the GazettE 約4年ぶりのライブハウ
スツアー最終日に見た、どこまでもス
トイックな求道心

the GazettE LIVE TOUR2023 -MASS- / PHASE 03 "LAST MILE"

2023.3.27 豊洲PIT
一昨年にリリースされた10thアルバム『MASS』を携え、約3年ぶりに全国津々浦々を回る“PHASE 01”、最新作を既存アルバムと掛け合わせる実験的な“PHASE 02”と、コロナ禍を経ての2本のツアーでファンを狂喜させた2022年のthe GazettE。年明け3月からは約4年ぶりとなるスタンディングでのライブハウスツアー“PHASE 03”を敢行し、the GazettEと彼らのファンならではの熱狂空間を作り出してきた。その最終公演・豊洲PITで見たものは、ファンへの信頼と最新作に対する自信。そこから、さらにベストを更新していくのだという、どこまでもストイックな求道心だった。
RUKI(Vo)
彼らの動員力を考えれば当然のごとく、日本最大級のライブハウスをオーディエンスで満杯にしたツアーファイナルは、予定調和と想定外のミクスチャーで幕開けた。アルバムと同じく「COUNT-10」をSEに、ステージの上部で輝く“M”を象った『MASS』のロゴマークから赤い光が伸びていくオープニングは、3本のツアーを通して一貫するもの。神聖にして狂暴な音と声が荒れ狂うエモーショナルな「BLINDING HOPE」で始まり、「ROLLIN’ 」が一気にフロアのクラップを呼ぶというお馴染みの流れも練度を増して、いっそう場内を燃え立たせていくのだろう……と思った矢先、豊洲PITに魔物が舞い降りた。いきなりの機材トラブルで音が止まり、場内が明るくなるや、しかしRUKI(Vo)は「押忍!」と茶目っ気たっぷりに挨拶して、「バンド21年やってるけど2曲目、ツアー最終日でトラブルは、ちょっとビビったわ。今のお前らのテンションが着火したね」と至極平然。仕切り直しての「GUSH」では「揺らせ!」という彼の号令に従い、とにかく一つになろうとバンド、オーディエンス共に死力を尽くして、想定以上の熱気を生み出していく。トラブルも丸ごと楽しむことのできる懐の深さ、それをフロアの高ぶりへと変換する手腕の巧みさは21年のキャリアの賜物。加えて、3本のツアーを通して磨き上げてきたライブ構成が“何が起きても大丈夫”という一種の安心感を、ファンに与えていたことも事実だろう。
当然「イメージ的には最終日ってトラブルないものだと思ってたんですけど、やっぱりこれがライブ。長年やってるだけあってテンション下がったりもしないし、逆に面白かった」(RUKI)と、最初のMCでも余裕たっぷり。久々のライブハウスということで怪我をしないようにと注意喚起する優しさも見せつつ「死ぬ気で来てください。俺らも死ぬ気で行くんで。全力でやり合いましょう!」と号令をかければ、戒(Dr)のドラムが情け容赦なく早駆ける「HOLD」で、満場のクラップと凶悪なギタープレイが鮮烈なコラボレーションを果たす。さらに弦楽器隊のパワーコーラスも加わった轟音の中で、メロディックな旋律が狂おしい物語を滲ませる「裏切る舌」から、赤と緑のレーザー光線にストリングスの響きが妖艶さを醸す「NOX」と、直線的なノリをうねる曲線へと変えていく3曲の並びもツアーを通じて彼らが見出した一つの完成形に違いない。
麗(Gt)
だからこそ「THE SUICIDE CIRCUS」に「DRIPPING INSANITY」と、10年以上前のナンバーで2曲続けてメロウな情緒を描くのには、この日だけの特別感があった。前者ではバンドインする瞬間に右手を上げ、楽曲の世界に入り込んだ葵(Gt)のアグレッシブな動きが目を惹けば、水音からスモークが立ち上り、Mのマークから今度は青いラインが伸びた後者では、青く照らされた舞台に哀しみが充満。腰をかがめて重低音を放つREITA(Ba)、想いの丈をシャウトで吐きだすRUKI、情感の漂うソロを紡ぐ麗(Gt)と、それぞれのプレイも映えて、救いがたい物語を感情的に描き出していく。一転、紅蓮に染まる中でギリギリに抑えたエモーションを聴覚ではなく視覚から届ける「濁」からは、宙に光る星にRUKIが手を伸ばす「THE PALE」、アコースティックギターの音色が心癒す「MOMENT」で観る者の心を浄化。いわゆる『MASS』のバラードパートを担う3曲も、ほぼ毎公演アルバムと同じ並びで披露されることにより、最大の効果を発揮し続けてきたが、それはアルバム制作の時点で彼らがライブのビジョンを正しく見定めていたことの証左に他ならない。そして、その見通しの正しさは、いわゆる“暴れ曲”パートも同様だった。
葵(Gt)
「久しぶりのハコだから、具合悪くなったときは無理せず助け合って。ライブはみんなを幸せにしに来てるだけなので、ぜひ無事に帰ってください。だからといって手は抜きませんので、よろしくお願いします。やろうか東京! いけるか? かかってこい!」
