【前Qの「いいアニメを見にいこう」
】第53回 「即死チートが最強すぎて
、異世界のやつらがまるで相手になら
ないんですが。」ってタイトルを書く
だけで文字数埋まっちゃう

(c)藤孝剛志/アース・スター エンターテイメント/即死チート製作委員会 第2回新潟国際アニメーション映画祭に来てまして、この原稿は新潟で書いております。文字から感じていただけますでしょうか、新潟の風。ほんのりと日本海の潮の薫りがするのではないでしょうか。今年は海外作品を中心に見てまして(中でも「マーズ・エクスプレス」がよかったです)、まあ、なんというか、そうすると「アニメの面白さの本質ってなんだろうなあ」なんてことをあらためて考えてしまうところがあります。動きなのか、ストーリーなのか、キャラなのか、はたまたそれ以外の何かなのか。まあ、どれも正解で、どれも間違っていて、この手の疑問に明確な答えがあろうはずもないのですが。
 で、今回取りあげるのは「即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。」です。いわゆるひとつの「なろう系」ファンタジー作品。「死ね」と念じればどんなものでも即座に殺すことができてしまう特殊能力をもった主人公が、召喚された異世界でヒロインを守って無双する話。画像をご覧いただければわかるように、キャラクターデザインはいわゆるジャパニーズ・トラディショナル・美少女アニメスタイル。ここしばらく新潟で見ていたアニメとのギャップがすごい。気圧だったら、耳がキーンとするくらいでしょう。
 識者からは怒られるザックリ説明をあえてしますが、「なろう系」のファンタジーといえば、何はともあれチート能力ですよね。まわりのキャラよりも圧倒的に優れた、規格外の能力。今作もそういうものではあります。だから大きく見れば「よくあるパターンでしょ?」といえなくもないのですが、もう少し細部に目を向ければ、ちょっとひねっている要素がある。この作品の主人公である高遠夜霧の「即死チート」能力は、先天的な特質なんですね。異世界に召喚・転生したさいに、超常存在によって与えられたような後天的な能力ではない。ちなみにヒロインの壇ノ浦知千佳も同様で、こっちはもともと古武術の使い手で身体能力が高いうえに、強力な守護霊がついてます。
 そんなふたりに、異世界の敵はもちろん、同じタイミングで転生してきてさまざまなスキルを超常存在から与えられたクラスメイトたちも何かと理由をつけて襲いかかってきたりするわけです。つまりこれ、「なろう系」の主人公っぽい有象無象を相手に、現実の超実力者が無双する作品ってことです。そう考えると、一見、ジャンルの法則にベタな内容のようで、実のところジャンル作品が大量につくられた果てに登場しがちな、ピーキーな感じのものだと捉えられてくる。おまけに基本的にどいつもこいつも主人公にとっては相手にならない。タイトルにまったくいつわりなし。主人公、ほとんどうろたえもしません。いろいろ設定上の理由もあって、クールな性格のやつだったりもするので。そこのところで、さらにピーキーなエンタメという印象が深まるわけです。
 で、こうまとめたものを読むと、「主人公たちがピンチにならない作品って面白いのか?」と感じる人も多いんじゃないですかね。私だって、たぶん、未見だったらそう思う気がする。でもこれが、なんだか楽しめてしまうんですよね。
 原作由来のポイントでいえば、主人公の能力が中途半端に圧倒的なのではなく、完全に圧倒的なのが大きい。とにかく力を使うと、問答無用で相手が死ぬので。ちなみに力の加減が効かないので、ちょっとだけ苦しめて情報を聞きだすとか、改心させるとかもできない、しない。その大胆な割り切りが、嫌味なく心地よいんですな。基本的に殺意を向けてきた相手にしか攻撃しないので、そういう意味での気持ちよさもあるし。
 そうした基本構造をもったうえで、映像的な面白さはどうか。まず、主人公がピンチにならず、うろたえなくても、その周囲でヒロインをはじめ、キャラクターたちはリアクションをとりまくるわけです。バトルものや料理マンガと同じで、こういうのがあるだけで見やすくなっている。次に、ものすごくハイカロリーな、ド派手なアクションをやっているわけではないけれども、シリアスとギャグの緩急がしっかりと演出でつけられている。監督は「プリティーリズム・レインボーライブ」「KING OF PRISM」の菱田正和さんで、キッズアニメから深夜枠のマニア向け作品まで手広く手がけるベテランの手練れの技を感じます。ちなみに菱田さんはシリーズ構成・脚本も別名義で担当。それもおそらくはテンポのよさに繋がっているのかと。そしてキャスト。夜霧に内山昂輝さん、知千佳に富田美憂さんとメインをしっかりとした配役で押さえ、脇も実力派で固めています。とりわけ知千佳の守護霊役に金田朋子さん、ござる口調のオタクな花川大門に下野紘さんと、芸達者で存在感のあるふたりをコメディリリーフである2役に配している点が絶妙です。
 突飛な題材を、職人芸的なバランスで気持ちの良いエンタメに仕上げている。B級グルメの老舗の名店みたいな味わいとでもいいましょうか。つくづくアニメの面白さって謎だなと。正直なところ、私は毎クール、「もう異世界ファンタジーはいいよ……もうちょっとこのジャンルの本数を減らしてほしいわ……」なんてことを思ったりもするのですが、そう思いながらも見ていると、中には今作のように「何かが違うな」というものを見つけられる。その違いって何に起因するのか、本当に、確固たるものとしてはわからない。でもたしかにある。それを見定めるためにも、いろいろなタイプのアニメも見たいし、似たりよったりのように思えるアニメにもうまずに目を通し続けたいなと思う次第。
 というわけで、そんな私が今期、「何かが違うぜ」と感じた今作、「なろう系」に食傷気味なみなさまにおかれましても、ぜひにだまされたと思って手を出してみてほしいものなのであります。

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