浜田麻里 photo by 堀田芳香

浜田麻里 photo by 堀田芳香

【浜田麻里 リコメンド】
紆余曲折を経て辿り着いた
26年振りの日本武道館

ツアー最終公演でありつつ
現在進行形の姿と未来を提示

 極めて手短に記したが、紆余曲折を経た今回の日本武道館公演での浜田麻里のパフォーマンスがより輝きを放っていたのは、そういった出来事と無縁ではなかったはずである。ただ、そんな事情を知らずとも、当日の会場に集ったオーディエンスは十全十美たる彼女に、この上なく魅了されたに違いない。それは本作に収められた瑞々しくも重厚な映像を観れば明らかだ。

 無論、デビュー35周年ということで、1月にリリースされたファン投票によって収録曲が決まったベストアルバム『Light For The Ages- 35th Anniversary Best~Fan's Selection-』のマテリアルも多少は意識したところがあっただろうが、あくまでも『Gracia』のツアーを締め括る1日であることが主眼に置かれたセットリストだった。ここも重要なポイントだ。いわゆるヒットシングルも通常よりも短いバージョンにアレンジされていた。現在進行形の浜田麻里のみならず、いかに未来を見せるのか。その凛とした姿は神々しいほどだった。

 アルバムのレコーディングにも参加していたMR.BIGのBilly Sheehan(Ba)が中盤のサプライズとして登場し、「Sparks」と「In Your Hands」で客演したこと、本編最後の「Zero」では30余名のバイオリン、チェロ、コントラバス、ティンパニー、シンバル奏者がステージ後方に現れてコラボレーションがなされたことも注目のトピックとして挙げられる。ただし、それらもポジティブな意味で“余興”に思えてくるだろう。それは3時間近くにわたって絶唱を響かせた浜田麻里が、全ての求心力の根源であるからに他ならない。

 本作を観たあとには誰もが思うだろう。浜田麻里はこれからどこへ向かうのかと。女性ロックシンガーとして前例のない道を切り開いてきた彼女の志は、こちらが想像できないほど高いところにある。ふとこぼした“まだやり残したことがある”という言葉を具現化していくプロセスは、すでに自身の中には見えているようだ。本編では次のような話もしている。
“精進とは、野心を持ってがむしゃらに突き進むことではなくて、志を立てて、それを静かに貫くことなんだって理解してます。時に痛みや悲しみを乗り越えながら、日々を謳歌して、しなやかに生きていく。そういう姿勢のことを“精進”と呼ぶのだろうと思います”

 センシティブな感受性とストイックな精神性。ここから生まれる彼女の歌には常にメッセージも内包されている。日頃、声高に何かを主張するような人物ではないからこそ、そこにまた聴き手は自身の感情を揺さぶられるのだろう。時には人生のサウンドトラックにもなる。『Mari Hamada 35th Anniversary Live “Gracia” at Budokan』を深く堪能すればするほど、新たな発見があるはずだ。

文:土屋京輔

Blu-ray&DVD『Mari Hamada 35th Anniversary Live “Gracia” at Budokan』2019年12月18日発売 ビクターエンタテインメント
    • 【Blu-ray】
    • VIXL-288
    • ¥8,000(税抜)
    • 【DVD】
    • VIBL-963~4
    • ¥7,000(税抜)
浜田麻里 プロフィール

ハマダマリ:15歳でプロシンガーとしてのキャリアをスタート。大学時代に参加した女性ロックバンドMisty Catsで出場した『East West'81』でスカウトされ、1983年4月にアルバム『Lunatic Doll』でデビュー。数多くのコンサートツアーとコンスタントなアルバムリリースにより、本格派女性ロックヴォーカリスト、ヘヴィメタルの女王としての地位を確立。80年代後半にはメタルクイーンからの脱皮を図り、幅広いフィールドで魅力が発揮できるアーティストへと転身。デビュー40周年の23年には通算27作目となるアルバム『Soar』をリリースするなど、精力的に活動を続けている。浜田麻里 オフィシャルHP

Blu-ray&DVD
『Mari Hamada 35th
Anniversary Live
“Gracia” at Budokan』
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OKMusic編集部

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