望月秀幸・望月左太寿郎インタビュー
~『お囃子プロジェクト×民謡』でク
イーンやベートーベンを民謡とミック
ス!

2022年8月30日(火)紀尾井小ホール にて、『お囃子プロジェクト✕民謡』が開催される。
邦楽囃子の魅力を大勢の人に伝えたいという思いから、歌舞伎や日本舞踊などの舞台で活躍する邦楽囃子演奏家の望月秀幸と望月左太寿郎が2010年から始めた「お囃子プロジェクト」は、伝統的な演奏技法を用いながら、昭和歌謡やジャズ、ビートルズやクイーンなど、幅広いジャンルの楽曲をお囃子アレンジで演奏してきた。今回は民謡とのコラボレーションで、これまでにない新たなステージになるという。
今回の公演に向けての意気込みを、秀幸と左太寿郎に聞いた。
また、本インタビュー終了後に、2022年9月26日(月)紀尾井小ホールにて開催される、秀幸の父である邦楽囃子演奏家の田中佐幸が代表を務める佐幸会の特別公演についても、企画者である秀幸に話を聞いた。
民謡とのコラボは秀幸の父・田中佐幸のある行動がきっかけに
ーーまずは、お囃子プロジェクトの趣旨を教えていただけますか。
秀幸:基本的に古典邦楽の人間は、古典の舞台にしか出演しないんです。でも、将来のために邦楽を普及する活動を自分たちでやらなければ、という意識が芽生え始めて、2010年にお囃子プロジェクトを立ち上げました。当初は我々もまだ20代で何をやっていいかもわからずに、とにかく手探りで公演をやるというところから始めました。古典邦楽の世界は演目と向き合うところがあるのですが、自分たち主催のライブを重ねるうちに観客と向き合うこと、観客を喜ばせることがこのプロジェクトの一番の目的だということを再認識することができました。
望月秀幸
左太寿郎​:これまで20回くらい公演をやってきましたが、昨年、一昨年とコロナ禍で公演中止が3回ありました。コロナ禍でも配信など様々な形で活動をさせていただきましたが、久しぶりにお客様の前で通常の形で公演ができるかなと思っています。また最近感染者が増えてきてしまって、無事に公演が行えるか少し心配になってきましたが……。
ーー今回は民謡とのコラボ公演です。
秀幸:今回ゲストで来てくださる民謡三味線の﨑秀五郎さんとはよくお仕事でご一緒していたのですが、父(田中佐幸)から「秀五郎さんが秀幸と一緒に公演をやりたいと言ってるから連絡してあげて」と言われまして、それでご連絡してみたら、秀五郎さんは父から「秀幸が一緒にやりたいと言ってるから機会があればやってあげて」と聞いていたそうです(笑)。
左太寿郎:その手の回し方は何なんだろうね(笑)。
秀幸:私と秀五郎さんを共演させたいと思ったから、父はそんな行動に出たらしくて、最初は秀五郎さんと2人で戸惑ってしまいましたが、でもせっかくですからいつか一緒にやりましょうというお話しをさせていただいて、今回に繋がったという形です。
ーー秀五郎さんとそういうやり取りをされたのはいつ頃だったのでしょうか?
秀幸:確か2018年か19年くらいです。
左太寿郎:ずいぶん前からそのことは聞いていて、いつかやろうね、なんて話はしていました。
望月左太寿郎
歌を聞かせつつ、お囃子もしっかり聞かせたい
ーー2020年3月のお囃子プロジェクトでクイーンを披露するとおっしゃっていましたが公演が中止になってしまい、今回2年越しでお2人の演奏するクイーンを聞けるのが楽しみです。
秀幸:実は2020年1月のかなっくホール公演のときに一度演奏したんですけど、結構自信作で面白いですよ。そのときは「We Will Rock You」と、長唄の「元禄花見踊」というのをミックスさせたのですが、それ以来、長唄三味線演奏者からは「花見踊を弾くとクイーンが思い浮かぶようになった、勘弁してほしい」と言われます(笑)。
左太寿郎:今回は「We Will Rock You」に黒田節をミックスですからね。
秀幸:ほかにも、ベートーベンの「運命」と「お江戸日本橋」をミックスさせたりとか、もうむちゃくちゃなことをやっています!
ーー今回はプロレス曲も民謡歌手に唄ってもらうとのことで、非常に気になります。
秀幸:私がプロレスが大好きでして、せっかく今回民謡歌手の方に出ていただくので、中村あゆみさんが鈴木みのる選手のために作った「風になれ」という入場曲がありまして、それを歌っていただくようにお願いしました。ただ普通に歌うのではなく、民謡とどういう風にミックスするかがポイントですね。
(左から)望月左太寿郎、望月秀幸
ーー今回歌が入るということで、これまでの公演との違いは感じていらっしゃいますか。
秀幸:アレンジの仕方はだいぶ違います。邦楽はインテンポ(一定の拍子)じゃなくて、民謡の場合は歌の節に三味線をあしらっていくと、波みたいなノリが生まれて、それに乗っかって演奏が進行していくんですね。いつもゲストで来てくださる方々、洋楽器の方々も含めて、こういうノリにも対応してくださるすごい人たちなので助かっています。特に民謡の場合は、地方で伝承されてきた地域性の強いものだったりしますから、縛りが結構あるんです。
佐太寿郎:歌詞は変えられない、とか細かいところで様々な縛りがあるみたいです。我々もまだわからないところがいっぱいあるんですけど、お互いどうやって歩み寄るかというところはよく話し合っていかなければと思っています。
秀幸:ここは譲れない、という部分があるという気持ちはすごくよくわかるんです。我々もそれを貫いて、邦楽囃子としてコラボ公演をやってきたので。
佐太寿郎:歌が入るとどうしてもそちらがメインになるし、観客もやっぱり歌を聞きたいと思うので、そこは大事にしなきゃいけないなと思いつつ、でもお囃子プロジェクトだからお囃子もしっかり聞かせたい、というところでのせめぎ合いですね。
音楽というのは人を楽しませなければならない
ーー今回のゲストミュージシャンが、邦楽囃子演奏者のほか民謡三味線、民謡歌手、そしてパーカッションとギターとチェロという編成です。
秀幸:今回は民謡とお囃子という邦楽✕邦楽のコラボなので、三味線を生かせるように弦楽器でアコースティックな雰囲気を出したいと考えました。パーカッションは、ジャイアン谷口さんがどうしても出してくれって頼むから仕方なく入れました(笑)。
左太寿郎:ジャイアン谷口さんは、お囃子プロジェクトへの貢献度が非常に高い方です。
望月左太寿郎
秀幸:彼とは「仙波清彦&カルガモーズ」というバンドで一緒にやっていました。邦楽の心得もあってお囃子の譜面が読めるので、アレンジをどうしたらいいか相談に乗ってもらっています。仙波清彦さんからは、音楽というのは人を楽しませなければならない、ライブなんだからいろんなことがあって当たり前、それをお客さんに楽しんでもらわなきゃいけないし、自分たちも楽しまなくちゃいけない、そうじゃないと音楽は生きない、ということを教えてもらいました。そのときの経験があったからこそ、お囃子プロジェクトでやっているコラボに繋がっているなと感じます。
ーー公演に向けて、お客様へのメッセージをお願いします。
秀幸:歌が入ったり、2つの楽曲をミックスする曲目が多かったりと、新しい試みがかなり多くて、これまでにないお囃子プロジェクトをお見せできるんじゃないかと思いますので、ぜひ足を運んでいただけたら嬉しい限りです。
左太寿郎:お囃子プロジェクトを見たことがある方も、初めての方も、どんな状況であれ「楽しかったな」と言っていただける気楽なプロジェクトだと思いますので、まずは劇場に来ていただきたいと切に願うばかりです。

