【vivid undress インタビュー】
自分が主役だと思って、
もっと自分のことを
考えて生きてほしい
サウンドはメンバーに任せて
自分のやるべきことをやる
「Make Magic」はバンドの進化を確実に感じ取れるナンバーでしょうね。で、『変身コンプレックス』で何が一番変わったかというと、これはやはり歌詞かと。今までも決して後ろ向きな歌詞ではなかったですけど、今回は超前向きになりましたよね。前々作『赤裸々』(2019年1月発表のミニアルバム)が70パーセント前向き、前作『混在ニューウェーブ』(2019年12月発表のアルバム)は60パーセント前向きだったとすると、今回は80~90パーセント前向きな印象ですね。
kiila
あぁ…何も考えてなかったですけど(苦笑)。
つまり、思っていることをそのまま歌詞にぶつけたと?
kiila
そうですね。きっと自分自身のマインドがそっちになっていったんだろうなって。人として素直な変化だと思います。
「主演舞台」の《私が主役だ!》が本当に力強い。
kiila
…でも、本当にその通りだと思いません?(笑) みんなが主人公だと。自分の人生って自分しか生きられないってずっと思ってて。私がいくら望んでも誰にもなれないわけですから。もっと自分が主役だと思って、もっと自分のことを考えて生きてほしいと思いますね。
今回のアルバムではバンド内で“もっと歌を大事にしよう”というコンセンサスが取られたという話を先ほど聞きましたが、《私が主役だ!》はその辺りともかかってるんですかね?
(笑)。素直になったということは、歌詞もあんまり深く考えずに出てきた感じでしょうか?
kiila
(苦笑)。今回は今までで歌詞に一番時間をかけることができたんですよ。私、前作まではアレンジとかに関してもうるさいくらいに細かく言ってて。けど、今回はほぼメンバーに任せて…だから、レコーディングの時は私、ほぼいなかったもんね?
kiila
レコーディングの現場にいるとみんなに細かいことを言っちゃうと思ったし、メンバーらしさみたいなものも出してほしかった…それこそメンバーが《私が主役だ!》と思えないというか、みんなの個性を殺してるんじゃないかと思う場面もあって。なので、サウンドはメンバーに任せて、自分のやるべきことをやるという気持ちでやったので、歌詞は頑張りましたね。
メンバーに任せられるところは任せてしまおうと。
kiila
それで責任感も生まれると思うんですよ。楽曲に対する責任感とか、バンドに対する責任感とか。そういう意味でもすごい任せましたし、個人に対しても“そこは仕切って”とか“あとは頼んだ!”ってことも結構やりました(笑)。
それで、出来上がったものは良くなったと思いましたか?
kiila
はい(笑)。思うところがあっても“うん、いいと思う”みたいな感じで。音楽って正解がないから難しいと思うんですけど、その場にいた人が正解と思うなら、それが正解かもしれないと思って、そこは任せて私自身にとっての正解を増やした…みたいな感じです(笑)。
なるほど。話をうかがっていると、kiilaさんがそういう精神状態になれたというのがvivid undressにとっての一番の変化かもしれませんね。
kiila
あぁ…メンバーのことを信頼することができ始めたという感じかもしれないですね(笑)。信頼関係、人間関係が音楽に出ているのかもしれない。
メンバーにサウンド面を任せることで、kiilaさんは今まで以上に作詞に集中したということでしたが、その甲斐があったのでしょうね。「ワンルームミッドナイト」の歌詞は珠玉だと思います。過去作を含めて、これはバンド史上もっとも優れた歌詞ではないでしょうか?
《私はあなたが好き 好き 好き 好き 好き》の箇所が素晴らしいですね。
kiila
メンバーには“多いよ”って言われたんですけどね(苦笑)。“《好き》が多くて小節数が分かんないよ”って言われたけど、“いや、もうここはこれでお願いします!”って言って。そこは自分的にもこだわりポイントですね。
その箇所以前に《本当はきっと単純でいい 純粋で明快で 難しく考えることじゃない》とありますけど、この《好き》連呼はまさしくそういうことでしょうし、その感情が迸っている様子が素晴らしいと思います。
kiila
ありがとうございます(笑)。最初はハッピーソングにしたかったですけど、歌詞はディレクターさんやrioさんにも相談したりして…“これは曲調からしても、ちょっと切ない内容のほうが良くない?”みたいな話があったり、“例えば、こういう曲とかどう?”って類似の曲を聴かせてもらったりしました。“あぁ、そうか”って思いながら、私なりの好きな人への想いみたいなものを書きたかったので、ひとりの部屋で想像しながら…それこそ深夜に書いたんですよ。《カーテンの隙間から 月明かりが会いに来てる》のところも、寝る前に家のレースカーテンをちょっと開けていたところに光が差し込んできて、それをそのままというか、“現実にあったことを歌詞にしよう”と思って、ベッドの上で携帯にメモって(笑)。
そういうリアルがあってこそ、いい歌詞に仕上がったのかもしれませんね。rioさんは「ワンルームミッドナイト」についてどう思っていますか?
