「放課後のブレス」

「放課後のブレス」

【数土直志の「月刊アニメビジネス」
】劇場映画がなくても拡大中「ポケモ
ン」アニメの戦略

「放課後のブレス」(c)2023 Pokémon. (c)1995-2023 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.姿を消した「劇場版 ポケモン」
 ここ数年、国内の劇場アニメが好調だ。「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」から「君たちはどう生きるか」までヒット作が次々と世を賑わす。なかでも近年の大きなトレンドに定番作品の好調がある。毎年、あるいは数年ごとに新作公開するシリーズ作品である。「ワンピース」や「ドラゴンボール」「名探偵コナン」とテレビシリーズから展開するのが特徴だ。
 この定番映画がここにきて、ますます興行数字を伸ばしている。1997年以来、毎年公開する「名探偵コナン」の最新作「黒鉄の魚影(サブマリン)」はシリーズ26作目で初の100億円の大台、それも138億円超えというメガヒット。昨年の「ONE PIECE FILM RED」は、再上映も含めて200億円超えとこちらも驚異的だ。「クレヨンしんちゃん」も、初の3DCGが話題になったシリーズ31年目「しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~」が過去最高を記録した。
 定番映画の好調のなかで、長年、そのひとつに位置づけられていた「ポケモン」が2020年を最後に劇場に姿を見せていない。1998年から続くシリーズだけに、その不在が際立つ。
 当初はコロナ禍の影響とも見られた。20年の「劇場版ポケットモンスター ココ」はコロナ禍の影響で通常の7月公開から12月公開に移動。間隔が詰まりすぎる21年に新作がないのは分かるが、それが22、23年と続く。こうなると路線変更か、とも感じさせる。
 実際に「劇場版 ポケモン」は、17年以降、新しい戦略を模索していた。17年の「キミにきめた!」はテレビシリーズとの連動を初めて外して劇場のオリジナル展開を採用した。18年の「みんなの物語」は人気のアニメスタジオWIT STUDIOが制作に参加、19年の「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」は過去最大のヒット作「ミュウツーの逆襲」のリメイクで初の3DCGといった具合だ。
 こうした試みにも関わらず、12年以降、他の定番映画に比べて伸び悩んでいたポケモン映画の興収は大きな反転をみせていない。そこで一度、劇場作品を休んでみる選択になったのかもしれない。
テレビ・劇場の外でも広がるポケモンアニメの世界
 劇場興行の伸び悩みの理由はどこにあったのだろう。作品パワーの衰えをまず思い浮かべがちだが、まったく逆でポケモン人気はなくなるどころか近年は絶好調だ。16年にサービスを開始したアプリゲーム「ポケモン GO」のヒットは記憶に新しいし、22年11月発売のゲームソフト「ポケットモンスター スカーレットバイオレット」は販売本数が2000万本超え、トレーディングカードの売上も好調だ。イベントもどこも満員である。
 このますます広がるポケモンワールドのひとつに、テレビや劇場以外を中心に展開するショートアニメの増加がある。実は劇場映画の公開がない一方で、ここ数年こうしたポケモンのアニメ・映像作品は、とてつもなく増えている。一覧にするとこんな具合だ。
【2020年以降の主な「ポケモン」関連のアニメ・映像作品】
2020年
・「薄明の翼」 制作:スタジオコロリド、FILMONY
・「POKÉTOON」 制作:ダンデライオンアニメーションスタジオ、マジックバス、パンケーキ、スタジオコロリド、mimoid、StudioGOONEYS
・Pokémon Special Music Video 「GOTCHA!」 制作:ボンズ
2021年
・「Pokémon Evolutions」 (2021) 制作:OLM
2022年
・「"A Ripple in Time" by Pokémon × Daniel Arsham 」 制作:OLM
・「ポケットモンスター 神とよばれし アルセウス」 制作:OLM
・「ビッパ、キミにきめた!」 制作:TAIKO Studios
・「雪ほどきし二藍」 制作:WIT STUDIO
2023年
・「マルジャナイ島のシカクなポケモン!?」 制作:白組
・「Pokémon めざせ Catch ’Em All」 MV(Night Tempo Official Mashup)
・「PATH TO THE PEAK 頂へのきずな」 (2023)  制作:TAIKO Studios
・「放課後のブレス」 制作:WIT STUDIO
・「名探偵ピカチュウ ~華麗なるモーニングルーティン~」 制作:ポリゴン・ピクチュアズ
・「ポケットに冒険をつめこんで」 実写ドラマ
・「ポケモンコンシェルジュ」 制作:ドワーフ
 制作会社も通常シリーズのOLMだけでなく、ボンズやスタジオコロリド、白組など、さらに海外スタジオまで、制作手法もCGやカートゥーン、コマ撮りとバリエーションに富む。MVのような短い作品から「PATH TO THE PEAK 頂へのきずな」のような本格的なシリーズもある。
 作品はファンから好評で、よく見られている。松本理恵監督でボンズが制作したBUMP OF CHICKENスペシャルミュージックビデオ「GOTCHA!」の再生数は7500万回を超える。このPVが劇場公開に匹敵、あるいは上回るファンへのリーチをもっていることが分かる。23年12月28日からは、ドワーフが制作するストップモーションアニメーション「ポケモンコンシェルジュ」がスタートするが、独占配信するNetflixの契約会員数は世界2億4000万人超だ。こうした作品は話題づくりだけでなく、本格的な映像展開のひとつなのだ。
キャラクター戦略としてのポケモンアニメ
 これまでのアニメはおなじみの主人公サトシとピカチュウを中心にすることが多かった。一方、新しい作品では、他のポケモンやキャラクターを中心に据えることが多い。サトシとピカチュウの物語と思われてきたポケモンのイメージ転換が図られている。
 映像を伝える手段もネット配信を中心に多様化し、そこから届けるストーリー、ポケモンも広がっているというわけだ。いろいろなキャラクターの人気が広がれば、キャラクターライセンスの割合も大きなポケモンビジネスにとってもありがたい。作品の寿命も伸ばす効果もあるだろう。
 「ワンピース」や「ドラゴンボール」「名探偵コナン」などのようなマンガ原作のアニメは、複雑で奥行きのあるストーリーが展開し大人層を取りこむことができる。
しかしゲーム中心の「ポケモン」は大河ストーリーを語るというよりは、キャラクターを打ち出すことに注力する。これが劇場アニメで、観客の年齢をなかなか上に伸ばせない理由である。
 キャラクター推しであるなら、長編ストーリーよりも短いエピソードを重ねるほうが認知は築きやすい。あらゆるデバイスで手軽に視聴されるアニメ戦略は、成功を収めつつある。
それでも期待される劇場版
 もちろん今後も劇場映画で「ポケモン」という戦略はあるはずだ。その時に大きな成功を目指すなら、もっと大胆にゲームから離れて、深いストーリーを語ることが必要でないだろうか。そうすれば今度はショートアニメで取りこみきれない大人層をキャッチできるかもしれない。
 作品誕生から27年、かつてのポケモンファンだった大人が見たくなる「ポケモン」にも大きなニーズはあるはずだ。これにはすでに成功例がある。ハリウッドで制作された実写映画「名探偵ピカチュウ」である。ちょっとシニカルなピカチュウはファンを驚かしたが、映画は世界的に大ヒットをしている。世界中に広がったように見える「ポケモン」も、まださらに深くファンを獲得することが可能なはずだ。「ポケモン」の新たな映像展開がそれを可能性にするはずだ。

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