続いて、『特別公演2022 邦楽囃子 佐幸会』について秀幸に話を聞いた。
ーーまずは佐幸会の趣旨について教えていただけますか。
秀幸:佐幸会はお囃子プロジェクトとは打って変わって、古典邦楽の演奏会です。自分たちの技術の研鑽の場でもあり、お客様に古典邦楽を聞いていただく場でもあるという会です。通常ですと、自分たちの知り合いの範囲内に声をかけてお客様をお呼びするという内内での会として開催するのですが、今回初めて一般向けにも広報することで古典邦楽の公演を広く知っていただこうということになりました。こうした会で、ここまで大きな規模で公演を行うことは初めてです。
望月秀幸
ーー今回の演目について教えてください。
秀幸:長唄「翁千歳」と素囃子「三番叟」は、元々長唄のひとつの曲で、古典奏法を重視した非常に難しい演目です。今回は「翁」の部分を長唄で演奏し、「三番叟」の部分はお囃子だけで演奏する素囃子という特殊演出です。邦楽囃子は常に長唄とセットなので、素囃子で演奏できる曲があまりないんですよ。今回ご指導いただく梅屋福太郎先生は能楽を非常によく勉強されていて、私に「お囃子だけで何かできる能力を身に着けないといけない」ということを教えてくださった方です。先生の指導の下に能楽由来の「三番叟」を勉強して、歌舞伎囃子の演目として成立させたい、ということを父と先生に相談しまして、今回の公演で実現できることになりました。今からプレッシャーに押しつぶされそうなくらい、大きな挑戦です。
ーー今回はおめでたい曲が3つ並びました。
秀幸:自分のやりたい曲を並べてみたら、たまたまそうなりました。日本舞踊「七福神」は、ゲストで出演してくれる藤間豊彦くんから「やりたい曲」として挙がりました。僕にとってこの曲は、中村勘三郎さんがパーティーの余興とかでよく踊っていらっしゃったイメージがとても強いんです。短くて、明るく華やかな面白い演目だと思います。
ーー初心者の方やあまり邦楽囃子になじみのない方に向けて、楽しみ方のポイントを教えてください。
秀幸:「七福神」は踊りもあって華やかな楽曲なので、ただ見るだけで十分お楽しみいただけると思います。「三番叟」はトランスミュージックのような演目なので、どこまで演奏者がトランス状態に陥れるかが面白い演奏になるかのポイントですね。「翁千歳」は非常に難しい長唄なので、歌舞伎音楽でもこんなにシュールな世界観があるんだ、というところを楽しんでいただければと思います。選曲的にはちょっと通好みなところがありますが、若い年代の演者がなかなかチャレンジできないような難曲に挑むというところにご期待いただけたら嬉しいです。
(左から)望月左太寿郎、望月秀幸
取材・文=久田絢子    撮影=荒川 潤

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