【Yomerumoレビュー『しらたまくん』
(作・稲葉そーへー)】擬人化炎上の
ブレンディCMから、擬獣化のしゃべる
猫まで。ほのぼのマンガに現代の悲し
い寓話?

最近、牛を擬人化した「ブレンディ ボトルコーヒー 挽きたてカフェオレ」のCM動画が炎上したわよね。
見た人も見てない人もいるとは思うけど、「牛の学園の卒"牛"式」で、牛をイメージさせる男女の進路が、校長先生に読み上げられて、動物園に決まって喜んだり、食肉になったり、で、巨乳化したカワイコちゃんが行く先は……ってやつね。まあ、映像の力ってあるんで、未見だったらぜひ見てみて。
【参考動画】
(http://www.youtube.com/embed/5weBIVbnnUg)

その動画が、10月の1週目くらいからネット上ですんごい問題になって、つまり炎上して、「性差別」「現代社会の歪み」「人が家畜化されている」「牛の話を擬人化しただけなんすけどー」「おっぱいが特別であれば、生きられる」「牛は11桁、人間は12桁を思い出した(※マイナンバー)」「一周まわって人間社会を描いている」、果ては「安倍政権による"すべての女性が輝く社会づくり"の現実」「女の子が胸揺らして走ってる所だけ見てた」「ミノタウロスの皿(藤子・F・不二雄先生)」などなど、解釈の多様性に挑戦してるのかなーってくらい、いろんな論点が出たのよね。

もちろん、作った人は作った人で佐藤:最初はもっとコミカルでした。農場の牛の被り物をした人たちが働いていて、その農場から配属先が決まっていくという。でも、それだと目立たないなと思ったんです。だから、被り物ではなく、"牛の擬人化"を出来るだけ人間に近い"鼻輪"だけで表現をして、舞台も農場じゃなくて卒業式にしようと。バカをするんだけど、それを至って真面目に演出するってことを心がけてつくりました。(※
)って言ってるらしいし「CMは"いかに振り向かせるか"が目的」「オンライン動画は"いかに観続けさせるか"っていうのも目的の一つ」ってことも語っているから、今回の炎上騒動には笑いが止まらないかもしれないけどね。

これが風刺動画ならぜ~~んぜん問題ない。むしろいい。大傑作。完全に日本の若年層と女性活用を皮肉ってる。あたしオカマでちょうどよかった。
さらに今なら「1億総活躍」とか言ってるやつらにも見せてあげたい。

んで、「ただの擬人化じゃーん、作者もそう言ってるじゃーん」って作者本人でもスポンサーでもない輩が上から目線で言うのもわかるんだけど、ただ、意外と擬人化っていうのは、直で語らない分、解釈の多様性と深まりもハンパないのかもね。っていうここまでは今回の前フリ。

※参考リンク1:
※参考リンク2:
擬獣化もある?
その一方で、擬獣化っていうのもあるよね。アニメの『名探偵ホームズ』とか『銀河鉄道の夜』、最近は『バケモノの子』。小説だと『動物農場』。古くは『鳥獣戯画』みたいに、みんなが犬や猫や家畜になって、時にはただ単にかわいく、時には人間社会の辛辣な寓喩になったりもするのが一般的だと思うけど(ミッキーやドナルドもそうかしら)、それとはまたタイプが違って、なぜか人間の社会に、動物……といってもペットじゃなくって、擬獣化した"話す動物"がやってくることもあるよね。
ひょっとすると、『オバQ』や『ドラえもん』の異物感もその亜流かもしれない。

最近だとソフトバンクのCMのお父さんがわかりやすいかな。
人間の家族の中に、なぜかお父さんだけ犬。あのシリーズがはじまった当時は、なぜ犬なのか、賛否両方面からいろんな解釈が出たわよね。もう、なんか馴染んじゃったけど。

それから、古典的なところだけど、あたしが好きなのは『くまのパディントン』(マイケル・ボンド)。

子供の頃は普通に読んでたけど、大人になった今のあたしが思い返してみると、南米からやってきた移民の子にしか見えないのよね、あの熊ちゃんってば。
こないだ、ロンドンのパディントン駅でパディントンの銅像と記念写真撮ってきたけど、夜中の誰もいない駅だったから、難民とかホームレスがポツンと座ってるみたいで泣けてきたわよ。

作者がどういう思いをこめたか、そのキャラクターの誕生にどういう秘話があるかはさておき、あたしはそう解釈しちゃってる(※Wikipediaによると、戦時中の原体験があるみたいね。⇒
)。

んで、最近読んでたマンガでも同じような感覚を持っちゃったのが、『しらたまくん』(稲葉そーへー、「週刊ヤングジャンプ」連載)。やっと今日のメインタイトルにたどり着いたわ(汗)

