【土岐隼一 インタビュー】
アルバム全体で
30代の大人な感性を表現できたら
自分にとっての音楽とは
“何も考えずに楽しく聴けるもの”
では、ここからは新曲についてうかがっていきます。M1「Nonfictional」は歌詞からも“等身大”感があふれていて、今回のアルバムコンセプトを象徴するような楽曲ですね。
そうですね。最初にこの曲を収録したわけではないんですけど、収録が終わった瞬間は、僕もスタッフ陣も満場一致で“これは1曲目だね”ってなりました。33歳って社会に出てから10年以上が経ち、もう若手ではないけど、かと言ってベテランでもないという、すごく微妙な時期じゃないですか。忙しい日常にすっかり慣れて、でもそれが嫌なわけでもない。テレビで同世代のキラキラした芸能人なんかを観ても、まぁそれはそれ、自分は自分っていう、どこか前向きな諦めがありますよね。それが良いか悪いかはさておき、そういった30代特有の感性や感覚を詰め込みました。
曲調はかなりジャジーで、この大人っぽさやお洒落感も今回のアルバムの大きな特徴のように思います。
僕もそう思います。曲調も歌詞も含めて、アルバムのひとつの顔になってくれましたね。
M2「Good For」はアルバムのリード曲で、ラジオMCとしてリスナーの悩みに答えているような歌詞ですね。
実際にラジオをやらせてもらっているんですけど、やっぱりいろいろな悩み相談が寄せられてくるんですよ。人に偉そうなアドバイスを送れるほど人生経験は積んではいませんが、どこかで“やりたいようにやれば、案外なんとかなるよ”と思っているんです。それって年齢が上がるにつれてそういう感覚が強くなっていきますよね。それこそ僕自身も先輩がポロっと口にしたアドバイスが胸に染みて、それを未だに大切にしていたりもしますから。時には強いメッセージを届けることも大切だと思いますが、基本的には気楽に構えてほしいので、この曲も肩肘張らずに聴いてほしいですね。
M4「半端な Distance」はとてもテクニカルかつお洒落な楽曲ですね。
確かに歌唱的にも楽曲的にも変則的でテクニカルではあるんですけど、僕は子供の頃からR&Bや洋楽に親しんできましたし、リズムと歌詞が融合するような音遊びのある楽曲は大好きなんですよ。なので、不思議と歌いにくい感じはしなくて。むしろ、この曲はもっとも僕好みな音楽的感性が出ているんじゃないかと思います。
M5「original scenery」でもそうですが、ラップにも挑戦されていますね。
昔の僕だったらなかなか難しかったと思いますが、声優活動のほうでヒップホップのコンテンツに参加して、そこでいろいろなことを経験させてもらったことが大きいですね。その成果がこの2曲のラップには存分に発揮されていますね。
その「original scenery」では故郷に対する複雑な想いが綴られていて。
これは別の曲をレコーディングしている最中の雑談から生まれた曲なんです。僕は東京出身なのですが、生まれ育った街が今大規模開発でがらりと変わっているんですよ。学生の頃は、なんとなく“野暮ったい街だな”なんて思っていたんですけど、いざ整備された街並みを見ると、それはそれで寂しくて。自分勝手なものですよね(笑)。故郷についての感覚は人それぞれだとは思うんですけど、自分の身体の奥深くに染み込んでいるのは確かで、それは拭い去ることはできないですよね。単に故郷が恋しいとか、そういうノスタルジーではないんですけど、この感覚って分かります?
