ミュージシャンVS落語家、死神だなん
て言うな MOROHA×立川吉笑 交差す
るそれぞれの思い

MOROHAの自主企画『月金でギンギン!~職場の死神背負って来い~』吉祥寺 キチム編 2019.2.22(FRI)吉祥寺キチム
2019年2月22日、MOROHAの自主企画「月金でギンギン!~職場の死神背負って来い~」吉祥寺 キチム編が開催された。相手は落語家・立川吉笑。2014年『第3回 吉笑ゼミ。』の共演以降、2016年のMOROHA自主企画『怒濤』と対バンを重ねて、今回が3回目の対決となる。
最初に登場したのは立川吉笑だ。「……あのぅ、アフロさんとは腐れ縁でございまして。中学の同級生なんですよ」
突然の報告に「へぇ!」とざわつく会場。
「私の本名は田中で、滝原(アフロの本名)とは名簿が前後だったこともあり、自然と仲良くなりまして。当時から滝原はラップに目覚めましてですね。とは言っても長野の田舎ですから、ラップなんか誰も知らない中で1人没頭していたんです。同じ時期に私は立川談志というね、大師匠に魅了されて常に落語、落語という感じだったんです。ベクトルは真逆でも、どちらも尖ってるみたいな。先生は大変ですよね。片田舎の中学校で朴訥な青年しかいない中、落語にかぶれている奴とラッパーにかぶれている奴がいるわけでございまして……」
そして1秒だけ間をおいて腕を組み、サッと表情を変えた。
「おい! いいかお前達、明日は体育祭だぞ! ちゃんと練習しなくちゃダメだろ。それから滝原! お前はちゃんと歌ってるのか。歌にハマって何かやってるんだろ? 国歌斉唱をちゃんと歌え!」
「先生ちげえよ! 俺は歌じゃないよ、ラップだから」
「とにかくちゃんと国歌斉唱を歌え。そこがお前の見せ場なんだから」
「わかりました。だけど先生、「君が代」のリリックを覚えてないんですよ」
「何だリリックって?」
「リリックはリリックですよ」
「それは歌詞のことか? <君がぁ~代ぉわぁ~>だ」
「わかりました。だけどトラックの入り方がわからなくて」
「トッラクの入り方? 「君が代」の?」
「1バース目はわかりやすいんだけど、2バース目がわかりづらいんですよ」
「2バース目ってなんだ! 田中もゲラゲラ笑ってる場合じゃない! お前も芸人になりたいのかよくわからないけど、ちゃんと組体操をガーッといけ! ガーッと!」
「先生、組体操の出囃子を変えてもらえません?」
「組体操の出囃子!? お前達は全然わからん!」
コアヒートのごとく徐々に笑いで温まる会場。適度に肩の力が抜けた語り口は、まるでワルツを踊るように軽快だ。吉笑は右へ左へと体の向きを変えて、再び正面を向きなおした。
「……こんな会話を我々はしていたんですね。そんな二人が東京へ出て、夢を叶えて30歳で出会うってすごく良いじゃないですか」みんなが吉笑から目をそらさずじっと話に聞き入る。「本当にそうだったら、今日の会もやりやすいんですけども……実際、私は京都出身ですし、長野に行ったことはありませんし、本名は田中じゃないですし、年齢も違いますしね」まさかの裏切りに会場からワッと声が上がる。
「これが落語家です。嘘ばっかり言うんです。でも、ここでネタバラシをしなかったら、皆さんは信じたまま帰って、下手したらWikipediaを更新する人もいたりして。そうやって作られていく歴史もあるかもしれない。こっちがタネを言わなければ、それが真実になってしまう可能性もあるんですよ。落語家もラッパーも言葉を使って空間を作るわけです」
驚かせ・笑わせ・感心させる。三拍子そろった枕を披露して、いよいよ1つ目のネタ「一人相撲」へ。――大の相撲好きである大店の旦那は「もう相撲見物へ行くのは辞める」と言ったものの、先ほどから溜め息をついてばかり。見かねた番頭は奉公人たちを使って旦那さんの代わりに相撲を観に行かせ、取組みの結果を伝えるように指示した。「でかした、番頭!」と喜ぶ旦那さん。しかし、戻ってきた奉公人は誰1人として、まともに説明ができない。ついに旦那さんが「番頭! こいつら好き勝手に喋って、一切取組みについて話さないって、どうなってんねん!」と激昂すると番頭が諭すように口を開いた。「こいつらが好き勝手喋るのもしょうがありませんわ」「なんでしょうがないねん!」「考えなはれ……だって、こいつらがやってるのは一人相撲ですから」
