2.5Dのオトナたち その3〜このエン
ゲキ人たちを見逃すな!/ホーム・シ
アトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1
-2-3 [vol.36] <2.5次元舞台編>

おうちをシアトリカルなエンタメ空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、演劇関係者が激オシする「My Favorite 舞台映像」の3選をお届けします。(SPICE編集部)
ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3[vol.36]<2.5次元舞台編>
2.5Dのオトナたち その3〜このエンゲキ人たちを見逃すな!​ by 横澤由香
【1】岡田達也 舞台『刀剣乱舞』維伝 朧の志士たち
【2】唐橋充 舞台『どろろ』
【3】吉川純広 學蘭歌劇『帝一の國』シリーズ
8月も終わり。劇場と私たちとの距離が徐々に近づきつつある一方、この数ヶ月で自宅カンゲキが新しい習慣のひとつに加わった方も多いことと思います。見逃していた気になる作品、新たに映像化され観られるようになった作品、配信場所が増えてより観やすくなった作品などなど選択肢もさらに増えている中、今回のオススメは…2度に渡ってテーマにした「2.5Dのオトナたち」のその3に決定! またしても広くご紹介せずにはいられない、魅力的な3名をリコメンドいたします。見逃せない名作&2.5D舞台の楽しみをより増幅してくれる素敵なオトナ俳優さんたちの活躍はこちらから!
【1】舞台『刀剣乱舞』維伝 朧の志士たち 坂本龍馬役:岡田達也 
舞台『刀剣乱舞』維伝 朧の志士たちBlu-ray/DVD CM<刀ステ>
 新作の情報解禁というのはいつだってココロ湧き立つもの。舞台『刀剣乱舞』維伝 朧の志士たち もそうでした。刀剣男士が陸奥守吉行、和泉守兼定、堀川国広、鶴丸国永、小烏丸、そして肥前忠広と南海太郎朝尊の8振り登場することにときめき、出陣するのはどうやら坂本龍馬のいる時代らしいぞと展開に想いを馳せる。さらにサプライズだったのは、歴史人物・坂本龍馬を演じるのが岡田達也さんだという発表でした!
 岡田さんと言えば、所属する演劇集団キャラメルボックスで『また逢おうと竜馬は言った』、『裏切り御免!』、『駆け抜ける風のように』(Dステバージョン)などで坂本竜馬を演じており、その姿はファンの記憶に強く刻まれています。その岡田さんがまさかまた竜馬(龍馬)を演じるとは! しかもキャラメルボックスが活動休止中に! しかもしかも初挑戦の2.5D舞台で! いろんな意味で多方面の演劇ファンがざわめいたのち、主にネットを介して2.5Dファンの若い層から刀ステのレクチャーを受ける岡田さんファンのみなさんの盛り上がりや、キャラメルファンの大人たちから岡田さんについての情報を得る2.5Dファンの様子などを見聞きし、進行形で世代とジャンルが繋がっていく光景にとてもあたたかい気持ちにさせてもらったものです。なにより、その全てが新たな世界を求めて挑戦を続ける岡田さんの行動力によるものなのが素敵です。
 いざ開幕。オープニング直後、舞台中央からパーンッと客席に向けて放たれた台詞の気っ風の良さ、瑞々しさ。一瞬の間をおいてそれが岡田さんの…龍馬の第一声だと気づいた時は「これが、文久土佐藩、土佐勤王党が恐怖政治を敷く“放棄された世界”に存在する龍馬なのだ…」と、思わずシューッと血が逆流しました。紛れもなく(おそらく史実で言えば)20代後半の龍馬がそこに立っていたのですから。刀剣男士の誰よりも若々しい龍馬がどんな予定外の歴史の波に翻弄されていくのか──早速この世界に飲み込まれていきましょう!
