第18回ショパン国際ピアノコンクール
出場、いま注目のピアニスト・京増修
史が『FIVE STARS』シリーズに登場!
デビューリサイタルへの意気込みを
語る

2021年秋に開催された第18回ショパン国際ピアノコンクールにおいて注目を集めたピアニストの京増修史。今春に東京芸術大学大学院の修士課程を終え、新たな一歩を踏み出したばかりだ。2022年12月には日本コロンビア主催の新人アーティストを紹介するシリーズ『FIVE STARS』の一人として浜離宮朝日ホールでのデビューリサイタルに挑む。「学生生活を終えた今、現在の己の集大成をお聴かせしたい」という京増に演奏会にかける思いを語ってもらった。
シンプルで澄んだ世界が今の自分には心地よい
――日本コロンビアさん主催の新人アーティストを紹介するシリーズ「FIVE STARS」の一人として選ばれたお気持ちをお聞かせください。
自分でもびっくりしています。周りのメンバーの皆さんも優秀な方々ばかりですし、何よりも浜離宮朝日ホールという多くの素晴らしい音楽家が演奏してきた空間でソロデビューリサイタルをさせて頂けるのをとても嬉しく思っています。
――京増さんというと、昨年の秋にワルシャワで開催されたショパン国際ピアノコンクールでのセンセーショナルな印象が強いのですが、今回のプログラムにはショパン作品は予定されていないですね。
せっかくの機会ですので、いろいろな曲を聴いて頂きたいというのもあり、今回はあえてショパン作品は取り上げずにプログラム構成をしました。昨年のショパン・コンクール以降、自分自身の中でショパン以外の作品も勉強したいというが思いがあり、全般的にショパン作品からいったん距離を置いています。もちろん、まったく演奏していないということではないのですが。
――現在発表されているラインナップでは、モーツァルトの「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」が冒頭に予定されています。
リサイタルでは、バッハなどのバロック期のレパートリーや古典派の作品から始めたいという思いがあります。個人的にも、それらのレパートリーを習慣的に勉強しているというのもありますし、聴き手の皆様にとっても、すっと世界観に入りやすいのではないか、という思いもあります。
あと、最近、個人的にモーツァルトが弾きたいなというのがありまして……。というのも、しばらくの間、和声的な面でも構成的な面でも複雑さを極めたショパン作品にばかり向き合っていましたので、シンプルで澄んだ世界というものが、今の自分の中で心地よい状態にあるようなんです。そこで、モーツァルトの中でも少し可愛らしい印象のあるこの作品を選んでみました。
――二番目に予定されているベートーヴェンのソナタは、今回なぜ28番を選ばれたのでしょうか? 後期とも、中期とも考えられ、そして「ハンマークラヴィーア」の一歩手前の作品という渋いポジションの作品です。
この作品を最初に勉強したのが高校三年の時で、芸大の入学試験でも演奏した曲です。今、考えると「良くこの作品を弾こうなんて思いついたな……」と感じています。ただ、その頃からすでに7~8年を経て、いろいろな経験を積み重ねた今の自分自身の中でも、やはりベートーヴェンのソナタとしては一番好きな作品なんです。第一楽章と第二楽章でもがらっと雰囲気が変わりますし、最終楽章でのフーガ的展開は後期作品としては常套的な展開ではありますが、この作品の場合は華やかですごく好きです。
――第一楽章は4分くらいの尺の中で歩む情景の凄まじさというのもなかなかのものですね。
(一楽章は)本当に表現するのが難しいですね。全3楽章形式の曲の中で様々な感情がうごめいているのをいかに表現するか……というところで、つねに試行錯誤しています。
――10代で演奏していた頃とはご自身の中で、どのような点が違うと感じられますか。
高校生の頃は先生に言われた通りのことを演奏するのが精いっぱいでしたが、今、ようやく自分自身の意志で「こう表現したいな」というように思えるようになったのを実感しています。あとは、この作品の背後にある事柄も鮮明に実感できるようになったのは大きな要素です。
例えば、この作品はベートーヴェンが弟子のドロテア・エルトマン男爵夫人に捧げたもので、長い時間をかけて大切に創作されたものであるということ。そして、彼自身、エルトマン夫人に「あなたのためを思って創ったこの曲をお受けください」というような愛情たっぷりの手紙を遺しているというエピソードなどを知ることで、おのずと弾き方も変化し、深まってきたように感じています。
>(NEXT)後半はオール・リスト。正反対の二曲をラインナップ。
リストが描く正反対の世界観