こうして1発目は古典らしさを醸した新作落語を披露。2本目は「明晰夢」。――休みの日に家の中で何をするでもなく、ゴロゴロしている八五郎に妻が呆れた表情を浮かべて話す。「お前さん、お願いだから表へ行っておくれよ。いつまでも家にいちゃあ、私の息がつまるじゃないか」妻が何度も説得するもんだから、しょうがなく表へ出る八公。すると同じく暇を潰していた金さんと遭遇。「暇だったら寄席を観に行こう」と誘われて、八公は金さんと寄席へ行くことに。「待てよ、金さん。落語って銭がいるのか?」と八公が金さんに尋ねる。「だって見たこともねえ、おっさんの話しを聞くんだろ? そんなの銭なんか要らねえじゃねえか」「落語家さんはな、俺たちの銭をもらって生活するんだ。誰か知らない落語家に銭を払う、それが粋じゃねえか」金さんに説得させられて、しぶしぶ銭を払い席に着く八公。すると前座が舞台に上がり早速話し始めた。開口一番「お前さん、お願いだから表へ行っておくれよ。いつまでも家にいちゃあ、私の息がつまるじゃないか」どういうことか、目の前の前座は先ほどの自分と全く同じシチュエーションを話しているではないか。「おい! これ、どこかで聞いた気がするぞ!」しかも、寄席に行くやり取りまで一緒。そして前座のネタに登場する主人公たちも、八公と同じように寄席へ行きつく。これは現実か? 夢か? まるでパラレルワールドである。ぐるぐると次元をめまぐるしく行き来するSFのような話。滑らかな口調から、徐々にギアを上げていく喋りは聞いていて映像が浮かぶだけでなく、心地いい。気づけば2つネタを聞き終えて、立川吉笑の高座は幕を閉じた。
そして、MOROHAのライブは「二文銭」からスタートした。2曲目「奮い立つCDショップにて」では、サビになると何人もの観客が首を上下に振ってリズムを刻んでいる。こうやってみんなが座りながら聴くMOROHAというのも中々貴重な光景である。先ほどの吉笑の高座で異空間に感じられた店内が東京・吉祥寺の現代へ引き戻される。
3曲目に「スタミナ太郎」を披露して、4曲目は「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」。2番まで歌い終えると、突然UKがギターの演奏を止めて、アフロはゆっくり口を開く。「……NUMBER GIRL復活ですね」その表情は険しかった。「リスナーとしては拳を突き上げましたが、その拳で自分の襟元を掴んで『お前、何リスナーみたいなこと言ってんだよ。ふざけんなよ』って。続けていくことの大変さ、勝ち残っていくことの大変さ、負けてもしがみついていった人たちの姿を見て、久しぶりに帰ってきたバンドにシーンの話題をかっさらわれているこの現状を『お前はどう思うよ』って自分に語りかけました。リスナーだったら喜べたのに……悔しさ忘れたら辞めちまえ。悔しさ忘れたら……」そこまで話すとUKが再びギターを弾き始めた。<本当ありがとう 待ってくれている人 もうちょっとだけ 待っていてくれ><ごめんな 待てずに去っていった人 いつか必ず迎えに行くよ>その時、僕は何度もアフロ、UKと目が合ったような気がした。
そして新曲「米」でアフロは歌う。<守るってなんだ 食わしていくことか それもそう でもそれだけじゃないな><生きるってなんだ 息してることか それもそう でもそれだけじゃないな><金さえあれば 金さえあれば 金さえあれば 金さえあれば 金さえあれば どうだった>「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」と同じように、MOROHAは、その先を確かめたくて歌ってるように聴こえた。
