【おいしくるメロンパン
インタビュー】
技法によって曲は変わっていくけど、
表現したいものは変わっていない
自分たちがやりたいことだけでなく
ライヴを客観視してツアーに挑む
L→R 峯岸翔雪（Ba）、ナカシマ（Vo＆Gu）、原 駿太郎（Dr）
そして、「灰羽」。これは独特なリズムパターンですね。
ナカシマ
他の曲を分かりやすくするぶん、自分のエゴをここに集中させようと思って作りました。思いっきりやっちゃおう！と、ストレス発散してます。
間奏から後半にかけて爆発していく感じがいいです。
原
今回の5曲の中で一番、聴いた時にテンションが上がった曲です。こういう5拍子の曲は他にもあるんですね。前作の『theory』に収録されている「獣」もすごく好きで、“最高の5拍子の曲だ！ これを超える曲はなかなかない”と思っていたら、「灰羽」もめちゃくちゃカッコ良くて。気持ち良さ、カッコ良さが「獣」に勝るぐらいの曲になったと思っていて、ライヴでもいい感じになると思っています。
こういう曲が入っていることでバンドの個性というか、印が見えてくる感じがしますね。
峯岸
好き勝手というか、何も考えずにフレーズを弾いたのでレコーディングは大変でしたけど。でも、この曲は他にはない曲構成でおいしくるメロパン・ブランドだと思います。“聴きにくいかもしれないけど、俺たちはこういうのが好きなんだよ”って。ライヴリハをやっていても「灰羽」はすごく良くて、しゃべる流れじゃないんですけど「灰羽」が終わったあとは“これ一番いいね！”って必ず口にするんですよ（笑）。次のワンマンで披露するのが楽しみです。
“灰羽”ってあまり聞かない言葉ですけど、これはアニメから取っているんですか？
ナカシマ
そうです。『灰羽連盟』というアニメがありまして、ある日、女の子が空から落ちてくるところから始まって、死後の世界か分からないですけど、その子がそこで天使として活動するという。天使が集まるコロニーがあって、そこに住んでいる人たちに奉仕して生活していく話なんです。その『灰羽連盟』をイメージしながら作ったので、悩みに悩んでこのタイトルにしました。
心に残っているアニメなんですね。
ナカシマ
僕はすごく好きなんですけど、平坦な物語だから食い入るように観るものではないんですよね。“こいつ、こういうことを思っているのかな？”と余白の部分を楽しんだり。オープニングも歌が入ってなくて、ずっとBGMなんですよ。“よくこんなものを作ったな!?”って思いながら観ていました。主人公は完全な天使ではないから灰色の羽が生えているので、この曲も人に作られた天使というか、完全な天使ではないから“灰羽”にしました。自分の意志では存在していなくて、誰かに存在させられている不自由さみたいなものをメタファーとして表現しているアニメだと思うんですけど、それは自分にも重なる部分があるというか、ずっと根底にある意識から作った曲という気がしています。
なるほど。今回はさわやかさを感じさせる曲が多いですが、夏前の季節感を盛り込もうという意識はあったんですか？
ナカシマ
5月頃に出したいという想定はあったので、夏っぽい感じは欲しいと思っていました。季節感は常に意識していて、“いつ頃に聴くのかな？”というのは考えながら作っています。でも、なぜか秋とか冬にリリースすることが多くて、夏前に出せることが今までなかったんですよね。
“cubism”というタイトルですが、これは最初から考えていたんですか？
ナカシマ
これは最後につけました。候補は他にもあって、いくつか出した中でみんなの意見が一致したのでこれに決めました。
“キュビズム”は初期のピカソのような、ひとつの顔がいろんな角度から見える絵画の手法ですよね。そういう多面体みたいに、いろんな見え方、違った見方ができるという意味ですか？
ナカシマ
