【森重樹一&山本陽介】日本のロック
アイコンが放つ新時代の快作
何を歌おうが最終的には森重樹一が歌っ
た歌になる
その普遍的な魅力を持つものを、おふたりは作品として残していこうとしているわけですね。森重さんの最新作『GRACE』でも、山本さんがギタリストとしてのみならず、サウンドプロデューサーしても関わっているんですよね。
森重
バンマス+サウンドプロデューサーの二役をやってもらってる感じかな。そこは全幅の信頼をおいてますね。実際に出会ってからの3年半は、むしろ、そのぐらいの時間しか経ってないのかって思うぐらい、濃密にいろんなことをやってこれたと思うんですよ。
山本
僕にもチャレンジでしたね。『ELEVEN ARK』(2013年発表)というアルバムで最初にサウンドプロデュースで入らせてもらったんですけど、それこそ出会って1年ちょっとぐらいの状況でしたし、そういう立場でアルバムに関わるのが初めてだったので、カッコ良いものにしたい気持ちと、しなくてはならない使命感の両方がありましたね。だから、フレーズの構築美だったり、他のプレイヤーに対するサジェスチョンも含めてわりと慎重にやった印象があるし、すごく整理整頓されたものができたなと思うんですよ。そこから段階を経て、去年作った『obsession』に関しては、大方の地図みたいなものは僕が描くんですけど、すでに演奏するプレイヤーたちのバンド感、絆みたいなものでとてつもない状態を作り上げることができていたので、“じゃあ、みんなに好きにやってみてもらおうかな”と思って臨んだんですね。自分の度量が広がったんだと思うんですけど、すごく荒々しい部分も増えたと思います。その間にあるのが、今回のアルバムのような気がするんですよ。頭の中で思い描いていたものと、出たとこ勝負のものを、いいバランスで成り立たせることができた気がしていて。すごくいいですよね、今回。
森重
うん、素晴らしいと思う。今のメンバーはレコーディングだけの付き合いじゃなく、何回もステージをともにして、いろんなことに一緒にトライしてきたんですよね。そういう意味でも、何となくこの3枚は、三部作というようなかたちでのまとまり感もあるんじゃないかな。自分のキャリアの中でもベストに近いメンバーだと思っていて、歌うことそのものも、どんどん面白くなってきてるんですよ。この環境で育ってきたのはすごく貴重でね。だから、それをどんな商品にするかなんて、ある種の作為的なことはまったくイメージにはなくて、ただその素直な気持ちをどう歌にできるか、どれだけ自分の中でその歌が生命感があるものになるかってことが全てだと思うんですよ。今回は「GRACE」って曲がタイトルを含めて、わりと最初の頃に原型があったんだけど…これはThe DUST'N'BONEZの「深海」へのアンサーソングなんです。このメッセージ感を膨らませていったところに、このアルバムの最終形みたいなものがあるんじゃないかなっていうのは、漠然と感じてはいましたね。さっきのビートルズの話じゃないけど、僕は脅かしものじゃないところで、音楽がちゃんと機能することを信じているので、やっぱりそういうものを作りたい想いは常にあるんです。今回もそれはすごく大きかったですね。
この「GRACE」はキャッチーとかポップというより、むしろ、次にどんな展開が出てくるのか読めない、摩訶不思議な曲という言い方のほうが正しい気がするんです。それゆえにアルバムの核たる存在だったのは興味深いですね。
山本
当然、その1曲に支配されてアルバム全体が決まるわけじゃないんですけど、この曲をタイトルトラックにするっていう構想まで森重さんが感じている状態で骨組みを見せてもらったので、今の気分がすごく分かりやすかったですね。おっしゃるように、とりわけキャッチーではないけども、芯があって骨太な感じですし、結果、そういう曲が集まったアルバムになっていると思います。他の楽曲もどういう方向にアレンジを持っていったらいいのか、ひとつの主軸になったのは間違いないですからね。例えば、この曲をこういうアレンジにするのであれば、対極にもっとキャッチーなもの、ポップなものも必要だろうし。その中で、オフェンシブな曲もあったほうがいいなと思って、僕も「MY BLEEDING HEART」を書かせてもらったんですよね。
森重
曲を聴いた時、すごくいいなって思った。MVもこれで撮ろうっていう話になりましたから。尺は短いんだけど、場面展開もちゃんとできているし。陽介は完全にコンポーザーの目線で音楽を構築できる人なんです。森重樹一というシンガーが歌うことを前提に作れる。この視点は自分にはないんですよ、シンガーソングライターには。
山本
『ELEVEN ARK』でも「一人の世界に」って曲を書かせてもらったんですけど、あの時はそれまでの森重さんの楽曲にない、でも、何でこういうのがなかったんだろうねってものを作ろうと思ったんですよ。とにかく違和感のないかたちで新しい刺激をって。今回は森重さんとの付き合いもある程度経過した中で、これぐらいこねくり回した楽曲を歌ってもらっても、違和感はないんじゃないかなって、思いっ切り構成が入り乱れたような曲を提案してみたんです。
違和感がないどころか、森重さんらしさが強く表れたと感じるほどの曲だと思いましたよ。
山本
そう、森重さんの力はすごいなって常に肌で感じてますね。何を歌おうが、最終的には森重樹一が歌った歌になる。歌詞に後押しされて、フレーズやニュアンスなどの最終的な楽器のアンサンブルが変わっていくこともよくあって。森重さんの場合、デモの段階から仮歌があるし、レコーディングを始める時点で確実に歌詞ができていて、僕らがバッキングトラックを録っている時に一緒に歌ってくれるんですね。その意味でも、歌と演奏にはすごく整合性がありますね。
ポジティブな循環がバンド内にあるんですね。さて、全国ツアーはどのような内容になりそうでしょう?
森重
今年はソロキャリア20周年ということで、ちょっと前に陽介とふたりで回ったアコースティックツアーでは、普段行けない街にも行って、ZIGGY時代のナンバーとかもふんだんに織り込んでたんですね。ただ、この3年間がソロキャリアの中で最も充実している実感があるんですよ。これだけ頻繁にライヴをやれて、創作にもフィードバックできている。だからこそ、20年を締め括る今回のツアーでは、あまりノスタルジーを介入させずに、あえて今のメンバーと一緒に作ったものをメインにやりたい思いが強くあって。そうすることで、僕自身の次のステップとして、また可能性を広げていけるんじゃないかなと思うんですよね。
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