【moonriders インタビュー】
リハはするんだけど、
原曲どおりにやろうなんて
誰も考えていない
2020年の活動再開以降、意欲的に動き続けているmoonriders。今度は2日間に渡って繰り広げたインプロビゼーション(即興演奏)をメンバー自身でミックスしたという、邦楽史上類を見ないアルバム『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』を完成させた。中心メンバーが御年70歳を超えるベテランバンドがこうした作品に挑む姿勢には脱帽だが、その制作意図と作業風景を鈴木慶一(Vo&Gu)と白井良明(Gu)に振り返ってもらった。
楽器を大量にセッティングしていて、
その中をみんなが飛び回ってる
2月14日にメンバーのおひとり、岡田 徹さんが亡くなられました。2022年末にはライヴにも参加されていたとうかがっております。みなさんにとってもかなり突然の訃報でしたか?
鈴木
何て言ったらいいんだろうな? 前作の『It's the moooonriders』(2022年4月発表のアルバム)のレコーディングでの岡田くん参加は限定的だった。それまでは岡田くんも曲を作ると、入念に自宅でアレンジしてきたんだけれども、そういうことがなくなって、我々でアレンジしたり、レコーディングもちょっと早めに帰宅せねばならなかったり。ただ、今回のアルバムは我々がミックスしてるんだけど、2日間スタジオに入って、Pro Toolsで録音しっぱなしにしていたから、その音源が全部で10時間くらいあり、それをそのまま寝かしておいたんです。で、それをアルバムにして出すことになったから、メンバー全員がまずラフミックスを聴いた時に、“これは誰が弾いてるんだろう?”というシンセのフレーズがいっぱいあったのね。最終的にパラデータをもらって、そこのクレジットを見て“あっ、これは岡田くんだったんだ!?”って。白井良明さんはその日のプレイバックで気づいていたみたいだけど。
白井
素晴らしかった。すごく重要な場面で、みんなが瞬間的に魅かれるサンプリングされたフレーズを何回も弾いている。突然違う世界観を弾いちゃう説得力は岡田くんらしいですね。
鈴木
ショルダーキーボードですごくいいフレーズを弾いていて、それはびっくりしたよね。今回のアルバムではすごくいいプレイをしている。“今後moonridersでインプロっぽい部分をさらに導入していけば面白いことになるな”なんて思っていた矢先のことだっから、本当に残念無念です。
無念…まさにそうなんでしょうね。
鈴木
1月にはね、ファンクラブのイベントがあって、そこで一緒に演奏して、アコーディオンも弾いていたし。
2021年に骨折されてそれでライヴから遠ざかっていらっしゃったようですが、そのリハビリは順調だったんですよね?
白井
ちょっとずつ良くはなっていて、1月のファンクラブのイベントでは元気な姿を見せていたし、昨年の暮れに恵比寿ザ・ガーデンホールでやった時は(2022年12月25日に東京・恵比寿ザ・ガーデンホールで開催したmoonriders アンコールLIVE マニア・マニエラ+青空百景)、ちゃんと曲のイントロを弾けるところまで復活していて、“4月の狭山のフェス(2023年4月29日日&30日に開催される『Hyde Park Music Festival 2023』)で完全復活するんだ!”ってものすごい頑張っていたからね。
死因は心不全ですか。享年73歳。70代はまだお若いですよね。
鈴木
うん。私的な話になるけれども、去年、私は親戚や知り合いが5人亡くなってて、今年に入って1月だけで5人亡くなってて。…参っています。
白井
うん。…そろそろアルバムの話でもしませんか?(苦笑)
失礼しました。しかし、岡田さんのお話も決して今回のアルバムとまったく無関係というわけでもなくて。前作『It's the moooonriders』の「私は愚民」の後半はインプロビゼーションでして、その部分を指して良明さんは岡田さんのピアノが怪物みたいになっていると指摘されていました。なので、前作でのインプロが今作に関係しているのかなとも思ったわけです。つまり、こうしたインプロビゼーションのアルバムを作ろうとした動機は何だったのだろうかと。
白井
それはね、この人(鈴木)が以前からインプロが好きでやっていて、それが次のアイディアにつながったんじゃないかなと。制作意図は聞いていないけど、そう思う。なので、僕はそれに乗っかりましたけどね。いかがですか?(笑)
鈴木
そういう方向もある。長い間、即興演奏をやっている方々もいっぱいいる中、moonridersが即興をやるとなると新参者ですから(笑)。
鈴木
本当に新人だと思っていますから。その新人感がいいんじゃないと。
白井
これまでにメンバーそれぞれがインプロをやってきたかはよく知りません…僕はジャズの方々とやったりしていましたが、このバンドとしては新人(笑)。
ライヴでは即興演奏をやられていたと聞いていますが。
鈴木
うん。もともとこのバンドはリハーサルでどんどんアレンジが変わっていっちゃうのね。その強度が増したというか。リハはするんだけど、原曲どおりにやろうなんて誰も考えていない。
白井
あははは。“めちゃくちゃ変えてやろう”なんて思っているわけではないんですけど、自然と変わっていくんですよ。“曲が溶けていく”という感じかな?
