城 南海

城 南海

【城 南海 インタビュー】
これからの幅を
広げてくれる種になるアルバム

2023年にレコード会社を移籍し、それぞれの角度から城 南海の魅力にスポットを当てた配信三部作「柔らかな檻」「あなたへ」「愛の名前」を経て、いよいよ届けられるデビュー15周年記念アルバム『爛漫』。チームを組んで新体制で臨んだ作品のクレジットには、笹川美和、吉田山田、大石昌良、矢野まきの名前も並ぶ。そんな意欲作について語ってもらった。

『THE カラオケ★バトル』は
大きなターニングポイントだった

デビュー15周年になりますが、歌との向き合い方とか、自分にとっての歌の存在は変わりました?

私の歌を通して奄美の魅力を伝えたいと思って歌っている時にスカウトしてもらった流れがあるので、やっぱり最初はそれがずっとベースにあったんですね。

当時はシマ唄の魅力だったり、グイン(奄美大島に伝わる歌唱法で、こぶしのようなもの)を伝えたいと言っていましたもんね。

はい。そこから“自分らしさをどう出していくか?”という壁にぶつかって。

もともとプロの歌手になろうとは思っていなかったですしね。

そうなんですよ。だから、歌い手に徹しようと思っていたんですけど、島の言葉で曲を書いてほしいという機会をいただいたり、そういう経験をしていく中で、やっぱり自分らしさを出していかないといけないと思って。楽曲を書くこともそうですけど、自分の声を意識して歌うようになったりとか、より奄美を意識して歌うようになったし、奄美の歴史を知っていく中で、平和のメッセージをもっと楽曲に落とし込んでいきたいとか思うようになりましたね。あとは、そうやって外に向けてばかり歌っていたけど、自分と向き合って、自分の内側と対話して歌っていきたいとも思うようになって…それは今回のアルバムのテーマにもつながるんですけど。だから、“奄美の魅力を伝える”だけじゃなくなった気はします。

当初は奄美の魅力を伝えるために歌っていたけど、15年の活動の中でテレビ東京『THE カラオケ★バトル』に出演したことでカバー曲を歌うようになって、いろいろな曲に触れ、歌うことで意識も変わっていったでしょうね。それこそ『one』(2019年12月発表)というチャレンジングなアルバムも出したし、ディズニー実写映画『ムーラン』の日本版主題歌「リフレクション」を歌唱とか、本当にいろいろやってきましたし。

『one』ではロックにもチャレンジしましたからね(笑)。なので、どれもやって良かったと思っています。

そんな15年の中で何が一番思い出深いですか?

やっぱり『THE カラオケ★バトル』ですね。大きなターニングポイントだったと思います。自分では全然そういうふうには思っていなかったけど、“奄美代表”って言ってもらって、グインで歌うっていうことで島の人にも喜んでもらえるから100点を取るために頑張った…音楽は点数ではないんですが、島のみんなの喜ぶ顔が見たいし、奄美の良さを伝えられると思って頑張っていたので、それですね。そこでお客さんもすごく広がっていったし。いろんなカバー曲と向き合って、1曲を何百回も練習していたし、その中でどういうふうに自分らしさを出すかってところで、いろいろ鍛えられましたから。

それによって歌の上達もそうだし、いろいろ曲を歌うことで引き出しも増えたでしょうしね。そして、レーベル移籍があって、配信三部作「柔らかな檻」「あなたへ」「愛の名前」があるわけですが、この三部作はアルバムを見据えて?

アルバムを見据えたものではあるんですけど、実はもう1曲あって。これらの曲は全部歌詞が先にあったんですよ。「柔らかな檻」の歌詞に松本俊明さんがメロディーをふたつ書いてくれて、今の「柔らかな檻」が採用されたんですけど、もうひとつのメロディーもすごく良かったので、それに歌詞を乗せたのが「もらいもの」なんです。だから、最初に4曲あったんです。3作目の「愛の名前」を作っている時に、並行してアルバムも作っている感じでしたね。

先行して出す配信曲について、作家さんにはどんなオーダーを出したんですか?

