関西フィルハーモニー管弦楽団、首席
客演指揮者就任披露記念演奏会に臨む
鈴木優人に聞いたーーピコ太郎&かて
ぃん(角野隼斗)とのコラボの裏話も

指揮者、鍵盤楽器奏者をはじめ、マルチな活動でクラック音楽シーンを熱く盛り上げている鈴木優人が、今シーズンから関西フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者に就任した。ポストお披露目の公演が10月20日(金)にザ・シンフォニーホールで行われ、ラモー、ブラームス、ストラヴィンスキーといった鈴木らしいバラエティに富んだプログラムを指揮するという。最近ではピコ太郎の新作動画にかてぃん(角野隼斗)と一緒に出演し、母校の麻布学園OBオーケストラを指揮する姿が話題になったばかりの鈴木優人。多忙を極める鈴木優人に、コラボの裏話や関西のオーケストラへの想いなどを訊いた。
●「日々の活動について、自分の仕事に線引きはしません」
――関西フィルの首席客演指揮者就任、おめでとうございます。今日は披露演奏会についてお話を伺いたいのですが、その前に、ピコ太郎の最新動画「PEEK-A-BOO」についてお聞きしてもイイですか。鈴木さん、出ておられましたね。
楽しそうなハナシには極力乗っかるタイプですので(笑)。『題名のない音楽会』の楽屋で、プロデューサーの古坂大魔王さんから誘いを受けました。にらめっこは「笑いの原点」だと共感し、その場で快諾しましたが、正直どんなものが出来るのかは全く分かりませんでした。ただ、ピコ太郎さんがオーケストラを使いたいと思ってくれたことは、クラシック業界に身を置くものとして嬉しかったです。仲間の一人として、出演させて頂きました。
「楽しそうなハナシには極力乗っかるタイプです(笑)」 (c)Marco Borggreve
――あの中で、鈴木さんの役割は何だったのですか。仕上がりには満足されていたのでしょうか。
事あるごとに共に活動している、麻布学園のOBオーケストラから出演許可を取り付けました。指揮をしているのは見ての通りですが、実はオーケストラでビオラやトランペットパートにも映り込んでいます(笑)。もちろんオーケストラのアレンジも担当しています。今回は、ケータイをいくつも並べて撮影する新しい手法を使っていますが、随分時間をかけて作り込まれていますね。古坂大魔王さんの笑いの世界は、言葉の壁がありません。「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」の時もそうですが、グローバルな発想で勉強になります。
――鈴木さんは多方面にご活躍ですが、活動の範囲は決められていないのでしょうか。
日々の活動について、私の仕事はここまでといった線引きはしたくありません。ワクワクする誘いには迷わず乗る。忙しいですが、楽しい毎日を送っていますよ。新しい事をどんどん試したいと精力的に動くところは、藤岡さんも同じではないですか。
――関西フィル首席指揮者の藤岡幸夫さんにハナシを結び付けて頂きましたね(笑)。藤岡さんが提唱されて、鈴木さんをはじめとするザ・スリー・コンダクターズ(鈴木優人、山田和樹、原田慶太楼)が賛同する形で始まった「ニュークラシックプロジェクト」は大変な話題となりました。
藤岡さんの仰る「ベートーヴェンの曲が今でも愛されているように、200年後にも愛され続けるオーケストラ曲を日本から生み出したい」という構想に対して、我々3人は共通の認識でおります。私も作曲をしますが、当時の作曲家が新しい曲を作り続けて来たからこそ、過去の宝の山に恵まれているのです。 

関西フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者 藤岡幸夫  (c)青柳聡
――やってみて、どんな意味が有りましたか。

作曲のコンクールは作曲家の先生が譜面を読んで選ぶことが多く、指揮者や演奏家の目線で選ぶことは珍しいのではないでしょうか。こういう形でグループとしてやった事で、反響は大きかったようですが、ひとつドアをこじ開けたなという思いは有りました。池辺晋一郎先生が「従来の作曲コンクールの在り方も見直さないといけないかな」と仰っていたのが嬉しかったです。今後は、仲間を増やしたいですね。今回の4人だけに拘る必要はありません。ただ、今回の4人に関しては、それぞれがそういう取り組みを元からやっている、志を同じくする者が集まったという意味で、やって良かったなと思いました。
――鈴木さんは既に作曲家として活躍されている萩森英明さんの「東京夜想曲」を選ばれました。
萩森さんは『題名のない音楽会』でも編曲をされているので、お世話になっています。東京藝術大学​の後輩なので知ってはいましたが、彼がどんな曲を書くのは知りませんでした。興味深くスコアを見たら、昭和な感じのタイトルに相応しい素敵な曲でした。今回、特に「調性音楽を募集」とは明記していなかったのですが、調性を感じる曲が多かったです。萩森さんの曲は良く書けていて、オーケストレーションも美しく、これしかないと思い選びました。