鈴木
曲が溶けて新たに固まっていくんだよね。それはキーボードに佐藤優介くんだったり、ギターとヴォーカルに澤部 渡くんがサポートで入ったことも大きいと思うよ。
正直言ってインプロビゼーションとアドリブの区別がついていないのですが、コードやテンポが決まって、そこに各パートを重ねていくんですか? インプロってどんな感じでスタートするんでしょうか?
鈴木
インプロはね、何も決めちゃいけない。それはインプロの達人の内橋和久くんと一緒にやった時に教えてもらった。“今日はどんな感じやろうか?”と言ったら、“そんなことを考えてはダメです”と。そして、もうひとつは“終わったあとで反省しちゃダメです”と。
白井
あははは。でもね、この年齢になるとそれがちょうどいい。考えてもいけないし、反省しなくてもいいわけでしょ? 本当に楽。キーのことも考えなくていいし、譜面を見なくてもいい。こんなに70代に向いている音楽はないですよ。
3曲目「Work without Method(Session4,Ver2)」という楽曲が収められていますが、インプロビゼーションとはまさにメソッドなき作業という感じなんですね。
鈴木
その予兆はいっぱいあったと思うんだよね。前回のアルバムもそうだし、その人見記念講堂でのライヴもそうで(2022年9月24日に昭和女子大学人見記念講堂で開催した『moonriders LIVE 2022』)。アンコールが終わって幕が閉じているのに、実はステージ上で10分くらい演奏していた。お客さんが帰るBGMは全部生演奏だった。そういうことをやるのが楽しくてしょうがない(笑)。ただ、決め事はない。決め事はなく、自由に演奏することが面白い。これは佐藤優介くんが言っていたけど、“非常に頭を使う”と。プレイはフィジカルなんだけど、流れを見ているわけね。耳と目でね。
具体的な話をしますと、「SKELETON MOON(Session1)」の冒頭はものすごく凶暴なエレキギターで始まります。
で、そのあとに別のギターが重なってきますよね?
白井
柔らかいギターが入ってるでしょ? あれは僕です。あれはね、この人がああいうギターを弾き始めたから、“じゃあ、僕は違う世界でいこう!”と思って。“ジム・ホール、注入!”みたいな(笑)。(※ジム・ホールはジャズギタリスト)
鈴木
“Session1”と書いてあるでしょう? あれが最初に録音した曲なんだよね。最初だからギターがある場所に座って、RECボタン押された直後にあれを始めただけ。そういうことだよね。ちょっと無調ではないけど。
全員、この演奏がどんなふうになっていくのか分からないと。
鈴木
それが醍醐味だよね。ただ、何曲か録っていくうちに、“これは3人くらいで始めよう”とか、“まず室内楽的な楽器だけで始めよう”とか、“チューブラーベルをフィーチャーしよう”という話にはなって。とにかく楽器を大量にセッティングしていて、その中をみんな、飛び回っていた。キーボードへ行ったり、ギターへ行ったり。
鈴木
そういうこともやった。誰がやるかって3人を決めた。
白井
それでやったけど、みんなスタジオに入ってきて、最後は全員に(笑)。
鈴木
録音中なのにね。結局、全員になっちゃうんだよ(笑)。で、白井良明さんは頑なにギターしか弾いていないの。
白井
今回はなぜかそうしようと思った。僕は色々な楽器を弾くよりもギターだけの方がインプロの世界により入っていけると思いました。
鈴木
一番あちこちへ行くかと思っていたけど、行っていたのは他の人たちだった。
白井
エレキってさ、アンプで音がでかくなるから演奏場所が隔絶されるんですよね。スタジオの真ん中に広いところがあって、そこにティンパニーやチューブラーベルがあって、そこでみんなは楽しくやっているんだけど、いちいち出て行くのが大変なんですよ。だから、僕はギターに集中しようという物理的な理由もありましたが。