その土地での思い出も含め、故郷のことを“最高”と言える人はそう多くはないですよね。それでもどこかで自分のルーツとして受け入れる瞬間というのはあるんだと思います。
そうなんです! もしかするとこの感覚は10代の若い人や地元に住み続けている人には伝わりにくいかもしれないですけど、故郷を離れて数年経てばしっくりくる歌詞になっているんじゃないかと思います。今はよく分からないという人も、ぜひその時になったら改めて聴き直してください(笑)。
M6「ワスレモノ」はピアノ主体のバラードです。恋愛を綴った歌詞といい、ここまで王道でストレートなのは珍しいですね。
ここまでストレートな表現は、これまではむしろ避けてきた気もします。もしシングルのカップリングにこんなに強い失恋バラードが入っていたら“おいおい、どうした土岐?”ってなりますよね(笑)。
フルアルバムだからこそ入れられた楽曲なんですね。とてもシンプルな構成なので、土岐さんの歌唱力の高さが際立っています。
ありがとうございます。この曲は確かに僕の歌唱が全てを決めてしまうと思っていたので、かなり覚悟を持って収録に臨みました。全ての音に対して力を入れてしまうとすごく濃い歌になってしまうため、緩急はかなり意識しましたね。今の僕が持っているスキルや表現方法というのは、この曲で出し切れたと思います。
M10「Home」は作家の朝井リョウさんが作詞を手がけた異色作です。
この曲は岐阜県垂井町のPRアニメ『関ヶ原合戦 岐路に立った垂井の武将たち』のエンディングテーマで、そのご縁で垂井町出身の朝井リョウさんが作詞してくださったんです。すごくポップでさわやかな歌詞なんですけど、そんな中に《呪いも祝いに さあ塗り替えて》というフレーズがあって。垂井町は関ヶ原の戦いの舞台となった場所で、大勢の兵がいろいろな想いを抱えながら命を散らせていった暗い歴史もあるんです。だからこその“呪い”なんですけど、軽やかな曲と歌詞の中で、これほどまできれいに“呪い”というワードを使える人がいるんだろうかと思って感動しました。本当に素晴らしい曲をいただけたなと。
新曲の最後はM12「きっと、もっと」。Bメロで急にレゲエ調になったり、かと思えば力強いギターリフが入るなど、ジャンルにとらわれない土岐さんらしい楽曲ですね。
そうですね。僕の中での音楽って、“何も考えずに楽しく聴けるもの”というのが根底にあるんです。だから、アルバムの最後は聴くだけで陽気でニコニコになれる楽曲を選びました。人生にはいろいろなことがあって、もちろんつらいこともあるんだけれど、最後はみんなで笑って終わろうっていう、そんな僕の人生観が一番よく表れた曲になったと思います。
完成した『Good For』ですが、リスナーにはどう受け止めてほしいですか?
『Good For』は僕という人間の原風景にある音楽と、33歳の等身大の姿を最大限に表現できたアルバムになったと思っています。ぜひみなさまにとっての“Good For(ぴったりな)”な一曲を見つけていただければ。この先どんな音楽に挑戦していくかは自分でも想像が付きませんが(笑)、ぜひこれからも応援していただけると嬉しいです。
そんなアルバムを引っ提げてのライブも10月に予定されています。まだ少し先のことですが意気込みはいかがですか?
今回のアルバムで持ち歌が増えて、もはやライブで全曲を披露するのが難しくなってきたんですけど、“今日はどの曲が聴けるのかな?”ってワクワクするのもライブの醍醐味のひとつだと思いますので、それが素直に嬉しいです。10月のライブではそれぞれの楽曲の世界観を最大限に生かして、陽気な曲はとことん楽しく、クールな曲は全力でカッコつけて歌っていきたいので、楽しみにしていてください。
取材:岡本大介
・・・
アルバム『Good For』2022年5月18日発売
PONY CANYON
- 【初回限定盤】(CD+DVD)
- PCCG-02134
- ¥4,180(税込)
- 【通常盤】(CD)
- PCCG-02135
- ¥3,300(税込)
- 【きゃにめ限定盤】(CD+DVD)
- SCCG-00100
- ¥5,280(税込)
『土岐隼一1stフルアルバム発売記念スペシャルライブ(仮)』
10/02(日) 東京・なかのZERO 大ホール
【昼の部】14:00開場/15:00開演
【夜の部】18:00開場/19:00開演
トキシュンイチ:東京都出身、2014年より本格的に声優活動を開始。『東京リベンジャーズ』(羽宮一虎)、『大正オトメ御伽話』(白鳥 策)、『シュート! Goal to the Future』(黒川昴流)、『真夜中のオカルト公務員』(琥珀)などの人気アニメ作品の出演のほか、『プロジェクトセカイ カラフルステージ ! 初音ミク』(神代 類)、『A3!』(瑠璃川 幸)などのゲームへの出演も果たし数々のキャラクターソングを歌唱している。19年 5 月に TV アニメ『真夜中のオカルト公務員』ED テーマ「約束のOverture」にてアーティストデビューし、22年1月には1stフルライブ 『土岐隼一 Special Live 2022 -真心に奏-』 をなかの ZERO 大ホール にて開催。22年5には1stフルアルバム『Good For』をリリース。
「Good For」MV short ver.
「Home」リリックビデオ
「真心に奏」MV
『Good For』全曲試聴動画