【ハラミちゃん インタビュー】
年代をつなぐ架け橋だったり、
伝道師みたいな役割を果たしたい
自分が主役になるというよりも
原曲が主役になるようなスタイルが好き
「BOHEMIAN RHAPSODY」は技術的に問題ないとおっしゃいましたが、コピーしないといけないものが多いですよね。ギターソロなどもしっかりコピーされていて、“おおっ!”と思いました。
私はバンドサウンドをコピーする時に全部の楽器を耳コピするんです。ドラムはどういうビートパターンで、どこにどういうフィルが入るのかとか、ベースはどう動いているのかといったことを分析して。そうすると全体で聴いた時は分からなかったけど、“ここでギターがこんなに細かいリフを弾いているんだ!?”という発見があったりして。そういう全部の要素が折り重なって、パッと聴いた時の印象が生まれているんですよね。なので、10本の指でできる限りのことをするスタンスで、楽曲をピアノに置き換えています。
バンドサウンドを分析されていることは今作に収録されている「そばかす」(JUDY AND MARY)や「Rusty Nail」(X JAPAN)などを聴いても分かります。今作のカバーソングはハラミちゃんの解釈で大幅にリアレンジしたりするパターンではなく、原曲の持ち味を活かしていることもポイントです。
音楽の解釈というのは100人いたら100通りあると思うんです。私も“自分はこう受け止めました”という意味を込めて、アレンジさせていただくこともありますから。自分の技術をものすごく織り込むようなアレンジをする方もいらっしゃって、そういうのも素敵で感動するし、カッコ良いと思うんです。でも、ハラミちゃんのスタイルとしてはわりと原曲に忠実なことが多くて、それは原曲の素晴らしさを知ってもらいたいからなんですね。さっき話した伝道師や架け橋になりたいという想いとシンクロしていて、原曲を崩しすぎて自分が主役になるよりも原曲が主役になるようなスタイルが自分は好きで、そこは意識しています。
聴きやすさとピアノのテクニックのバランスが絶妙です。では、続いてオリジナル曲について話しましょう。「雨」はエモーショナルなスローチューンですね。
「雨」は昨年作った曲ですね。私は雨がめっちゃ嫌いなんです。雨がめっちゃ好きな人はあまりいないと思いますけど(笑)。雨の日はすごく眠くなってしまったり、頭痛がしたりして苦手なんですよ。でも、雨が降ってぐたぁ〜となっていた日は、自分の内側と向き合ったり、自分の中身が感じられることが多くて、貴重な日だと思ったことがあって。そういうことを曲にしたらどういうものになるんだろうと、ふと思いついて書き始めました。そこからバァーッと取りかかったわけではなくて、雨を表現できるフレーズをヴォイスメモとかにちょこちょこ録っていって、“おっ、一曲できそうかも!?”と思ったタイミングで、集中して一気に完成させました。
前向きな気持ちで作ったことで極端にウェットではない雨感が表現されていて、それが魅力になっています。キャッチーなメロディーやダイナミクスを効かせたアレンジなども光っていますし、後半に出てくる高音域の速いアルペジオのフレーズはすごくきれいですね。
そこは32分音符とかでワァーッ!と弾いています。この曲は雨だけど空を見上げているようなイメージだったし、最後は雨が止んで一気に晴れ上がっていく情景を表現したかったんです。雨が止まない終わりにするか、晴れる終わりにするか迷ったけど、晴れやかに終わったほうがひとつのドラマとして起承転結がつくと思って。それで、最後のほうは雲がサァーッと引いていくようなイメージで高速のフレーズを弾きました。
こういうアプローチのピアノはあまり聴いたことがなくて新鮮でした。それに今作のオリジナル曲を聴いて、ピアノで情景を描くのが好きなんだなと感じました。
それは最近、自分でも気づきました(笑)。むちゃくちゃクリエイティブな方は自分の心に本当に素直になって、独自の世界観を作られますよね。ただ、それはすごく難解な音楽になっていることもある。私は写真のように、そこにあるものを音楽に映すほうが好きなんだと思います。私は自分自身を表現したいと思うことがあまりなくて、それよりも分かりやすかったり、構えずに楽しんで聴いてもらえたりするものを届けたい気持ちが強いんです。抽象画のようなものではなくて、自分の中でテーマにしていることが明確にあって、それを表現したい。だから、自分が作る曲はそういうものになるんだなと最近自分で気づいたところです。