「『ニュー・クラシック・プロジェクト』は思いのほか盛り上がりました」 (c)Marco Borggreve
●関西フィルはメンバーのモチベーションが高いオーケストラ

――ありがとうございます。では本題に入らせてください。初めて関西フィルを指揮した印象を教えてください。
メンバーの皆さんのモチベーションが高いので驚きました。私の提案も快く受け入れいただきましたし、しっかりフィードバックてくださるのも嬉しかったです。
――最初の共演が2019年6月の『欧和饗宴・・・鈴木&小菅が三大巨人に挑む、衝撃のニッポンプログラム』。オール邦人プログラムだったのは驚きました。あれは鈴木さんからのリクエストですか。
あれは藤岡さんからの提案でした。というか、当初は無茶振りに思えたのですが、結果的にジャストミートしましたね(笑)。1曲目の黛敏郎さんの「シンフォニック・ムード」は、生誕90年を記念しての選曲。コンチェルトは矢代秋雄さんのピアノ協奏曲。こちらも生誕90年を記念しての選曲でした。実は矢代さんは、父親の師匠でもあったので、ピアノ協奏曲を小菅優さんと演奏出来たのは嬉しかったですね。没後30年を記念して取り上げたメインの芥川也寸志さんの交響曲第1番は、楽譜に細かな間違いが多く、丁寧にイチからチェックできたのは良かったです。これだけのプログラムですから、リハーサルは大変でしたが、皆さんしっかり演奏していただき、お客さんの反応も上々でした。藤岡さんにも満足いただけたみたいで、胸をなでおろしました。
第302回定期演奏会(2019.6.14ザ・シンフォニーホール)   (c)s.yamamoto

