【寺島拓篤 インタビュー】
個性的なヒーローが
集合したようなアルバム
みんなと出会えたことは
みんなで作った奇跡
「光の在処」はBiSHやEMPiREなどを手掛けるSCRAMBLESさんの楽曲で、BiSHなどに通じるエモさのあるロックチューンですね。
BiSH感が満載です(笑)。僕はBiSHさんの曲にはあまり触れていなかったんですけど、とにかくエモいというのはうかがっていたので、それで「プロミスザスター」などを聴いたらめちゃめちゃカッコ良くて。聴きながらエモさの理由はどこにあるのかを考えたり、歌い方の参考にもしたんですけど、とにかくキーが高くて歌い切れるのか不安がありました。
BiSHなどWACK系の楽曲には、歌詞の言葉とは別の言葉に聴こえる発音をするという特徴もありますしね。
ありますね。でも、この曲はエモさをストレートにぶつけたかったので、それはやりませんでした。というのも、この曲はある作品の主人公に掛けてあげたい言葉やメッセージを歌詞にしているんです。だから、言葉遊びよりもストレートなほうがいいと思ったんです。そういう言葉遊びは以前から個人的にやっていて、今作では「UNBREAKABLE」で《risin' sun & gold》という歌詞を“雷神さながら”と歌っていたりします。
背中を押される曲ですね。
自分に自信が持てない時、エネルギーになってくれたらいいなと。僕もそうですけど、誰かから褒められることで初めて自信につながるという人もいるわけで、でも褒めてもらえたのは自分が頑張ったからなんです。結局、“光の在処”は自分自身の中にある。自分に自信を持てない人や立ち止まっている人に届いたら嬉しいです。
「深海より」はお洒落でクラブっぽい要素もあるトラックなのが印象的でした。
ディレクターから今は世界的にも音が少ない曲が増えているという話を聞いて。僕らのアニソン界隈は音が盛り盛りでドラマチックな展開の曲が多いから、逆に音が少ない曲は面白いと思って制作しました。ただ、作詞が難しくて。アルバム制作の序盤に曲はできていたんですけど、作詞に手こずってレコーディングは最後になりました。
都会も深海も、そこにいる者を飲み込んでしまう闇があるという。
そうそう。都会に疲れて海に逃げて来て、何となく海に吸い込まれそうな気持ちになる時ってあるけど、そこで何かを思い立ったのか、何かに癒やされたのか、また都会の生活に戻っていく。人間の持つそういう不安定さみたいな暗い部分を歌詞にしました。他の曲はメッセージ性があるけど、「深海より」と「UNBREAKABLE」は物語として作った感覚です。
《鈍色の》という表現が好きです。灰色のことですよね。
そうです。海は本来きれいなものなんだけど、心の影が全部に覆い被さってそう見えてしまう。鮮やかなものでも心の在り方次第で見え方が変わりますし。昔から好きな言い方ですけど、初めて歌詞に使いました。
寺島さんは石川県のご出身ですが、東京に来たばかりの時とか都会に疲れた経験は?
意外と僕はなかったです(笑)。ひとり暮らしが初めてだったからホームシックはありましたけど。地元はド田舎なので、たまに帰ると本当に田んぼと山と川しかなくてびっくりしますよ。確かに帰ればホッとはするけど、もう都会に慣れすぎてしまっているから…人生の半分が東京ですからね。
田舎はやっぱり不便ですよね。まずコンビニまでが遠い!
うちなんかコンビニに行くのに徒歩30分ですよ(笑)。都会の便利さに慣れすぎてしまっていることに多少の寂しさも感じますけど、田舎と都会のそれぞれの良さを分かっている僕だからこそ、こういう雰囲気の歌詞が書けたんだと思います。
最後の「僕らの奇跡」はちょっと懐かしいシティポップ感がありますよね。
今、竹内まりやさんとかシティポップが再注目されてますけど、僕は土岐麻子さんが好きで、もともとシティポップに対する憧れが漠然とあったんです。それを実現していただいたので、すごく嬉しかったです。
この曲では“みんなと出会えたことは奇跡だ”と歌っていて。
以前から歌詞のテーマにしたいと思っていたゲームがあって、日常でいろいろなことをこなしながら仲間と絆を深めていくっていう内容なんですけど、ゲームってひとつでもイベントを逃したら辿り着けないエンディングがあったりして、そのキャラのルートにも入らないんです。でも、それって僕らの人生も同じで、当たり前のように生きているけど、どこかで選択が違っていたら今の瞬間は訪れていないわけで。選ぶか選ばないかの選択を当たり前にやっているけど、一個一個の小さな奇跡の積み重ねで今があるんですよ。だから、応援してくれるみんなと出会えたのも、みんなで作った奇跡なんだって。本当に大げさではなく、そう思ったんです。
みんなで《lalala…》と歌っている絵が想像できますね。
昨年の『おれパラ』でのことなんですけど、体調不良で本編には不参加だった鈴村健一さんが1曲だけ歌いに来てくださって。その曲が簡単に言うと、みんなで“ラララ〜”と歌う曲だったんです。その光景が僕の中にはすごく残っていて、あれこそ鈴さんがみんなと積み上げてきたものがあったからこその瞬間だったと。その出来事もエッセンスとしてこの曲には込めています。最初は“奇跡の歌”というタイトルで、それじゃ大袈裟すぎると思ったんですけど、“僕らの奇跡”くらいは言っても大袈裟じゃないんじゃないかなって。
取材:榑林史章