村上佳佑

村上佳佑

【村上佳佑 インタビュー】
ささやかだけど、
誰かのエールソングになれば嬉しい

日常の中にある
小さな糸口を逃したくない

なるほど。では、ここからは最新曲「Alright」ですが、昨年に3カ月連続でリリースされた配信シングルとの連続性はありますか?

実はないです。でも、曲自体は「風の名前」(2021年7月発表)を書いた時期と同じだから、そういった意味では当時伝えたいと思っていたものとマインドは変わらないですね。この曲は「風の名前」以上に前向きな曲で、当時の自分に宛てて書いたんです。人間ってバイオリズムがあるじゃないですか。自分の中でそのバイオリズムが抜ける瞬間…肩の荷が降りる瞬間というのがあるんですよ。それは、週末に温泉に行くからそれを楽しみに頑張れるでもいいですし、ひさびさに家族に会えるからすごく楽しみで気持ちが癒されているでもいいですし。日常の中で多幸感に包まれる瞬間があって、この曲はその瞬間に書いた歌詞なんですよね。

だから、ポジティビティーにあふれているんですね。

ある時、“何かを変えられるかもしれない”と気持ちが前向きになれる瞬間があったんですね。明るい未来を想像した時に、この歌詞を書いたんです。《朝に目が覚めて 何かを変えたくて/わけもなくスニーカーを履いた》という歌い出しがまさにそれで。日常のふとした瞬間、そういうちょっとした気持ちが、自分の大きなマインドへとつなげていけているんだろうなと思って。だから、日常の中にある小さな糸口を逃したくないという想いを込めた曲だと思います。

なるほど。その小さな気づきを大切にしたいと。

ちょっとした幸せが目の前にあった時、それを手繰り寄せて辿っていくと、最終的には何か大きな扉を開くきっかけになる。だから、目の前のちょっとした幸せやいい流れをちゃんと丁寧に紡いで、それをまたつないでくれた人へ戻していく。それはもしかしたら親かもしれないし、友達かもしれない。だから、僕はこの曲へのコメントで“情けは人の為 ならず”と書いたんです。これは、“情けは人のためにならないよ”ではなく、情けをかければ、結局それが巡り巡って自分のためになるはずだと。それは必ずは返ってこないかもしれないけど…でも、人にやさしくすることは結局のところ自分のためになるし、自分の心の余裕にもつながると思うんです。

他人へのやさしさは最終的には自分に返ってくると。

はい。ただ、“ひとりの人間がどこまでできるんですか?”と言われると思うんですけどね。僕は大統領でも首相でもないから、まずは自分の幸せを願う。で、ひとりひとりがちょっと頑張って家族を幸せにすれば、みんな幸せになれるんです。そして、きっと世界中が幸せになれると思う。時代によっては戦争とか、人を押しのけることが必要なこともあるかもしれないけど、僕はみんなにやさしくしようというマインドで生きています。だから、僕のライヴに来た人は、めちゃくちゃやさしくなって帰ってほしいんですよ。人間って自分の周りにいる5人の平均をとったような人になると言われているじゃないですか。でも、僕のライヴに来てくれる人には、僕が紡ぐ音楽から僕の価値観、人間性を感じとって、“もっと人にやさしくしたいと思った”や “やさしくなれるかもと思った”…“素直に明日、お母さんに謝れる”とか何でもいいんですけど、そういう気持ちになってもらいたいんです。そして、その日の帰り道に何かひとつでも人に譲る余裕が生まれて、帰りの電車で席が必要そうな人がいたら席を譲るとか…ほんと何でもいいんですよ。そういう気持ちになって帰ってもらえたら万々歳なんで。そんな気持ちが伝わった時は嬉しいです。僕が音楽でやりたいことは“世の中を平和にしたい”ということで…伝わらない人がいるのももちろん分かっています。でも、僕はそれを信じて音楽をやっているんです。

村上さんがエールソングを歌う背景にそんな想いがあったのですね。では、また「Alright」のお話に戻って、この曲の一番で《背負って》というところは“しょって”と歌っていますよね。

歌っています。“せおって”とは歌っていないです。

そうなんですね…サビの《声高にエールを》は“コロナ禍にエールを”と歌っている?

みなさんそうおっしゃるんですけど、そうは歌っていないです(笑)。

今はライヴで“コロナ禍にエールを”と意識して歌っているとかも?

していないです(笑)。ちゃんと♪声高に〜と歌っています。僕はそう歌っているから、未だに“コロナ禍にエールを”とは聴こえないんですけどね。

失礼しました(笑)。サビのコーラスワークは?

全部、僕が歌いました。《声高にエールを》は曲ができた段階からあったから、コーラスはまさにエールのイメージです。あそこはみんなで歌うイメージだったので、ライヴの時にみんなでエールを叫んで、お互いを鼓舞し合っていけたらいいなと思ってコーラスを入れました。

サウンドにはカントリーブルースな匂いがしますね。

確かにありますね。

イントロのギター、ピアノの音色がそれを物語っていると思うのですが。村上さんってドロくさい音色がお好きですよね?