第302回定期演奏会(2019.6.14ザ・シンフォニーホール)   (c)s.yamamoto
――2度目はコロナによる緊急事態宣言明け最初の演奏会でした。

私にとっても、緊急事態宣言明けでいちばん最初のコンサートでした。急遽ウェブ開催に切り替えた『調布国際音楽祭』が終わって、新幹線に乗って大阪に向かったのですが、1両すべて貸し切り状態。新大阪のタクシー乗り場には、人がいません。街が、ホラーゲームでやられた後のように死んでいました。こんな状況で演奏会なんて出来るのか? と思いながら、練習場に到着したら、メンバーが楽器を演奏していて嬉しかったですね。経験したことの無い距離を取りながらの稽古でしたが、それでも音を出せるだけでも有難い気持ちでした。プログラムをブラームスの交響曲第2番などから、小編成のシューベルトやモーツァルトに変更して臨みました。本番当日、ザ・シンフォニーホールに鳴り響いた、シューベルト5番の響きとお客様の拍手は、忘れる事はないと思います。
第311回定期演奏会(2020.6.14 ザ・シンフォニーホール)   (c)s.yamamoto
「十分なディスタンスをとって!」 第311回定期演奏会(2020.6.14 ザ・シンフォニーホール)   (c)s.yamamoto
――そして、2022年2月に『田園交響樂・・・鈴木優人が美しく描くブラームスのカンタービレ』として、当初予定されていた、交響曲第2番をはじめとするオール・ブラームス・プログラムを指揮されて、首席客演指揮者の就任発表へと繋がっていきます。
メンバーとは3度ご一緒して、随分と分かり合える関係になったと思います。楽団からの首席客演指揮者への就任要請は、嬉しかったです。関西フィルのバラエティに富んだ指揮者陣の一角に名前を連ねる事が出来て光栄です。私の古典を含めたレパートリーが加わる事で、今までにも増して魅力的なプログラムをお客様にお届けできればと思っています。音楽監督のデュメイさんとはお会いしたことは有りませんが、関西フィルの華やかな弦の響きは、彼の理想とする音が根付いているのでしょう。首席指揮者として、コロナ禍の間も楽団を牽引して来られた藤岡さんを、色々な面でサポートしていければと願っています。関西フィルから、大阪の皆様が元気になれる音楽を発信していければいいですね。
第325回定期演奏会(2022.2.25 ザ・シンフォニーホール)   (c)s.yamamoto
――就任披露演奏会のプログラムを紹介してください。
ブラームスの2番がとても素敵な演奏だったので、今回の就任披露演奏会のメインは、ブラームスの交響曲第1番で行こうと思いました。その上で、今後取り組むプログラムの縮図のようなモノをご披露出来ればと思って選曲しました。私はバロック音楽がホームの人間なので、ラモーの「優雅なインドの国々」を最初に聴いていただきます。この曲は、たいへんノリが良い曲で、自分の結婚式でも流したくらい好きな曲です。読売日本交響楽団のために編曲した曲で、踊りだしたくなるような楽しい曲。皆さんバッハはご存知なので、この機会に同じ時代の作曲家ラモーを知って頂こうと思い選曲しました。2曲目のストラヴィンスキー「プルチネルラ」は、もはや現代曲とは言えない彼の代表曲。こういう機会ですので歌付きの曲を採り上げようと思い、組曲版ではなく演奏機会の少ない全曲版を選びました。実は全曲版を指揮するのは私も初めてで、とても楽しみにしています。歌手はバッハ・コレギウム・ジャパン(以下、BCJ)でも活躍されていて、皆様もご存知のソプラノ森麻季さんをはじめ、テノール鈴木准さん、バリトン加耒徹さんが来てくださいます。
「今後取り組むプログラムの縮図のようなモノをご披露出来ればと思って選曲しました」 (c)Marco Borggreve
――就任披露公演とは別に、今年の関西フィルの『「第九」特別演奏会』は鈴木さんの指揮ですね。
個人的に思い入れの強い「第九」を指揮させていただけるのは嬉しいです。私としては、就任披露コンサートと「第九」はセットというふうに捉えています。オーケストラ同様に、とても気になっていた関西フィル合唱団との初顔合わせが「第九」というのも楽しみです。しかも会場がザ・シンフォニーホールということで、音響的にも歌声が満ちるホールで指揮をする、特別な「第九」となります。BCJでは、オリジナル楽器による演奏にも取り組んでいますし、昨年は読響公演も合わせて9度も指揮させていただきました。
第325回定期演奏会(2022.2.25 ザ・シンフォニーホール)   (c)s.yamamoto
●大阪のオーケストラ事務局は仲が良くて素敵ですね。
――首席客演指揮者に就任した後、オーケストラをこうしたいといった希望は有りますか。
今はまだありません。コンサートマスターが替わられたので​、どんな感じになっているのか、その点も楽しみです。大阪のプロ・オーケストラのうち、大阪交響楽団以外の3つのオーケストラ(大阪フィルハーモニー、日本センチュリー交響楽団​、関西フィル)は指揮した事が有るのですが、それぞれ個性の違いが有って面白いです。同一マーケットに4つのオーケストラというのは、ファンの方も全部を聴き比べることも可能で、楽しいのではないでしょうか。それに、大阪4オケは事務局同士も仲が良く、合同でシーズンプログラムを発表していると聞きます。東京にはオーケストラがもっと多いですから、大阪のこういう状況はちょっと考えられませんね。
関西フィルハーモニー管弦楽団 コンサートマスタ-ー 木村悦子   (c)s.yamamoto

第339回定期演奏会(2023.7.15 ザ・シンフォニーホール)   (c)s.yamamoto
――鈴木さんは他にも、京都市交響楽団も兵庫芸術文化センター管弦楽団も、神戸市室内管弦楽団も指揮されたことがおありですよね。

