chelmicoのワンマンがあまりにも楽し
かった件

ひたすら文化的でインディペンデントな
2時間を見た。

9月29日(日)、マイナビBLITZ赤坂にて、2人組ラップユニットchelmicoの最新アルバム『Fishing』のライブツアー最終公演が行われました。追加公演を含む全7公演がすべてソールドアウト。2015年にインターネットを介して台頭した彼女たちは、メジャーデビューを経て確かな基盤を築いていることが分かります。
Rachel(レイチェル)
Mamiko(マミコ)

chelmicoのライブを見るのはこれが初めてではありません。表参道のWALL&WALL、渋谷のVISIONやASIA、その他片手では収まらないぐらいステージ上の彼女たちを見ております。けれども、それらはいずれも複数のアーティストが出演するフェス型のイベントでありました。つまり、筆者にとってchelmicoのワンマンライブはこれが初。多くのアーティストに言えることでしょうが、“完全ホーム”の状態で繰り広げられるパフォーマンスはフェスのそれとは濃度が全然違います(もちろんフェスはフェスで楽しいですが)。

何せ、待ちのBGMから自分たちで決定できるわけですからね。開場の瞬間からchelmicoの世界観を堪能できる。しかも彼女たちはその点を確実に意識しています。バックDJを務めるTOSHIKI HAYASHI (%C)によって選曲されたトラックは、徹頭徹尾計画されていました。ロード・フィネスの「Soul Plan (Cookin Soul remix)」やBASIの「キムチ」などに加えて、chelmicoの片割れであるMamikoの「Contact TOSHIKI HAYASHI (%C) remix」がかかっていました。待ちのBGMならばフェスでも設定できますが、今回のワンマンの場合はDJのミックスに近かったように思います。曲数も多く、コンセプチュアル。ただ音が鳴っているだけでなく、そこにはしっかり情熱がありました。
場内を見渡せば、様々なオーディンスの姿があります。決して若いファンばかりではないし、何なら他のアーティストのTシャツに身を包んだ人もいました。しかしそれが的外れな行為ではなく、彼女たちのバックストーリーを反映したものでした。たとえば東京の気鋭レーベル「TREKKIE TRAX」のパーカーを着ていた人もいたのですが、chelmicoの代表曲「Love is Over」は同レーベルからリリースされています。彼女たちの凄さは、その文化的にオープンなスタンスをナチュラルに表明しているところですね。いや、表明しているつもりもないのかもしれません。ただ好きなものを選択し、それをラップにして消化する。そこに敵意や悪態がないので(本当に無いわけじゃないでしょうけど、彼女たちからはネガティブなバイブスが感じられない)、オーディエンスは咀嚼しやすいわけです。

この日もそう。「EXIT」で軽やかに幕を開け、「爽健美茶のラップ」のアッパーな4つ打ちでフロアの心を掴み、そのままMCへ突入します。
オーディエンスとの対話の仕方も“ワンマンならでは”なところがありました。「今日はホームだから」と言い、フロアと向き合います。いや、先述のフェス型のイベントの時もMCのトーンに大きな差はありません。違うのは、やはり濃度。オーディエンスも彼女たちの緩さを許容するし、彼女たちの一挙手一投足に期待する。会場全体の雰囲気がすべてchelmicoと、そのオーディエンスによって作られていました。

喋りの内容も縦横無尽です。「木村拓哉さんが新しいアルバム出したらしいよね。でもウチら何も聞いてないよね。秘密だったね。ということで次の曲は、『ひみつ』」。ちなみに前日の公演では、TOKIO城島茂の結婚に触れてました。今の中学・高校のような集合体の中で、アベレージな話題ってどれだけあるのでしょう? これだけ細分化が極まっている昨今、そのような最大公約数を見つけるのはなかなか難しい。chelmicoはそこを見出しつつ、ニッチな方面へも舵を切るのです。ふとした時に『地獄のミサワ』のようなワードが飛び交う。
まぁ『地獄のミサワ』が今の時代にニッチかどうかはさておき、その手のコンテンツがライブのMCでポロポロ出てくるわけです。自由ですね。ちなみに片割れのレイチェルは映画に関するコラムの連載(他媒体ですが)も持っています。文化がいつの間にかメインストリームやアンダーグラウンド、ハイカルチャーとサブカルチャーといったポジショントークによって階層が分かれてしまいましたが、chelmicoはそれを再定義しているように見えます。本人たちにその意図がなくても、結果的にそうなっている。彼女たちが足跡をたどってゆくと、いつの間にか膨大な量の文化を享受しているはずです。