「音楽はお金じゃないって、言い合えた友達がいて。そういう優しいまっすぐな友達は、音楽に対して真面目になるのも早かったんだけど、人生に対して真面目になるのもやっぱり早くて。向き合えた奴からいなくなった……。残った俺は自分の腹黒さに怯えながら、いずれ飲み込まれてしまうんじゃないかなと怯えながら、それでもしがみついて歌ってる」そう言って「tomorrow」を披露。薄暗いライブハウスと違い、お客さんの顔が良く見える場内。1人でライブを観に来ていた女性が隣の人にバレないよう涙を拭っていたのが印象的だった。そしてハンカチを持つ手が震えていた。
再びアフロは話し始める。「吉笑さんの落語の中に、見たことも聞いたこともなない人にお金を払うなんて変でしょ、という下りがあって。皆さんはのうのうと聞いている感じでしたけど、俺はグサッと刺さってしまって。俺の歌はそれに値するのだろうかと考えました。実際問題、あなたの大切に思っている人は俺たちの音楽を聴くよりも、大切な人から声をかけてもらった方が染みるんじゃないかなとか、響くんじゃないかなとか。そう思うと、俺がここに立つ意義はなんだろうとすごく考えさせられました。そうやって作品で会話するというか、恐らくだけど立川吉笑という男も、その下りを読み上げるときに問いかけをしていたはずで。その問いかけの先に、こんな1日があったとすれば、それほど嬉しいことはないなと思っております」
そして最後の曲に入る前、アフロは『MOROHA自主企画「月金でギンギン!~職場の死神背負って来い~」』開催の理由を話した。「なぜ、この企画をやろうと思ったのかと言うと、これから春フェスっていうもんが始まりまして。そこに来る客は全員生ぬるいと思っております。楽しもうと来ているお客さんや、『今日は休みだ』と朝っぱらからビールを飲んでいるお客さん。方や平日に学校や仕事でボロボロになって、その体を引きずってライブハウスに来るお客さんの目つきは絶対に違う。俺たちが真っ向から向き合わないといけないお客さんはどっちだって」その2択の答えは明確だ。この日は週末金曜日。スーツ姿の人たち目が、力強く2人を見つめている。
「今日は最終日の金曜日ということで、皆さん死神を引きずって来てくださったと思うんですけど。一旦、ここで皆さんの死神の息の根を止めますが、俺たちは他のアーティストが言わないような真実を言い当ててここに立っているわけだから言わせてもらうと、3日後にはまた月曜日がやってまいります。その先で、また目ん玉をギラつかせて会えるのか、目が会った時に何かしらの後ろめたさを感じてスッと目を逸らしちまうのか、どっちなんだろうな。そんな思いを抱えながら最後の曲をきっちりやって終わりたいと思います」そして「五文銭」へ。
UKの演奏は指の動きが激しくも、狙撃手のように1音1音を正確にとらえている。こうして間近で演奏を観ると、改めてその凄みを感じる。そしてアフロは怒っているような、泣いているような、嘆いているような、感情の入り混じった声で歌っていた。曲が終わりに差し掛かる時、最後の言葉を投げた。
「死神なんて言うなよ、必要だって思ったんだろ。その憂鬱さは、その責任感は、あなたが生きる上で必要だって思ったんだろ。自分で選んだんだ。それと立ち向かわないとならないんじゃなくて、それと立ち向かうまいと、そう思った瞬間があったんだ。死神だなんて言うな。そいつがいるおかげで、生きて、生きて、息をしているのとは別の意味で。飯を食うのとは別の意味で。生きて、生きて……」まるでその声はすがるように震えていた。
終演後、クラムボン原田郁子がいたので声をかけた。「今日の会場は郁子さんがアフロさんに提案されたって聞いたんですけど」「そうなんです。ここ(原田郁子の妹・原田奈々さんが経営しているカフェ)でMOROHAを観たいと思って、私からアフロ君にメールをしたの」平日に会社や学校と戦って、その体でライブに来るお客さんを相手に向き合いたいと自主企画を立ち上げたMOROHA。50分間、話芸一本で勝負をした立川吉笑。そんな2組のライブを観たいと会場を用意した原田郁子。いろんな人の思いが交差する、貴重な1日はこうして幕引きとなった。
文=真貝聡 撮影=MAYUMI-kiss it bitter-

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