rio
最初に歌詞を見せてもらった時に、さっき言った“好き好き問題”があったんですけど(笑)、自分は“kiilaちゃんはこの部分を一番伝えたいんだろうな”ってことを汲み取ったんですよ。そこ以外は“ここはもうちょっとまとめたほうがいい”って伝えたんですけど、《好き 好き 好き》の箇所は耳に残るし、自分は大賛成だったから、“ここは変えなくていいよ”って言って。他の楽器陣が“えっ、ここは何小節?”ってなっていたのは印象的でした(笑)。
サウンド面で言うと、「ワンルームミッドナイト」にも今日話してきた“引き算の美学”がちゃんとありますよね?
rio
ピアノの話だけで申し訳ないんですけど、自分の感情に任せて弾いたというのはあります。ほぼワンテイク… “こんな感じ”みたいなものをちょっと精査したくらいなんですよね。いつもセクションごとに“ここはこうして、ここはこうして〜”って綿密に考えるんですけど、これはスーッと作った感じがありますね。
ヴォーカルの感情の高ぶりにサウンドが沿っているという感じでしょうかね。これはぜひライヴで聴いてみたいナンバーですね。コロナ渦でなかなかライヴ自体の開催が厳しいところではありますが、状況が許せばすぐにでもライヴしたいのでは?
kiila
そうですね。ただ、私がもともとそんなにライヴへ行く人間じゃなかったんですよ。家で倖田來未さんの武道館のDVDを観る…みたいな(笑)。きっと実際にライヴに行く人口って意外と少ないと思うんですよ。だから、音楽の届け方というのも、私たちが変化していくことで柔軟になっていいのかなと、今は思いますね。ライヴは楽しくて、自分たちもやりたいけど、家で楽しめるコンテンツを作る努力…それを楽しんでやっていってもいいのかなって。ただ“ライヴができない…”って落ち込むんじゃなく。
なるほど。ライヴを開催するか/開催しないか、開催するにしても無観客で配信くらいの選択しかないのが現状ですけど、工夫すればまだ何かできるんじゃないかと。
kiila
そうですね。逆にライヴがもっと身近なものになっていくのかもしれないと思ったりもします。
まぁ、確かにライヴは会場に直接足を運ばなければいけないわけですから、そこでハードルが高くなっているところは少なからずあるでしょうしね。
kiila
それもあるし、ひとりでは怖くて行けないとかいろいろあるから。これからはVRとかも出てきて、もっともっと臨場感のあるものが身近になってくるとも思うので、それに私たちも対応して、映像でできる仕組みとかを楽しんで勉強していきたいと思いますね。
そこも前向きに考えていらっしゃるんですね。
kiila
前向きですね。むしろ、結構ワクワクしているかもしれません。例えば、ライヴでできちゃうCG映像とか、そういうのも身近になっていったら面白いと思うし。
取材:帆苅智之
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ミニアルバム『変身コンプレックス』2020年8月19日発売
徳間ジャパンコミュニケーションズ
ヴィヴィッドアンドレス:2014年、別々に音楽活動をしていたメンバーが出会って結成。実力派のメンバーが奏でるテクニカルかつソリッドなサウンドに相反するような大衆性のあるkiilaの歌声、そして90年代J-POPを想起させるど真ん中を突くメロディーを武器に、“J-POP 突然変異型 ROCKクインテット”を称し活動を始める。17年3月に自主レーベル“MONOLITHIC RECORDINGS”の立ち上げを発表、全てのバンド運営に 関する業務をメンバーで分担し、精力的に活動。19年12月に1stアルバム『混在ニューウェーブ』のリリースをもって待望のメジャーデビューを果たす。vivid undress オフィシャルHP
「主演舞台(SYUEN BUTAI)」MV