そう煽って高速になだれ込んだ「BARBARIAN」で拳とヘッドバンギングの嵐を巻き起こし、「アタマ、アタマ!」の連呼で狂乱を招く「FRENZY」へと続く一連の流れも、ツアーで慣れ親しむ中で演奏/パフォーマンス両面での一体感は着実に高まっていた。そもそも「濁」以降のメニューはアルバムの曲順通りで、なおかつ“PHASE 01”の初日公演から変わらないという事実に、『MASS』という作品に対する彼らの絶対的な自信と、その“ベスト”を追求し続け、さらなる高みを目指したいという飽くなき向上心が感じ取れる。加えて、ライトが明るく5人を照らして場内のテンションを爆上げする「INCUBUS」、RUKIが「さぁ、アタマ吹っ飛ばせよ!」と先頭に立って風車のように頭を振り回す「DISCHARGE」と、シャウトとヘドバンが吹き荒れる中で「LAST SONG」が届けられるエンディングさえ、毎度おなじみの光景でありながら観るたびに感動が増してゆくのだから不思議。「聞かせろ!」という叫びに、力いっぱいのクラップとジャンプで応えるオーディエンスは、ここ数年の失われた時間と再び声を枯らす日を取り戻そうと懸命に腕を伸ばしているようにも見え、その光景に葵が手を合わせればRUKIも力いっぱいの拍手を贈る。3月に入り政府の規制は緩和され、さまざまなライブで続々と声出しが解禁されていたにもかかわらず、the GazettEのライブでは未だ声出し禁止である旨が告知されており、どんな熱狂の中にもオーディエンスの声はなかった。だが、アンコールでのRUKIのMCを聞けばわかる通り、それもファンに対する彼らの誠実さの表れだったと言えるだろう。
REITA(Ba)
「コロナ禍になってから『MASS』というアルバムを作り、ツアーを回るというのは、最初、非現実に思えて。どこまで遠くに行けるか考えていたんだけど、2年でようやく地方にまで行けるようになった。第一優先はみんなの健康、身体。まず、それを貫いた。そのうえで、俺らは生の空間にこだわったし、バンドマンとして生きるって意味では、絶対この場所に代わるものはないので貫いてきました。いろんな当たり前が変わっても、自分たちのバンドは変わらずにいたい。みんなを裏切りたくない。でも、それは俺たちだけじゃなく、みんなが守って待ってくれているから貫けているだけ。長い時間待たせても、みんなが待ってくれたから、the GazettEとして戻って来られました。状況も変わるなか、最後までみんなが貫いてくれたのが本当に俺は嬉しいし、誇りに思います」
その激烈な音楽性から一見ルール無用のアウトローに見えて、実はthe GazettEというバンドは、非常に慎重で堅気なバンドである。その慎重さはもちろん小心に由来するものではなく、ひとえにファンを守りたいという想いから来るものだ。ゆえに、コロナ禍の中でライブを再開したのは他のアーティストに比べても相当に遅く、しかし、その間に配信ライブ等の代替イベントを行うことは皆無。ただ、ひたすらに時を待ち、とことんファンの安全を考慮しながら少しずつライブを再開するという、その愚直なまでの生真面目さの裏には、自分たちとファンとの間の関係に対する絶大な信頼がある。
戒(Dr)
「声は出さなくても本当に気持ちは伝わったし、自分たちも伝えたつもり。この気持ちはthe GazettEのライブバンド史上の中でも、ものすごい出来事だったと思う。でも、それを乗り越える力が僕らとみんなにはあった。バンドだけカッコよくても仕方ない。ファンのみんな、含めてthe GazettEだと思うし、今回のツアーで、やっぱりthe GazettEはカッコいいって証明できました。改めて、ありがとう。限界までいきましょう」
軽快にアンコールを幕開けた「INSIDE BEAST」に、イントロから思わず悲鳴が漏れた「Hyena」を終え、そうRUKIが感謝を告げたあとは嵐のごとく。もはや「UGLY」はオーディエンスのクラップ無しでは成り立たない楽曲と化し、そのパワーを受けてか、戒のブラストビートに麗のライトハンドも凄まじいまでの轟きをあげる。続く「ABHOR GOD」でも、一気にヘッドバンギングの海と化したフロアに向かい、マイクスタンドごと前方に乗り出して放たれるREITAのパワーコーラスの強烈さたるや! アンコールだから、ツアーファイナルだからといった緩みやラフさは1ミリもなく、むしろ常よりもポジションを死守して演奏に専念し、クオリティの高いアンサンブルを聴かせようとするストイックな姿勢には、本物のミュージシャン魂を見た気がした。
ラストソングは、言わずもがなの「TOMORROW NEVER DIES」。レーザーが飛び交う煌びやかな景色の中で、必死に繰り返された「届いてるか? 聞こえるか?」というRUKIの問いかけは、声なきライブだからこその必然性と切迫感を帯び、観る者の胸に迫ってさらなる高揚感を呼んだ。満場の拍手を受け「また会いましょう。改めて感謝します。愛してます」と告げたRUKIは、深々と一礼。その言葉は直後、「BLINDING HOPE」の印象的な一節と共に、明確な約束としてスクリーンに映し出される。
彷徨う声 此処で――
アルバムツアー全3本、合計31公演に上るライブ日程が順にクリアされていくトレイラー映像で発表されたのは、7月15日の日本武道館。“THE FINAL”と名付けられた公演は『MASS』ツアーの文字通り最終公演であり、積み重ねられたステージの集大成となるものだ。そもそも今回の“PHASE 03”に付けられていた“LAST MILE”というツアータイトル自体、この武道館へと連なる“最後の道のり”を意味していたに違いない。ここ数年マスクの中に封じられ、彷徨っていた声が“此処=日本武道館”で、何処へと終着していくのか。その行方を3ヵ月後、ぜひとも見届けていきたい。

取材・文=清水素子
撮影=Keiko Tanabe、Kyoka Uemizo

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