【秦 基博】ひと言では言い尽くせな
い想いを歌に託して届ける

気持ちの裏も表も聴いてもらうことが、
シンガーソングライターとしての本望

2曲目の「サインアップベイベー」は一転してバンドサウンドで。ブルージーなロックでカッコ良いですね。

ラフなデモを作ったのは2013年の末頃だったんですけど、サビが気に入ってなくて、いつかサビを作り直そうと思って温めていたんです。それで「水彩の月」のカップリングをどうしようかと考えた時、そう言えばあの曲があったな!とピンときて。表題曲が静かなミディアムバラードなので、違う性格の曲がカップリングにきたらバランスがいいと思ったし、昨年は「ひまわりの約束」と弾き語りベスト『evergreen』を出したのもあってアコギ色が強い1年だったので、そろそろエレキとかロックな一面を見せてもいいタイミングかなと思って。

曲のテーマはネット社会に対する皮肉みたいな?

ネットに限ったことではないんですけど、何かと“同意”を求められる場面て多くないですか? それこそ音楽制作で使っているソフトに新しい音源を入れた時、何度も同意を求められて、いちいち段取りが多いし、すごく面倒くさかったんですよね(笑)。

ソフトウェアをバージョンアップすると、必ずそういう画面が出ますからね。

そう。でも、それって不安の裏返しなのかな?と思ったんです。何かがあった時に、それはそちらの責任ですよね?となってしまうのが嫌だから、いちいち同意を取って確認する。その背景には曖昧な信頼関係を許さない社会性があって、パソコンを離れて自分に置き換えても、何かをやろうとする時に周囲に確認を取って、何かあった時の責任を分散させている自分がいて…。そういうことって、曲になるんですよね。そこに歪みみたいなものが見え隠れすると、これは歌になるなって。それで“サインアップ”という言葉が、曲のモチーフに思えてきてしまって(笑)。新しくサビを作った時、“サインアップベイベー”という言葉がメロディーと一緒に出てきたんです。だから、それをどういうストーリーで“サインアップベイベー”と言わせようかを考えて作詞していった感じですね。

この曲は「水彩の月」とは違うメンバーで演奏しているのですね。

この曲はロックでも泥臭さみたいな男っぽい感じが欲しいと思ったので、ギターは八橋義幸さんだとか、それぞれミュージシャンのイメージが頭にあったんです。キーボードの野崎泰弘さんだけ初対面だったんですけど、いろいろなところから評判をうかがっていて、彼が手掛けた曲を聴いたら、ブルージーなものとかブラックミュージックが好きな感じが出ていたので、この曲に合うなと思って。

確かに、オルガンの音色がすごく効いています。

これまでの経験も大事ですけど、今回のような新しい出会いがどのように作用していいグルーブを生み出すのか、レコーディングは毎回楽しくて仕方がないです。

そして、3曲目「アイ~Acoustic Session with KAN~」はまた違った化学反応を引き起こしたものになりましたね。

はい。曲というのは一度レコーディングして終わりではないということを実感します。弾き語りでもバンドでも、ギターがピアノになったり、コーラスが付くことによってもイメージが変わったり、曲の新たな解釈も生まれます。この曲に関しては、KANさんからご自身の弾き語りツアーで、“今度カバーするからね”と、うかがっていて。実際にライヴを拝見したら、すごく素敵にカバーしてくださっていて感動したんですけど、“ツアーのどこかに歌いに来てよ”とお誘いもあって、その流れの中で“じゃあ、レコーディングもやりましょう!”と。

KANさんとレコーディングされたのは初めてですか?

いえ、KANさんが、くまモンの曲「くまモンもん」を作った時に、アコギを弾きに行ったことはあって。それを数えると、2度目ということになります。

実際にKANさんのピアノとコーラスで歌われてみて、どんな印象でしたか?

KANさんもおっしゃっていましたけど、「アイ」はアコギの歌なんですよね。アコギの特性がすごく出ているので、それをピアノでやるのは難しいと言ってたんですけど、そこはさすがですね。アコギのニュアンスをうまく取り入れながら、ピアノで弾く「アイ」の世界を構築されていました。ヴォイシングもすごく美しくて、KANさん特有のサウンドになっていましたね。

「アイ」の違った魅力が引き出されたのですね。

そうですね。サビをコーラスで聴かせたのも大きかったと思います。コーラスのラインもKANさんが考えてくださったのですが、とても切なさが増したものになりました。「アイ」はライヴでもたくさん歌ってきましたけど、何とも言いがたい初めての感触がありましたね。

ギターを持たずに歌ったことはいかがでしたか?

新鮮でした。コーラスは後で重ねましたけど、歌とピアノは“せーの”で一緒に録って。コーラスが入るところは目線を合わせて、アイコンタクトを取ったんです。ピアノできっかけを作ることもできるけど、あえて目を合わせたほうがいいねって。ちょっと恥ずかしかったですけど(笑)、まさしくスタジオセッションと呼べるレコーディングでした。

非常に多彩でギャップもある曲が並んだ、充実したシングルになりましたね。

次のアルバムにつながってくれたらいいなと思っています。曲調も歌詞のテーマもいろんな側面があるので、このシングルを入口にして、“こういう顔もあるのなら、アルバムも聴いてみようかな”って思ってもらえたら嬉しいですね。

「ひまわりの約束」でやさしくて温かいバラードのイメージが、色濃く付いていますからね。

確かにそうかもしれません。でも、僕の中にはいろんな音楽性があるし、やさしさとは違う感情が沸く時だってありますから。ずるかったり、冷たかったり。でも、そういう気持ちの裏も表も聴いてもらうことが、シンガーソングライターとしての本望なのかなと思います。

そして、現在はアルバムを制作中とのことですが。

絶賛制作中です。昨年弾き語りベスト『evergreen』を出していますけど、オリジナルアルバムは『Signed Pop』以来、2年以上も空いてしまっているので、頑張って作らないと。

さぞかし、曲も溜まっていることと思いますが。

いえ、それがそうでもないんで必死です(笑)。
「水彩の月」2015年06月03日発売AUGUSTA RECORDS/Ariola Japan
    • 【初回生産限定盤(DVD付)】
    • AUCL 178~9 2000円
    • 【通常盤】
    • AUCL 180 1300円
秦 基博 プロフィール

ハタ モトヒロ:1980年宮崎生まれ横浜育ちのシンガーソングライター。その類まれなる歌声は“鋼と硝子でできた声”とも称される。2014年8月リリース、映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌「ひまわりの約束」が100万DLを超す大ヒット。その後も『あん』『天空の蜂』とシングル3作連続で映画の主題歌を提供し話題を呼ぶ。15年12月16日に約3年振りとなる待望のオリジナルアルバム『青の光景』をリリースした。秦 基博 オフィシャルHP
Sony Music
秦 基博 オフィシャル Twitter
Wikipedia

OKMusic編集部

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