【村上佳佑 インタビュー】
ささやかだけど、
誰かのエールソングになれば嬉しい
昨年の3カ月連続でリリースされた配信シングルを経て、届けられた新曲「Alright」。ゴスペルの香りがするコーラスを取り入れた同曲の制作過程はもちろん、人々に音楽でエールを送り続けている想いにも迫った。
笑っていられるから
自然に幸せが入ってくる
昨年は7月から3カ月連続で配信シングル「風の名前」「Close my eyes」「Somebody」をリリースされましたが、このような試みをやってみてどうでしたか?
1stフルアルバム『Circle』(2018年11月発表)を出して以来、2年9カ月振りのリリースだったんです。その間にコロナ禍になったことによって僕自身も、僕の周りの人たちも、世の中的にも、何をどうしたらいいか分からなかったと思うんですね。だから、念密な計画があってというよりも、動かないと何も始まらないからとにかく動こうという気持ちで立ち上がった試みでした。なので、曲自体はこのために書いたものではなくて、年半ぐらい前からあったんです。ライヴでもやっていたんですけど、コロナ禍でも動き出そうという話になった時、まずは自分を鼓舞するために理由で1曲目に「風の名前」を選びました。
この曲はどんなイメージから生まれたんですか?
ライヴハウスよりももっと大きなステージの規模感で届けられる曲を書きたくて作りました。このずっと着地せずに浮遊しているようなヴォイシングって、僕の中ではColdplayのユニバーサルな感じがしているんですけどね。
あぁ、言われてみるとそういうものを感じますね。
歌詞は今回の「Alright」もそうですけど、“幸せになるから笑うんじゃなくて、笑っていられるから自然に幸せが入ってくる”ということなんです。なんかすっきりしない、抜けきれない時は、とにかく先に動いて幸せを呼び込む。そんなマインドを少しでも脳に与えよう!という曲です。曲を書いた時は正直スタートラインには立てていなかったタイミングだったんですけど、自分を鼓舞したくてリリースしました。
次の「Close my eyes」は、また立ち位置が違うラブバラードですね。
美しいバラードを書きたいと思っている時に降ってきた曲です。みんながコロナ禍で一番ガツンとやられている時に、時代も空気も止まっちゃっているけど、何か動いて前に進みたいと僕はもがきたくて、とにかく曲を書いていたんですね。その中の一曲がこれです。僕はその時に元One Directionのハリー・スタイルズをよく聴いていたんです。彼の「Falling」という消え入りそうな美しいバラード曲を聴くとモノクロとかセピアの色味まで見えてきて素敵だなと思っていたら「Close my eyes」を書いていましたね。
でも、「Close my eyes」は切ない感じではなかったですよね?
僕が書いたら結局ラブソングになってしまい、悲しい曲にならなかったです。その時に見えてきたビジョンは“自分の大切な人との日常の中での何気ない瞬間”で。歌詞にもあるんですけど、映画を観ていたら向こうが先に寝落ちしちゃって、“これだけ心を許してくれてるんだな”と感じる瞬間、呼吸する音さら小さくしたくなる気持ち。あの空気感を書きました。
3曲の中では英詞も使い、洋楽的メロディーが一番出た「Somebody」は?
これは3曲の中で一番古い曲で、北海道に行く飛行機の中で作りました。その時、気持ちが塞ぎ込んでいて、“なんかうまいかないなぁ”という時期だったんですね。人間って逃げ出したくなる瞬間があるじゃないですか。
ええ。何もかも捨ててね。
そう。逃げ出したい時に逃げていい時も人間には絶対にあって。それが人によっては夜の街かもしれないし、自分が気を許した仲間と一緒にボーッとする時かもしれないし、母親的な存在の人にギュっと抱きしめてもらう時かもしれない。そういうエスケープポイントが僕にはなかったんですよ。それを曲に求めたんだと思います。だから、僕の心の嘆きがそのまま曲になった印象ですね。
そもそも村上さんが作曲を始めたきっかけは?
必要に駆られてです。僕はもともとただ歌が歌いたいという人だったんです。それは自分の曲でもいいし、他の人の曲でも良くて。だから、曲を書くこととかギターの演奏もそんなに練習してきていなかったんですよ。でも、必要に駆られて曲を書くようになり、2014年にデビューをする前ぐらいから曲を書く勉強をし出しました。曲を書くことが楽しくなったのは、ほんと昨年とか一昨年の話なんです。
比較的、最近の話ですね。
はい。それまではライヴをやりたいから書いていたんですけど、今は単純に楽しいから書いています。
歌以外に曲を書くことも自分を表現するアイテムになっていったと。
そうだと思います。アコースティクライヴで自分の曲をやるのがすごく腑に落ちたのも最近ですし。今までは弾き語るスタイルも自分の中ではピンとこなかったんです。楽器を弾いていると歌に集中しきれなくなるので、共存させるのが物理的になかなかしんどかった。だけど、これはこれでこの演奏形態だからこそ、すごい自分の良さを出せる編成なんだと思って。
ギターで弾き語るスタイルも自己表現になっていった?
はい。曲の中でテンポが変わるのが唯一許される形態なんですよね。特にバラードを歌う時は、テンポを気にしない瞬間が心地良くて。アコースティックでやる面白さも最近は楽しめるようになってきました。
村上さんが作る曲やメロディー、言葉の乗せ方、サウンド感、楽器選び、使っている音色には薄っすら洋楽のエッセンスが散りばめられていますよね。
やっている音楽がJ-POPなのであまり洋楽のルーツ感は出ていなかったと思うのですが、実はジャズからブルースから、いろいろな音楽が好きなんです。
サッカーをやっておられたからか、透明感のあるファルセットからは想像もできないほど骨格がしっかりしてらっしゃいますね。
スポーツとかをやっていなさそうに見られるのですが、身体は骨太ですし、首も太いんですよ。胸板も“しっかりしているね”とよく言われます。グルーブのある曲の声のバネ感は運動神経や筋肉のバネが良くないと出せないと思うんですよね。なので、僕の音楽性やサウンドの根幹を担っているのはそういうサウンドなんです。