【秦 基博】デビューから10年、今歌
いたい歌、歌うべき歌

デビュー10周年を迎える秦 基博の新作「70億のピース / 終わりのない空」は、“今本当に歌いたいこととは?”と表現者である自分自身と改めて向き合い、生まれた2曲だ。至極のバラードと感情を揺さぶるロックナンバーで、何を問う?
取材:田中久勝

『Augusta Camp 2016 〜produced by 秦 基博〜』はデビュー10周年の秦さんプロデュースで、いろいろなコラボが次々と飛び出してお客さんは沸いていましたね。そこでも披露された新曲「70億のピース」は10周年記念シングルということで、いつもとは違うシングルを作ろうという姿勢で制作に臨んだのでしょうか?

10年経った今の自分が何を歌いたいのか、歌うべきなのか、何を表現したいのか、ということは突き詰めました。前アルバム『青の光景』を出して、シングル「スミレ」があり、11月からのアリーナツアーを控えたこのタイミングでのシングルというのもあったと思います。

「スミレ」はハッピーな王道ポップソングでしたが、「70億のピース」では“平和”をテーマに言葉が真っ直ぐに伝わってきます。普段から思っていることをこのタイミングで出さなければ、という感じだったのでしょうか?

今、一番表現したいこと…もちろんそれは日頃感じていることから生まれてくるわけですが、今回はそれがパッと浮かびました。ひと言で言うと“平和”ということなんですが、でもそれはとても大きくて、いろいろな解釈の仕方もある難しいテーマで。それを自分なりの言葉で、自分の手の届く範囲の中の表現として責任を持って描きたいという想いがありました。

今の社会って、全てのことにおいて見て見ぬふりという風潮が強くあるのですが、秦さんはしっかり向き合っていますね。

今はたくさん情報があふれていて、その中で何を選択すべきか、何が本当なのかがすごくあやふやで。今年は選挙が続いたり、熊本や大分の地震もあり、自分たちの日常がどうやって成り立っているのか、どのくらい不安定なものなのかを考えるタイミングが頻繁にあったと思うんです。ただ、それを毎日深く考えているというわけではなくて、どこかで引っかかっていたり、考え込む日があったりなかったり、そうやって自分の心の中に抱えていたような気がします。それを曲にしなければ、という感じはありましたね。

“70億のピース”というキーワードは最初に浮かんできたのですか?

わりと最初の段階で出てきました。自分の身近な風景から出発したいと思っていた時に、遮断機の前で立ち止まってる自分が思い浮かんだんです。その待っている時間って何をするわけでもないじゃないですか。ただ待つだけ、でも物思いにふけったり、いろいろ考える時間でもあって、曲の最初のシーンはここだなと思いました。そこからどこまで曲を広げられるのかを考えていた時に、“70億のピース”というキーワードが出てきて、いろいろな物語が見えてきました。

分かりやすい言葉で紡いでくれているので、スッと入ってきて自然と考えさせられるし、考えなければいけないと背中を押してくれますよ。

平和って人それぞれの価値観があって、でもその中で自分はこう思っている、こう願っているということを曲にできたらと考えました。だから、歌詞の中の《やっぱ 綺麗事かな》とか《ひとつに今なれなくても》という言葉も、希望として“ひとつになれる”と歌うこともできたのかもしれませんが、“ひとつになれなくても寄り添える”ということのほうが、自分にとってはリアルだったんです。

ウーリッツァー(エレクトリックピアノ)の音が水面に波紋が広がっていくように、いろいろな想いをじわじわ胸に広げていってくれました。

音が温かいですよね。独特のちょっと土っぽい音が、曲の雰囲気に合っていたし、あとはなるべく音数を減らしたかったんです。言葉が占める割合が、大きくならないといけない曲だと思ったので、演奏は必要最小限の音にしました。

今回のシングルは両A面ですが、映画『聖の青春』の主題歌の「終わりのない空」については?

映画を観て、原作も読ませていただいて、主人公の村山聖さんという人間と、その生き方を感じながら歌詞を書きました。サビにそのまま出ていますが、瞬間瞬間に命を燃やして生きていた方で、とにかく圧倒されました。でも、実は自分たちにも同じように言えることがあって、やっぱり誰もが瞬間瞬間を生きて、その積み重ねで人生が続いていっているんですよね。本当はその時々に命を燃やして生きていかなくてはいけないはずなのにと感じた時、村山聖さんと自分がどこかでつながることができたと思います。

曲全体に緊張感を感じるというか、聴き終わった後「70億のピース」もそうでしたが、何かを残してくれ、考えさせられます。

ヒリヒリさというか、力強さや、生きていく上でのいろいろなことがギュッと詰まっているといいなと。彼の壮絶な生き様だったり、勝負の世界の緊張感というか、それが曲のビートにつながったんじゃないかなと。

“たぎれ”という言葉が印象的でした。

信念があるのであれば、それを全部使い切れと村山さんに教えられた気がしました。それはもちろん病気を抱えていたり、死というものが他の人よりも近くにあって、だからこそ名人になりたいという想いに全てを注がれたというのはあると思うんですが。同じ状況で誰もが同じようにできるかというと、きっとそうはできない気がするので、そこに感銘を受けましたね。感情が揺さぶられて、それが曲になっていきました。

カップリングには『青の光景』にも入っていた「聖なる夜の贈り物」が2016年バージョンとして収録されていますが。

初めて作ったクリスマスソングなので、せっかく10月にシングルが出せるなら、もう1回、日の目を見させるというか、クリスマスに近いところで聴いてもらいたいなと思って。今回初回限定盤は『青の光景』のツアーのライヴ映像とセットになっていますが、春から初夏にかけてのツアーでこの曲を演奏するのに、ちょっと季節外れだなと思いながら歌っていたので(笑)。
「70億のピース / 終わりのない空」2016年10月19日発売AUGUSTA RECORDS/Ariola Japan
    • 【初回生産限定盤A(CD+Blu-ray)】
    • AUCL 207〜8 6480円
    • 【初回生産限定盤B(CD+DVD)】
    • AUCL 209〜10 5400円
    • 【通常盤】
    • AUCL 211 1300円
秦 基博 プロフィール

ハタ モトヒロ:1980年宮崎生まれ横浜育ちのシンガーソングライター。その類まれなる歌声は“鋼と硝子でできた声”とも称される。2014年8月リリース、映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌「ひまわりの約束」が100万DLを超す大ヒット。その後も『あん』『天空の蜂』とシングル3作連続で映画の主題歌を提供し話題を呼ぶ。15年12月16日に約3年振りとなる待望のオリジナルアルバム『青の光景』をリリースした。秦 基博 オフィシャルHP
Sony Music
秦 基博 オフィシャル Twitter
Wikipedia

OKMusic編集部

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