TOC

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【TOC インタビュー】
今までで一番やる気のある
ベスト盤かもしれない

もうズブズブに溺れてて、
女のケツを追っかけ回る男

新曲「パラソムニア」「生きて」以降、3曲目「BirthDay」から順に聴いていくと、TOCの変遷がよく分かります。初期の頃は、やっぱりラッパーの部分をより強調していたような印象を受けましたが、その辺はどうでしょう?

めちゃめちゃそのとおりですね。2013年だったと思うんですけど、その時は全てHilcrhymeが軸にあって、“早口でラップをすると売れない”と考えていて(笑)。だから、それはHilcrhymeではできないという縛りみたいなのもあったと思うし、メロディーを乗せていないとダメとか、暗いことは言えないとか、そういうルールが自分の中にあったんですよ(苦笑)。それをやると数字が伸びないとか。誰かに言われたわけじゃないんだけど、自分の中での縛りがすごくありましたね。

その辺は性格の生真面目さが出ていますね(笑)。

出ますね(笑)。TOCではそのガスを全部抜いたって感じですね。

だから、今作の前半に収められている「BirthDay」「Bird」、あと「HATE」はかなり象徴的ではありますけど、結構リリックも攻撃的なんですよね。

それもHilcrhymeで書けなかったことを書いている感じですね。

ただ、その攻撃性もメジャーでの1stアルバムとなる『SHOWCASE』(2018年1月発表のアルバム)に収録されていた「武器と勇気」や「1999」、さらに『立国宣言』(2020年1月発表のアルバム)収録曲で、微妙に変わりましたよね。尖ってる感じが薄くなったように思います。

ガス抜きが終わったんじゃないですかね(笑)。ガス抜きが終わって、いよいよ“ちゃんとTOCとしての姿勢をどう表していくか?”という時期に入ったのが『SHOWCASE』なんだと思います。

メジャーになってからはより自然体となってきたんでしょうね。一番の変化はメロディーだと思います。『SHOWCASE』以降はTOCさん元来のポップ指向が普通に出てきましたよね。

そうですね。そのポップ指向をセルアウトとか悪い方向に考えていたのが『SHOWCASE』の前で、自分のいい部分、自分の武器としてとらえることができ始めたのが『SHOWCASE』辺りで、それを“武器と勇気”っていう言葉に変えたりとか、肯定し始めてた時期なのかなと。

ラップをする人はラップが主体で、メロディーは二の次と考えている人もいると思うんですけど、『SHOWCASE』からのTOCさんは普通にファルセットを使って歌っていますもんね。

自分の武器はメロディアスなラップだったり、曲に展開をつけることで、それが絶対的な武器だと分かっていたはずなんですけど、Hilcrhymeでメジャーデビューしてから3~4年はそれを見失っていたというか…悪いほうに考えちゃったんですよ。だから、ソロを始めたっていうのもあると思うんです。どうしてそういうふうに思っていたのかは、今でも分かんないんですけど。

Hilcrhymeでデビューして一気に大衆の支持を受けたところは影響したかもしれないですね。

それはあるかもしれないです。それまで新潟にいて、活動もものすごく局所的な場所だったと思うんですけど、それが一気に広がって、周りから受ける声も増えたし、生活の変化、環境の変化…いや、“人生の変化”と言ってもいいくらいのものだったから、やっぱり戸惑ったんでしょうね。だから、見失った部分もあるのかなと。

混沌としたんでしょうね。だから、いったんメロディーは脇に置いておこうとしたり、攻撃性が出てきたりという。ただ、メジャーでの2ndアルバムの『立国宣言』は攻撃性もあるんですけど、同時に「Slow Dance」のような、もはやR&Bと言ってもいい楽曲も収録されてます。つまり、『立国宣言』の頃には表現の幅も広がったと言っていいんでしょうね。

そうですね。TOCのトラックは洋楽的なものが多いので、コーラスの重ね方にしても意図してR&B的にやっているんです。そこは結構Hilcrhymeとは違うとは思いますね。ラップを始めた時からR&Bが好きなんですよ。トラックもR&Bトラックを選ぶことが多いし、ヴォーカルテイクの重ね方はもろR&Bですね。ヒップホップというよりもR&B的にやっています。

元来の歌モノ指向というか、メロディー指向が自然と出てきたんでしょうね。そうは言っても、そこでヒップホップの攻撃性が失われなかったというのはいいですね。

ちょっと変わりましたけどね、最初の攻撃性とは。わりと自分のエリアを大事にするようになったというか。外への攻撃というよりも中の統制みたいなことをよく書くようになった。

確かに。で、さらに話を続けると、メジャーデビュー後のTOCでも最も変わったのはリリックの内容かなと。やはり自然体になってきたというか、より赤裸々になってきたような印象があります。Hilcrhymeのリリックってカッコ良い男が出てくることが多かったんですよ。TOCは、はっきり言っちゃうとカッコ悪い男も出てきてますよね。それは自然と出てきた結果ですか?

自然ですね。

隠さないという。

そういう感じになりましたね。例えばラブソングで言うと、Hilcrhymeはひたすら“君を守るよ”とか“一緒にいるよ”という自分を書いてるんだけど、TOCはもうズブズブに溺れてて、女のケツを追っかけ回る男だけを書いている感じがします。そこは自然でしたし、いい差別化ができていると思ったから、変える必要もないと思うし。いい意味で子供…少年なんですよ。それは特色のひとつとしていいから、今後もそうありたいですね。

今おっしゃられた、その“包み込むような愛情”といったものを綴ったリリックはTOCにもあって、この『TOC THE BEST』に収録されている楽曲で言えば、「JENGA」や「I’ll Light You」、「たいよう」がそうだと思います。その一方で、「過呼吸」や「高嶺の花」、「SAD DAY」といった歌詞があるというのがいいんですよ。そこが非常に人間味あふれると言いますか。

そうですね。新録した「パラソムニア」という曲は、自分の中では「過呼吸」の続編的に書きました。何だろうな? …未だに忘れられない女性みたいなのを書いたんですけど(苦笑)、それはフィクション、ノンフィクション問わず、誰にでもあることだと思うんです。

絶対にありますね。だから、私は「パラソムニア」も大肯定ですよ。

“夢の中だったらいいじゃないか”という(笑)。

こういう内容って、下手すると“墓まで持って行く”じゃないですけど、普通の人は隠しがちですが、こうしてかたちにするところがアーティストだとも思いますし、その意味でも大肯定ですね。

あははは。この書き方を見ても“R&B好きなんだな”って思いますね。

OKMusic編集部

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