京都や兵庫のオーケストラも、全てが個性的なオーケストラですね。交通の便も良く、先ほどの話で言うと、これらのオケを交えても聴き比べが十分可能です。時間に余裕が出来ればファンの皆様にも、贔屓のオーケストラにまつわるお話を伺ってみたいですね。いろいろなアイデアを頂けるかな、と思います。
――関西フィルに対してではなくても、東京からご覧になられていて、大阪の4オーケストラに提案などありませんか。
これは、先日たまたま野球の仕事をしている友人と話していて思い浮かんだアイデアの種にすぎないのですが、オーケストラ・プレーヤーのオーディションにもドラフト会議の方法を導入するなんて如何でしょうか。オーディションは様々な時間コストがかかります。オーケストラに入団を希望する若い人が、色々なオーケストラ関係者の前で実力をアピールできる場が作れたら効率的だと思うのです。もちろん現実的には様々な問題がありそうですが、事務局間の情報共有が図られている関西なら少し可能性があるのでは、などと思っていました。いずれにしても大阪は4オケが仲が良いので、皆で大阪を盛り上げられたら素敵だなぁと思っています。『大阪万博』もある事ですし、大阪にオーケストラを聴きに旅に来るような、観光資源になるようなコンサートを作って、アピールしていければ。そして、やはり関西フィルでしか聴けないような曲もやって行きたいですね。
第311回定期演奏会(2020.6.14 ザ・シンフォニーホール)   (c)s.yamamoto
――コンサートにブラボーが戻って来ました。最近では、カーテンコール以降は写真や動画撮影が可能なコンサートも増えて来ました。ある音楽家の方が、撮影してSNSで情報を共有して頂くのはありがたいですが、その事で拍手の音が確実に小さくなっているのは残念だと仰っていました。
確かにそれはありますね。ヨーロッパなんかは、コンサート中でも写真を撮る人もいて、私は別にスマートに撮られる分には良いかなと思っていましたが、日本のスマホは撮影すると音がするんですね。確かに音はマズイですね。写真や録音は権利関係を守るためには必要なのかもしれませんが、コンサートのアナウンスで何かをしないで! というのが多すぎるのではないかと気になっていました。注意事項は最低限必要な事だけで良いのではないでしょうか。唯一お願いしたいのは、「最前列でスコアを見て聴くのはおやめください」とか「指揮の真似をしながら1拍遅れて振るのはおやめください」くらいでしょうか(笑)。もう少し気楽に音楽を楽しめる環境を提供できたらいいなぁと思います。

第302回定期演奏会(2019.6.14ザ・シンフォニーホール)  (c)s.yamamoto
――最後に「SPICE」の読者にメッセージをお願いします。

私も休日には非日常を味わいに、ブルーノートに行ったりします。やはりライブは元気を貰えますね。これまで、大阪で出来ていなかったことが、NGK(なんばグランド花月)に行けていないこと。実は、お笑いは大好きなんです。中川家がお気に入りで、昔なら、オール阪神・巨人。正統派のしゃべくり漫才が好きです。NGKに行くと思うだけで、ワクワクして来ます。クラシックのコンサートも同じだと思うのです。皆様に元気と感動を与える場で有りたいですね。これからは、関西フィルの皆さんとは、幅広いレパートリーをご一緒し、皆さんの持っている音色を最大限に引き出して、良い音楽を作っていきたいと思います。やはりライブのノリは最高です。ぜひ、コンサートホールにお越しください。皆様のご来場をお待ちしています。
「皆様のご来場を、ザシンフォニーホールでお待ちしています」 (c)Marco Borggreve
――鈴木さん、ありがとうございました。
最後に、首席指揮者 藤岡幸夫からメッセージが届いている。
鈴木優人君の名前がまだ今ほど知れていなかった時に、僕が事務局の反対を押し切って、彼を定期演奏会の客演指揮者に抜擢しました。2019年6月の第302回定期演奏会の事です。曲は「ちょっと渋すぎるかな?!」と思いながらも、 黛敏郎「シンフォニック・ムード」、矢代秋雄「ピアノ協奏曲」、芥川也寸志「交響曲第1番」という、アニバーサリー・イヤーを迎えるオール邦人プログラムをお願いしたのですが、集客も上々、お客様の反応も良く、見事に期待に応えてくれました。その時から、いずれ首席客演指揮者をお願いしたいと思い、色々と調整をして来ました。その後も2度にわたって関西フィルを指揮して頂き、メンバーとの関係もバッチリ。今ではピコ太郎と共演するほどの人気指揮者になられました(笑)。彼は指揮者に留まらず、ピアノからチェンバロ、パイプオルガンまで弾きこなす鍵盤楽器奏者、作・編曲家、演出家、そして音楽祭のプロデュースも行うほどのマルチな才能に恵まれた、新時代のクラシック音楽界を担うスター。彼の首席客演指揮者就任によって、関西フィルの音楽面が一層充実する事は間違いありません。どうぞ引き続き、首席客演指揮者の鈴木優人と、関西フィルにご期待ください。
関西フィルハーモニー交響楽団 首席指揮者 藤岡幸夫  (c)SHIN YAMAGISHI
取材・文=磯島浩彰

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