 何事にもカラッと陽気に向き合い志のままに生きようとする岡田さんの龍馬は、誰も会ったことはないはずなのに誰もが「あー、これが坂本龍馬という人なんだな」と噛み締めずにはいられない人間味にあふれ、そのパワーは龍馬の愛刀・陸奥守吉行を演じる蒼木陣さんの“むっさん”とも心地よく呼応していきます。ただし、決定的な違いは、先を知らない人間故の強さと、先を知っている刀剣男士故の苦悩。その誤差はやがて意外な事実と避けられない悲劇へと繋がっていくのですが…刀ステの魅力のひとつであるダークファンタジー的要素も楽しめる『維伝』、刀ステの懐の深さをさらに感じさせる驚きのストーリー展開は、ぜひ本編でご堪能を。
 蒼木さんはもちろん、肥前忠広役の櫻井圭登さん、南海太郎朝尊役の三好大貴さん、和泉守兼定役の田淵累生さん、堀川国広役の小西詠斗さん、小烏丸役の玉城裕規さん、鶴丸国永役の染谷俊之さんのキャラクターへの没入ぶりはさらに刀剣男士たちへの愛情を豊かにしてくれますし、岡田以蔵役の一色洋平さんや吉田東洋役の唐橋充さんの“超越”した存在感も圧倒的。凄まじく稼働し続けるセットの中で展開する多彩で華麗な殺陣だって、なかなかお目にかかれない極上モノです。幅広い世代の役者たちの凌ぎ合い、演劇ならではのライブ感溢れるケミストリー、堪りません。そしてクライマックス、なかなか刀を抜かない龍馬がいよいよ刀を抜いた時の戦いっぷり、熱いです! ドラマチックです! そうそう、終演後もつい脳内リピートしてしまいたくなる龍馬の“あの一言”は…土佐弁にてご用意しております。
★TOHO animation STORE、アニメイトほかにて取り扱いあり
【2】舞台『どろろ』 醍醐景光役:唐橋充

舞台「どろろ」CM映像

 早稲田大学演劇研究会出身、舞台を愛する唐橋さんですが、世間に広くその存在を知られたのはTVの特撮モノでの活躍がきっかけでした。その後はアーティステックな風貌や、キレと狂気をのぞかせるかと思いきや底抜けにとぼけた感じを醸し出すなど観るものを釘付けにしてしまう振り幅豊かな芝居と独特の存在感で、映像・舞台共に非常に多彩な役どころで活躍されています。
 今や多くの2.5D作品にも出演、舞台版のオリジナルキャラを演じることも多くクリエイターからの信頼も厚い唐橋さんが最初に出演した2.5D舞台は、2008年の『最遊記歌劇伝 -Go to the West-』。你健一/烏哭三蔵法師を演じ、主人公の玄奘三蔵役で初主演を務めた鈴木拡樹さんを大いに支えました。唐橋さんも鈴木さんもこの出会いはとても大きかったようで、今でもインタビューやトークなどで(相手が不在でも)折に触れ互いの名前を出しては役者同士のリスペクトの強さや深い信頼関係を披露する間柄。そのふたりが親子役で共演したのが、舞台『どろろ』です。
 「身体の48カ所が欠損した状態で生まれた赤ん坊=のちの百鬼丸が、妖怪から自分の体を取り戻すために戦いの旅に出る」という本作。手塚治虫作品の中でも社会風刺色が強く、非常に陰惨な内容の問題作と言われてきました。また、執筆が始まったのが'60年代後期という時代性から、今となってはキャラクターの描き方がステレオタイプに感じられる部分も散見するのですが、舞台化(および同時期に放映されたアニメ化)に際してはそうした部分も丁寧にブラッシュアップ、より深みを持った作品へと進化を遂げています。
 物語は唐橋さん演じる醍醐景光が、自身が治める飢饉続きの領地の平安と天下取りを鬼神像に願う恐ろしい契約のシーンから始まります。「なんでも取ってくれて構わない」と告げた代償は、生まれる直前の赤ん坊から命以外の全てが奪われた事実。しかし景光は嘆くどころか「願いが叶った」と狂喜、人知れずその赤ん坊を川に流すのでした。
 地獄道を突き進む究極の選択の過程、この重要な場面で唐橋さんが見せる表情、身振り、声の色艶からは景光の想像を絶する心の有り様がまざまざと伝わります。その熱量がこちらの感情を揺さぶれば揺さぶるほど、景光を憎めなくなってしまう。一方、流された先で命を救われた百鬼丸の背負う宿命もまた想像を絶する生き地獄であり──どちらを思うにしても、観客もまた最後まで途轍もない葛藤を抱きながらエンドマークを見届けなければならない覚悟を問われる、ヘビーな序章です。
 青年となった百鬼丸、見えず聞こえず話せず、義手義足をつけ仕込み刀で数々の妖怪を倒すその姿をまさに生身で体現する鈴木さんは、本能的な生への渇望漲る百鬼丸そのもの。これまでの経験を存分に活かした変則的な殺陣アクションにもただただ圧倒されるばかり。また、物語の大半で台詞ではなく仕草やオーラで周囲の者たちとコミュニケーションを取る様子に、思わず心をかきむしられます。
 父と子、原因と結果、そして事態の落とし前をつけるための壮絶な展開──上演時、表現者として背中を預けあった唐橋さんと鈴木さんがこの切なすぎる関係の親子を演じていることだけでももう、胸が熱くなったものです。全体としては相当数のエピソードをぎゅっと詰め込んだ“濃縮『どろろ』”。そこを2.5Dの手練れがしっかりと背負い、エンターテインメント性の高い演出で描かれるヒリヒリとした人間模様というバランスでまとめあげた一作。鈴木さんが声優としても百鬼丸を演じたアニメ版と合わせて観劇すると、より伏線や背景などの理解も深まるので、そちらもオススメです。