そしてもちろん、それは音楽にも反映されています。たとえば先の「ひみつ」や「Balloon」などは、次代のトラックメイカーShin Sakiuraによって共同アレンジされました。それも彼女たちはMCで明らかにするわけですよ。今回のライブでは彼の名前をはっきり出していました。それを聞いたオーディエンスがウチに帰って彼のワークスを調べ、「Cruisin’ (feat. SIRUP)」にたどり着いてハウスミュージックに開眼する可能性だってあるわけです。素晴らしいじゃないですか。
「OK, Cheers!」に続くMCでは、より直接的に客席とコミュニケーションを取り始めます。「最近何か良いことあった人ー?」と2人が聞けば、「昇給しました!」や「車の免許を取りました!」など、様々なおめでた話が飛び交いました。そしてレイチェルがこう続けます。「そういえばさ、DJ松永(Creepy Nuts)さんもさ、DMC(バトルDJの世界一を決めるコンペティション)で優勝したみたいだよね。すごい!」。「ピース!!! そんなみんなにこの曲を捧げます。OK, Cheers!」。言うまでもなく、バチバチに盛り上がるフロア。自分たちが繰り出すフロウやリリックだけでなく、場内のすべてを巻き込んだエンターテイメント。

終盤は畳みかけるようなキラーチューンのラッシュです。ここまで『Fishing』の楽曲を中心としながら自由にライブを進めてきましたけども、ここへ来て「ラビリンス’97」、「Highlight」、「Player」を連続でかましてきました。「最高潮」をぐいぐい更新してゆく熱量の高まり。一体どこまで行ってしまうのか。RIP SLYME直系の軽快なリズムで賑やかにラップします。

締めくくりには、『Fishing』から「Bye」を。改めて反芻しながら書いてゆくと、よくできたセットリストですね。
アンコールにはもちろん「Love is Over」。先述の通りフェス型のイベントでは散々聞いてきましたが、これがこの曲の完全体なんですね…!オーディエンスとのコール&レスポンス、chelmico2人の熱量、アンコールに相応しい大団円であります。

「謝辞。わたしたちがここまで来られたのは、オーディエンスとスタッフとトラックメイカー、みなさんのおかげです。本当に感謝してます。それしか言えない」。あえて上で書かなかったのですが、「Love is Over」のプロデューサーは人気音楽ユニットの三毛猫ホームレスです。彼女たちが言うように、結成以来chelmicoには他者の存在が重要でありました。ヒップホップには元来サンプリングカルチャーがありますから、その意味では正統派です。そして彼女たちの場合は、先述の通り文化を「再定義」あるいは「再解釈」してゆく側面もあると思います。バラバラになってしまったカルチャーの世界を再び作り直すことができる、今最も可能性のあるユニット。それがchelmico。


Photography_Masato Yokoi
Text_Yuki Kawasaki

■ chelmico Fishing Tour Final 2019.9.29@BLITZ AKASAKA

<セットリスト>
M1. EXIT
M2. 爽健美茶のラップ
M3. switch
M4. BEER BEAR
M5. ママレードボーイ
M6. ひみつ
M7. 12:37
M8. Navy Love
M9. Timeless
M10. 仲直り村
M11. 午後
M12. Balloon
M13. OK, Cheers!
M14. Summer day
M15. ラビリンス’97
M16. Highlight
M17. Player
M18. Bye

〈ENCORE〉
EN1. Oh! Baby
EN2. ずるいね
EN3. Love is Over

chelmicoのワンマンがあまりにも楽しかった件はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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