――後半は「ペトラルカの三つのソネット」と「ロ短調ソナタ」というオール・リストプログラムが予定されています。まったく性格の違う作品ですが、続いて演奏すると、どのようなことが見えてくるのでしょうか。
構成的にも性格的にも、正反対な作品ですよね。「ペトラルカの三つのソネット」では究極なまでに甘美な世界が広がり、その後、「ロ短調 ソナタ」になると不吉な世界が支配します。実際にはまだ二作品を通して演奏したことがないので、どういう感じになるかはなんとも未知数なのですが、基本的に技巧的なイメージのあるリスト作品の中でも、「こんなに世界観が違うのものが存在する」ということを聴衆の皆様に感じて頂けたらと思っています。
――「ペトラルカのソネット」は、原曲の歌曲バージョンでは格調高い詩がついているだけに文学的な理解も求められますね。
どちらかというと、僕自身の中でも歌曲の原曲のイメージが強くて、むしろそちらの演奏ばかり聴いています。本当に大好きで、歌詞とメロディに一目惚れしてしまいした(笑)。ピアノ版を演奏会で弾くのは初めてなのですが、言葉がない状態でペトラルカのロマンティックな詩をいかに表現するかということに、とてもやりがいを感じています。
――「ロ短調 ソナタ」についてはいかがでしょうか。
冒頭は不吉ですが、途中、天上の世界を暗示する箇所があるかと思えば、突如、憤りのような感情も感じられますし、最終的にはフーガも出現します。30分の尺の中でこのように一見、自由な形式展開の中で様々な表情が喚起されていくのですが、決して “幻想曲” という枠組みではなく、あくまでもソナタという形式であるというところに魅力を感じています。加えて、この曲は動機的なモチーフによって驚くほどに緻密に構築されていますよね。そのような構築性の中で、先に挙げた様々な局面をいかに表現し、いかに自らの思いを発揮できたらいいなと思っています。
――京増さんとして本来どのようなレパートリーに最も興味を抱いていますか?
幼稚園の頃から師事している石川哲郎先生の影響で、ショパンとバッハはつねに勉強してきました。レパートリーとしては、今後もその二つが軸になってくると思っています。先生はあまり演奏の機会も持たずに、教育者として徹底した活動をなさっています。ものすごく音が美しくて、レッスンの際、先生はアップライト、僕はグランド(ピアノ)で弾いているのですが、アップライトから途轍もなく美しい音が響いてくるんです。僕自身の演奏について曲の構成などについてよりも、音色についてコメントを頂くことが多いのは、先生の美しい音をつねに間近に聴いてきたことが一番の理由だと思います。
――そのようにメンターになってくださる先生がずっと変わらずにいらっしゃるということは心強いですね。
どんなことでも相談しています。レパートリーや演奏会のプログラムについてもいつも相談していて、今回の演奏会のプログラムもアドバイスを頂きました。リストのロ短調ソナタも芸大の卒業演奏で弾いた曲ですので、入試で弾いたベートーヴェンや卒業時に弾いたロ短調ソナタなど、「僕自身にとって思い入れのある重要な作品をこのタイミングで演奏するのはとても意義あることではないか」と言って下さいました。
>(NEXT)修士課程を終え、今後の展望は?
「もう一度聴きたい」と思ってもらえる演奏家に
――今後の展望について、お聞かせください。今年春に芸大の修士を終えられたということで、今年はある意味で飛躍の時とも感じられますが、その点、ご自身ではどのように感じていますか。
昨年、ショパン・コンクールのステージを体験させて頂いて以降、私自身の中で感じていることは、とにかく一人でも多くの方々に演奏を聴いて頂きたいというのと、「もう一度、ぜひ聴いてみたい」と思って頂ける演奏家になれたら、ということです。あとは海外で勉強したり、海外のコンクールを受けたりなど、そのようなことを考えています。
――海外留学については、例えばアメリカとヨーロッパ圏という二つの世界の中で考えるとしたら、どちらを選びますか?
僕はヨーロッパ派ですね。もちろんポーランドも考えたのですが、ドイツ語圏に魅力を感じています。実は昨年のショパン・コンクールでポーランドを訪れたのが、初めてのヨーロッパだったんです。もう歩いているだけでインスピレーションが湧いてきたのを実感しまして、ヨーロッパに滞在できる!と想像しただけでも嬉しいですね。
――最後に演奏会に向けてファンへのメッセージをお願いします。
12月という一年の最後の月での開催ということもありますし、自分自身、学生生活を終えた節目の年であるということも考えますと、自身の歩みを振り返っての集大成ともいえるような演奏会にしたいと思っています。ぜひ、一人でも多くの方々に会場にお越し頂けたら嬉しいです。
取材・文=朝岡久美子

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