そう意識したところはありました。思えば僕らの音楽はずっとそういうところがあると思います。ひとつの表現したい核をどう表現するかって。その技法によって曲は変わっていくけど、表現したいもの自体は実はあまり変わっていない。今回はそういうところが如実に表れた作品だと思います。あと、「Utopia」の歌詞でも表現していたんですが、僕らは箱の中に存在していると思っているんです。抽象的ですけど、いろんな制約の中にいて、それは僕らを守るためでもあり、閉じ込めるためでもある。それは内側にいると何も分からないままだなと。それってバンドの在り方として内側にばかり向いていたというのもあるし、世界情勢的なものだったり、人とのコミュニケーションで生じるやりにくさだったり、言語の壁や認識の壁だったり、いろんなものから感じていて。そこで“cube＝箱”というイメージが湧き上がってきたんです。
“cubism”の“cube”は箱なんですね？
ナカシマ
はい。箱の“cube”という意味でも裏テーマ的に通じると思って。
集団や組織ごとにいろんな箱があって、重なったり離れたり、互いに見え方やとらえ方が違ったり。
ナカシマ
そうですね。
幅広い言い方をすると、人間の在り方みたいなことですよね。鳥籠のジャケットはそこと関係あるんですか？
ナカシマ
まずはキュビズム的な手法を考えて、絵だとまんまキュビズムになるので、写真で表現したいということをデザイナーの方に話しました。その中で、鳥籠が一番しっくりきたんです。“閉じている、でも守られている”みたいなのがぴったりだったので、こういう感じになったと思います。
そして、6月からはツアーがスタートしますね。
ナカシマ
はい。リリースツアーでは毎回そのアルバムの曲をいかに映えさえるかということを考えていて。でも、地続きの世界観で曲ができてくるので、今までの曲とどういうつながりがあるかというところまで考えてセットリストを組んでいます。
峯岸
今まではライヴ全体を通して確固たるひとつの流れを考えて作っていたんですけど、今回はお客さんに対してフレンドリーというか、僕らが打ち出したいイメージをちょっと抑えて、聴きやすいみたいなことを考えつつも曲の見せ方も大切にしたいと思っています。ひと言で言うなら、今までよりも聴きやすい（笑）。“こういう観方をしないといけない”というようなライヴじゃなくて、誰がどう観ようが、これがおいしくるメロンパンだと感じてもらえるようなセットリストになっていると思います。
でも、これまでの積み重ねがあるわけだから、そのバランスは難しいですよね？
峯岸
難しいんですけど、ゴチャゴチャしないできれいに、単純にカッコ良い部分を多めにつなぎを考えていこうと思っています。最終的にどうなるか分からないですけど、楽しみにしていてほしいですね。
原
『cubism』が今までよりとっつきやすいアルバムになっているし、ライヴも聴きやすいかたちになると思います。今までは息苦しさや緊張感がある箇所が多くて、一本のライヴとしての起伏ががっちりあったんですけど、お客さんに寄り添いたいという意識が生まれてきて。あまり深いところへ落としすぎず、以前より楽な感じで観られるワンマンになるかな？
ナカシマ
わりとライヴも曲もそうですけど、今までは自分たちの“こうやりたい”っていうことが最優先だったんです。でも、“こういうふうに表現したい”っていうのと、お客さんが観た時にどうとらえるかはまったく別の話で。僕らは演奏しているから集中して世界に潜り込んでいるけれど、聴いている側にしては重い曲ばかりだとストレスがかかってくる感じがある。それだと、こっちが表現していても受け取ることが難しくなることがあるんじゃないかって。それは前々から感じていたんですけど、それでもいいと思っていたのを、今回こういうミニアルバムを作ったことで、受け手側からも考えてみようということになったんです。なので、自分たちのライヴを客観視して、もう一度、意識を変えてセットリストを組んでみようかなと。何を表現しているのか、今までより受け取りやすくなるんじゃないかと思います。
取材：岡本 明
「Utopia」MV
「桜の木の下には」(LIVE)
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