2巻まで読んでるんだけど(12月に5巻が出るらしいけど、まだ2巻までのあたし……泣)、猫ちゃんが、人間の高校に通ってるの。フツーに。白玉雄介、15歳の高校1年生。高校生活の始まりに胸躍る鈴川葵のクラスメイトとなった彼は、まさかの猫!! その正体は、突然変異によって人間と変わらぬ知能を持ち、普通の家庭で育てられた世界で初の人権を得た猫。そんな白玉君に気を使う周囲をよそに、葵は興味津々で…!? 猫で多感な男子高校生・白玉君に迫る日常系スクールライフコメディ!!(Amazon:内容紹介より)……っていうお話しなんだけど、つまり人間と同等の知能で話す猫ちゃん(白玉くん)が、高校にいるわけ。で、べつに動物実験とかもされずに(壮大な社会実験かもだけど)、「人権」を与えられて、人間と同じように学校に育ってるんだって。『猿の惑星』シリーズのシーザーみたいに戦争になることもなく、平和にね。

そりゃ猫がしゃべったら、ほんまビックリポンだわ。

これを読んで単に「猫ちゃんかわいい~」とか「きゃーん、あたしもお喋りする猫タンと仲よくなりたいワン☆」とか言える子は、ほんと幸せよね。幸せな子供時代・学生時代をすごしてきたんだと思う。べつに悪いことじゃないけど。

でもあたしは、ちょっと胸が痛い。

「人権がある」「人権がある」って言うんだけど、でも猫じゃん。やっぱり異質な存在で、その異質さゆえにみんなから敬遠されてきたわけ。実際、クラスメイトたちも主人公の葵ちゃん(ちょっとおバカ)以外は、あんまりクラスメイトと話すこともなく「敬して遠ざけ」られる感じで、小学校も中学校も過ごしてきたんだってさ。

だから入学式で、なぜか猫が新入生にいるのに、みんな何もないような空気になってる。アンタッチャブルになりすぎて、ガン無視レベル。
葵ちゃんだけ存在を知らなかったから(なぜならばただのバカだから)興奮してしまうんだけど、そんな葵ちゃんを尻目に、友達は
「正直どう接していいかわかんないよな…」
と一言。

さらには白玉くんと同中(おなちゅう)だった女子も
「正直あんまり話した事なくて… というか人と話してるトコほとんど見た事ないかも…」
って明かすわ、白玉くん自身も
「猫なのに…それにふれられないでいるのが気持ち悪くて…」
って激白するわで、もうほんと、なぜか読んでてお腹痛くなってきちゃった。昔のことを思いだしちゃったわよ、もう。

これは、猫ちゃんの話だけど、猫ちゃんだけの話じゃないわけ。
下手に人権があるだけで、誰からも触れられない存在。猫ちゃんがかわいいからみんな惑わされるかもだけど、実際、学校とかにそういう子、いなかった? んーん、学校だけじゃないわ。今って会社でも「アンタッチャブルな存在」の人っているじゃん。

現代の悲しい寓話よね(涙)
猫ちゃんに擬獣化してるから、それがさらに際立っちゃう。

なんであたしまで泣いてるのかって言ったら、そりゃカマバレした後のあたしを思い出すからよ。今と違ってオネエタレントなんかもゲテモノ扱いの時代だったし(おすぎとピーコがよく出てた頃ね)。
社会に入り込んだ異物。それが白玉くん。
クラスに入り込んでしまったオカマ。それがあの日のあたし。

日本に生きていると、そういうのってあまり意識することってないかもだけど、難民問題もそうだし、宗教・民族、いろんな面で世界的に普遍なテーマが、こっそり隠れてるんじゃないのかなー。

まとめ
最初に挙げた「擬人化」CMもそうだったけど、「擬獣化」ってやつも、なんだかんだで、いろいろ解釈しちゃうわよね、って話。テーマが露骨に見える『動物農場』だけじゃなくて、こんなほのぼのコメディでも、そう思っちゃう。

そんなはぐれオカマのあたしにとっても、きっと白玉くんにとっても、葵ちゃんみたいなバカな子は、ほんと救いよね。
「もしも学校にしらたまくんがいたら楽しい」って思うか、それとも「葵ちゃんみたいなバカな子がいたら楽しい」って思うか。

あたしは、葵ちゃんみたいなバカな子がもって増えるといいわって思う。
ま、現実にここまでおバカだと、その本人がどんどんアンタッチャブルになりかねないけどね(涙)

あっー。ちなみに白玉くんはなんだかんだで人気者になるから、アンタッチャブルなマイノリティに涙を流すみんなも、安心して読んでいいわよ☆

▼執筆:パイナップルパン☆聖子♂
"見た目はおっさん、中身はオネエ!"の渋谷で働く万年平社員オカマ。ときどきYomerumoで余計な話を書いています。


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