★dTVにて配信 HMV&BOOKS onlineほかにて取り扱いあり
唐橋​さんの2.5D出演作
おん・すてーじ『真夜中の弥次さん喜多さん』シリーズ 弥次郎兵衛
『スタンレーの魔女』 出戻
舞台『刀剣乱舞』維伝 朧の志士たち 吉田東洋
劇団シャイニング from うたの☆プリンスさまっ♪『JOKER TRAP』 キートン
青の祓魔師〜京都紅蓮篇〜』 藤本獅郎
『最遊記歌劇伝』シリーズ 你健一/烏哭三蔵法師 ほか多数
【3】學蘭歌劇『帝一の國』シリーズ 東郷菊馬役:吉川純広
【最終章】學蘭歌劇『帝一の國』-血戦のラストダンス- (c)古屋兎丸/集英社
 古谷兎丸先生原作の『帝一の國』。昭和の時代、全国屈指のエリート校・海帝高校で、将来の内閣入りが確約される生徒会会長の座を狙う若者たちの青春を描く本作にて主人公の赤場帝一を演じたのは木村了さん。三島由紀夫作品などで見せた“昭和の美青年像”を彷彿とさせつつ、俗世と隔絶した独特の空気と美学に満ちたスクールギャグ漫画の世界をパワフルに牽引、新たな当たり役をモノにしました(ちなみに木村さんは映画版に生徒会長の堂山圭吾役で出演。これは映画チームが舞台へのリスペクトを込めて実現させたキャスティングだとも伝わっています)。
 そして、帝一の同級生であり会長選挙のライバルとなるのが、吉川さん演じる東郷菊馬です。トレードマークはオン・ザ・眉毛のおかっぱとインテリ眼鏡。谷戸亮太さん演じる根津二四三を側近に、主に汚いやり方のあの手この手で帝一にちょっかいをかけ続けるヴィランとしてストーリーを掻き回してくれました。
 吉川さんは倉持裕さん主宰の劇団ペンギンプルペイルパイルズ出身で、退団後も舞台やドラマなどで活躍中。2.5D舞台では残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』のジャイボ役で第二次性徴期に抗う猟奇的傾向の少年を鮮烈に演じ、また、舞台『パタリロ!』ではロングヘアーに魔夜峰央テイストのメイクを施した魅惑の魔夜メンズとしてアンサンブルのプロフェッショナル技を披露するなど、美麗な容姿と小劇場で培った舞台センスを活かして作品を支えてくれています。実は以前から気になる存在だった、という方も多いはず!
 『帝一の國』での菊馬は清々しいほどに憎々しい存在感で回を増すごとに登場シーンも増えていくのですが、『最終章 -血戦のラストダンス-』の終盤、会長選挙での丁々発止の果てに見せる菊馬の帝一に向けた“友情”は、静かな感動を呼び起こさずにはいられませんでした。説明的な心情描写ではなく、シリーズを通して吉川さんが確実に観客の心に積み上げていった菊馬のイメージの集大成から、自然と彼の本来の生き様が汲み取れる。そんな展開がなんとも心憎いのです。『帝一の國』は舞台化と雑誌連載が同時進行するという珍しいスタイルで(しかもラストにたどり着いたのは舞台先行!)、演劇好きな兎丸先生は仕事道具のタブレットを持ち込んで稽古場に滞在することも多かったとか。現場で得た刺激はそのまま原作にも反映され、舞台発のキャラクターが漫画に取り入れられたり、舞台での活躍から原作の登場シーンが増えたりといった交流も活発で、まさに2.5Dの今を反映した舞台のあり方を実現していました。吉川さんの菊馬も、兎丸先生のアイデアを大いに刺激していたようです。
 『最終章』の菊馬でもうひとつ忘れられないのが、学園祭の演し物として披露されたシルク・ド・キクマの「セカイノオワリ」! キュートな扮装と思わずニヤリの小道具+DJ○ブ的バックダンサーらを従えたソロナンバーのパフォーマンスです。そう、まさにこれも『帝一の國』シリーズの大きな見どころ、學蘭歌劇と銘打っている所以。ストーリーとキャラクターの芯をガッツリ食いつつも、華麗なダンスと共に披露される(主に)80’ s サウンドへの深い愛情とリスペクトとオマージュにあふれたオリジナルナンバーの秀逸さ! 演出の小林顕作さんがミュージシャン魂を注ぎ込んだ楽曲は全曲必聴。まずは初演のオープニング、全員参加の『これは戦争』のスタイリッシュさに目と耳を鷲掴みにされてください。そこから先は──全曲制覇、全作一気観するのみ、です!
★dアニメストア、DMM.com、シアターコンプレックスにて配信 アニメイトほかより購入可能
吉川さんの2.5D出演作
残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』 ジャイボ役
舞台『パタリロ!』シリーズ 魔夜メンズ
ミュージカル『刀剣乱舞』~静かの海のパライソ~ など
文=横澤由香

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