前のレーベルでは曲によっていろんな作家さんに提供してもらっていたんですけど、同じ方と一緒に向き合って、チームとして作っていこうというのが、まずあったんですね。それでリリックプロデューサーとして山田ひろしさん、楽曲は公私ともに仲良しの松本俊明さんのおふたりとやっていきましょうと。過去に「アンマ」(2013年11月発表のシングル「チョネジア 〜天崖至睋〜」カップリング曲)という曲を書いていただいたおふたりなんですけど、その時は山田さんとはお会いできていなかったんですが、今回はちゃんと奄美料理屋さんでもお話しして(笑)、私のいろんなことを知ってもらった上で書いてもらいました。それで最初にもらったのが「柔らかな檻」だったのでびっくりしたんですけど(笑)。特に“こういう感じで〜”みたいな話もしなかったので、たぶん俊明さんが私の幼少期の思い出とかいろんなことを話してくださったんだと思います。“南海ちゃんはこういう想いでやっていて、こういう人なんで、みんな協力してね!”ってディレクター陣に言ってくれてましたし(笑)。その中でも三部作は“愛の歌”というのが柱としてありましたね。

なるほど。確かに!

はい。これまでは平和とか愛とか、わりと大きなテーマの曲が多かったので、次は内面と向き合ったものにしたいっていうのは、最初にディレクター陣の方たちと話し合いました。“こういう感じはどうかな?”と悩みつつ作っていった感じですね、「柔らかな檻」は。そこから「あなたへ」「愛の名前」はいい感じでできていきました。

「あなたへ」「愛の名前」は南海ちゃんらしい曲ですからね。だから、第一弾として「柔らかな檻」を聴いた時は驚きました。

私もびっくりしました(笑)。暗いというか、痛いというか、聴く人によってはつらく思うかもしれないから、本当に受け取り方が広い曲だと思います。

そういう曲を南海ちゃんが歌うことで、やさしい歌声に温かく包み込まれるような感覚になるから、それでこの曲が第一弾なのかなと思いました。

そう思っていただけて嬉しいです。歌詞の《うるさいな》のひと言にしても、いろんな意味にとらえられるじゃないですか。だから、“こういう曲です”と細かくは言わずに投げかけるみたいな。自分の中には自分の正解はあるんですけど、それは伝えずに発信しましたね。

聴いた人自身が曲と向き合うことで、もうその人の曲になりますからね。

そうですね。いろんな感想をいただいたので、“この人にとってはこうなんだ!?”っていうのが怖くもあり、面白くもありました。

でも、そのあとの「あなたへ」「愛の名前」で通常モードに戻るというか(笑)。

はい(笑)。安心というか、「あなたへ」はもう俊明さん節も出ているし。

「愛の名前」はBEGINの島袋 優さんが作曲ですしね。

BEGINさんと同じディレクターさんというご縁もあり、山田さんの歌詞はあったので、“優さんに曲をお願いしようと思うんだけど”って言われて。ずっと沖縄と奄美の線引きというか違いを出したかったんです。“奄美らしさを出さなきゃ!”って意気込んでいたんですけど、活動をしていく中で…沖縄と奄美は仲間だし、兄弟みたいなものなので(笑)、もう奄美らしさは伝わっているから、今のタイミングだったらいいなと思って、優さんにお願いして、この2分半の曲ができました。

曲って長さじゃないって思いますよね。しっかりと残るので。

本当にそうですよね。メッセージがシンプルで、確固たるものがあって、優さんらしいメロディーがついたことで、その懐かしい感じによって自分もナチュラルになれて、島のエッセンスも自然に出てきました。
城 南海
アルバム『爛漫』

OKMusic編集部

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