スタジオの古い倉庫から出してきて、“音、鳴るから入れよう!”って(笑)。この曲では小学校の音楽会以来弾いたアコーディオンも入ってます。
清水
この曲のアレンジはおもちゃ箱をひっくり返したイメージですね。楽しく、遊びながらできた曲です。
その一方では、「CRY」のようなヘヴィなものもあって。でも、この曲をシングルにすることはすごく意味がありますね。
清水
「CRY」は自分の弱い部分を見つめて、自分の本音を問いかけながら書いた曲なんですけど、今までの自分だったら最後で“さぁ、立ち上がろう”みたいな感じに持って行ったと思うんです。でも、ただただ悩む時、苦しんだりする時もある…それがきっと本音なんじゃないかと思って。それに、自分自身の弱い部分もちゃんと受け入れられなければ、誰かの背中を押すにしても相手を思いやって押してあげられないんじゃないかなっていうことにも気付いたんですよね。
大西
この曲を一緒に表現するってなった時に、私も自分自身と向き合う作業があって。その中で自分の意志を持ち続けることが何かひとつのスタートラインなんやろな、ということもすごく思えましたね。私自身としては。
清水
この曲、一番最後にできたんですよ。力を抜いて本音を歌った一連の曲から“もう一歩踏み出さないといけないな”と思った時の“もう一歩”が、この曲なんです。
大西
パズルの最後のワンピース的な意味がある曲ですね。
では、最後にアルバムタイトルを“SEASONS”にした理由を教えていただけますか?
清水
日々の小さな変化というのは、季節が与えてくれたりするじゃないですか。花が咲いたり、風の温度が少し変わったり。でも、がむしゃらになったり、一生懸命になったり、忙しく日々をすごしていると、季節が変わっていることにすら気付かない。そんな自分がいた時があって、“もうちょっと日々を大事にして、日々の小っちゃな変化を身近な人と喜び合ったり、共有し合える人でありたいな”という思いから、このタイトルを付けました。
大西
終わらない感じがいいな、とも思って…。
季節は毎年巡りますけど、でも違いますからね。
大西
ええ。アルバムの中には答えのない曲がたくさんあるので、きっと毎年聴くたびに印象が変わっていくだろうし、聴いてくれた方自身の自分の変化にも気付いてもらえるでしょうし。だから、ずっとずっと聴いてもらえる、そういうアルバムになってほしいなっていう思いも込められているんです。
アーティスト