好きですね。

過去の音源もそうなんですけど、ここは声質に合わせてクリーンでいいのにと思う箇所でも、しゃがれたビンテージ感のあるドロくさい音色のものを選んでおられて。

そういうのが好きなんですよね。自分は声がジャリジャリとしていないから歌えないんですけど、本当はファンクを歌いたくて(笑)。実は一番好きなジャンルはファンクなんですよ。Sly & the Family Stoneとかも大好き。ベースがブリブリと鳴っている曲とか。

この曲もイントロで急にベースが突っ込んできますもんね。

そうです、そうです! ああいうのが好きなんです。自分がテンションが上がるのがこういうのだから仕方ない(笑)。

サウンドのエッセンス、さらにはAメロのフレージングも洋楽的で。

3連符で歌っているので、まさにブルースですよね。これが心地良いと思いながら作っていたから、それが出ちゃった(笑)。僕はロジックから曲は書かないんですよ。ロジックなどもいろいろと分かった上で、最終的には感性で作っています。メロディーは100パーセントそうですね。それをJ-POPに落とし込んで作っていく感じです。

Dメロのコーラスはゴスペルのイメージですか?

そうですね。僕はゴスペルを習ったりしたことはないのですが、レイ・チャールズがゴスペルをポップミュージックに落とし込み出した時代の音楽が大好きで。その程度なので、あまり神につながるような賛美歌ではないんですけど…。

神々しい重厚感はないですもんね。

分かります。ゴスペルという音楽が紡いだ、あの何かを賛美する感じ。「Alright」で言ったら、やって来る素晴らしい未来を賛美するためのコーラスワークだったんです。だから、《Everything‘s gonna be alright》という歌詞を入れました。

そこに一瞬だけ転調が入ってね。

それでまたもとに戻るんです。あれはアレンジャーの松室政哉くんのアイディアです。

あの転調の瞬間、シーンが止まる。そして、ブルージーなこの曲の景色が一瞬だけ透き通って、そこに光が差すんですよね。

この曲はここに転調があるかないかで印象が全然違いますよね。転調は松室くんがゴスペルワークに引っ張られたんだと思います。

本当に素晴らしかったです。この曲はリスナーへどんなふうに届いてほしいですか?

人生ってちょっとした選択の違いであらぬ方向に転ぶし、すごくいい方向にも転ぶ。そのきっかけってものすごく些細で、ちょっとした選択だと思うんです。外に出るのが面倒だと思っても“今日は天気がいいから外に行こうかな?”と思ったら、そのちょっとした想いを紡いでいってほしい。髪の毛を整えるのが面倒くさい、着替えるのが面倒くさいと思っても、ちょっと頑張るだけで思っていた以上のフィードバックがあるはずだから。それが次の大きな幸運を呼び寄せてくれると思うんです。そのきっかけに出会った時に、この曲を聴いてもらえたらいいなと思います。例えば、朝に気分を良くしたいという時に聴いてもらって、何か幸せを呼び寄せてもらえるような。そんなささやかだけど、それぞれのエールソングになれば嬉しいですね。

取材:東條祥恵

配信シングル「Alright」2022年4月6日配信 Village U. Records
    • ※詳細はオフィシャルHP等をチェック

ライヴ情報

『クリス・ハート 全国ホールツアー2022「LOVE IS MUSIC」』
※ゲストコーラスとして参加 
詳細はこちら:https://chris-hart.jp
『SEASONS TV#3』
5/24(火) 東京・Spotify O-EAST

村上佳佑 プロフィール

ムラカミケイスケ:1989年、静岡県生まれのシンガーソングライター。幼少期に5年間、アメリカのジョージア州アトランタにて生活し、帰国後は静岡県富士市で高校生活を送った後、京都府の立命館大学へ入学。大学時代に出会ったメンバーで、話題を集めたアカペラグループ・A-Z(アズ)を結成。09年にフジテレビの『ハモネプリーグ』で番組史上最高となる99点で優勝し、各所から称賛を得た。11年まで同グループで活動するも大学卒業を機に解散。その後ソロに転じ、本格的に作曲を始める。16年にクリス・ハートの乱読ライヴ、47都道府県ツアーにコーラスとして参加。そして、『NIVEAブランド』の16~17年のCMソング「まもりたい~この両手の中~」にデビュー前のアーティストとしては異例の大抜擢。17年6月にミニアルバム『まもりたい』を発売した。18年11月に自身初となる1stアルバム『Circle』をリリース。21年に3カ月連続で配信シングルを発表し、22年4月に配信シングル「Alright」を発表。同年6月にデビュー5周年を迎え、配信シングル「なんのために」をリリースし、7月に京都での初ワンマンライヴ『Kei’s room vol.9』を開催する。村上佳佑 オフィシャルHP

「Alright」MV

OKMusic編集部

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