ミュージカル『WITHOUT YOU』が遂に
開幕~アンソニー・ラップ(『RENT』
伝説のオリジナル・キャスト)にイン
タビュー

ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演が2024年3月3日(日)、先頃オープンしたばかりの水道橋・IMMホールで開幕した。この東京公演は3月10日(日)まで続き、その後、3月16日(土)~3月17日(日)には梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで大阪公演が行なわれる。これまでアメリカ各地、ロンドン、カナダ、韓国で公演を重ね、2023年1月25日には満を持して物語誕生の地であるオフ・ブロードウェイで開幕。全米ツアーを経て、2024年春、遂に今回、待望の初来日公演実現に至ったのだ。
ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演舞台写真(オフィシャル提供)
本作は、ミュージカル『RENT』のブロードウエイ初演でマーク・コーエンを演じたアンソニー・ラップが著した自伝小説『Without You: A Memoir of Love, Loss, and the Musical Rent』をベースに舞台化、本人自ら出演するワンマンミュージカルだ。アンソニーが『RENT』のオーディションに参加するところから始まり、オフ・ブロードウェイのプレビュー公演初日未明に作者ジョナサン・ラーソンが亡くなる悲劇を経て、さらには最愛の母親との死別が情感たっぷりに描かれる。アンソニーは5人編成の生バンドを従え、『RENT』の有名なミュージカル・ナンバーを多数歌唱するほか、彼の1stアルバム「Look Around」から数曲、さらに当舞台のためのオリジナル曲も披露する。『RENT』以外の楽曲のアレンジは、アンソニーが出演した『IF/THEN』のトム・キット(代表作は『ネクスト・トゥ・ノーマル』だが、その前身作として知られる『Feeling Electric』にはアンソニーも医師役で参加していた)が手掛けている。
ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演舞台写真(オフィシャル提供)
『RENT』は我が国で、来日版・日本語版いずれも頻繁に上演され、ミュージカルソングを特集するコンサートでも「Seasons of love」が必ず歌われる等、作品の人気が非常に高い。その“伝説のオリジナル・キャスト”にして、生前のジョナサン・ラーソンと深い親交があり、作品誕生の裏側を知り尽くすアンソニー本人が、事の経緯を生歌と共にっていく貴重な舞台こそが『WITHOUT YOU』なのである。よって『RENT』のファンならばこれを見逃す手はないし、『WITHOUT YOU』を観ずして『RENT』ファンを名乗る勿れ、との声すら聴こえてきそうだ。
そんな『WITHOUT YOU』の東京初日開幕直前のごく短い時間の中ではあったが、SPICEはアンソニー・ラップから直接に話を聞くことができた。以下、是非お読みいただきたい。
ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演舞台写真(オフィシャル提供)
ーー アンソニーさんは、2006年に自伝小説を出版すると、それをベースに自らが出演するワンマンミュージカルとして舞台化し、2008年から2012年まで世界各地で上演。その後、長いブランクを経て、2023年にニューヨークで公演が復活し、今回の「JAPAN TOUR 2024」に至ります。一昨年に公演を再開させた理由をお聞かせください。
『WITHOUT YOU』の上演は当初、非常にうまく進んでいたのですが、やがて『IF/THEN』(音楽:トム・キット、歌詞・脚本:ブライアン・ヨーキー、演出:マイケル・グライフ)にイディーナ・メンゼルさんと共に呼ばれることとなり、本読みから始まって、プロダクションの一員となったので、一旦そちらに専念しました。その後、私は、テレビシリーズの『スタートレック:ディスカバリー』にもキャスティングされました(ポール・スタメッツ役)。その撮影が長期間に及んだので、『Without You』に携わることはできませんでした。しかし、有難いことに『WITHOUT YOU』の再上演を熱望している素晴らしいプロデューサーがニューヨークにいたのです。それで2023年に再開に漕ぎつけることができました。彼らの力なくしては実現することは不可能でした。
ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演舞台写真(オフィシャル提供)
ーー 再開後の内容について、以前の上演とは異なる点はありましたか。
変更点は多数あります。私たちは脚本を見直し、自伝のオリジナル・ストーリーが、より忠実に再現されるよう、細かい要素を色々と組み込みました。最初にこの本を書いてから多くの時間が流れ、自分の人生も半分以上経過しました。かつての私の考え方やものの見方も変わってきており、それに合わせて、気持ちや感情の部分での表現を改めています。また、以前は演出に取り入れることができなかったことも、今回は取り込んでいます。舞台背景として投射されるプロジェクションも、より鮮明なものをお届けしています。新曲も一曲追加されました。
ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演舞台写真(オフィシャル提供)
ーー 『WITHOUT YOU』のニューヨークでの初演の際には、どんな方々が観に来られましたか。
私の大切な親友である演出家のマイケル・グライフ。「フレンズ・イン・ディード」(『RENT』に登場するライフサポートのモデルとなった自助グループ)のサイ(シンシア)・オニール……彼女は今回のショーの中に登場するキャラクターでもあります。そして『RENT』初演時の俳優仲間たち……オリジナル・ミミ役のダフネ・ルーヴィン-ヴェガ、オリジナル・ジョアンヌ役のフレディ・ウォーカー、オリジナル・エンジェル役のウィルソン・ジャーメイン・ヘレディア、オリジナル・ロジャー役のアダム・パスカル。そして、オリジナル・モーリーンで後に『IF/THEN』でも共演したイディーナ・メンゼル。私が母を亡くしたのは『RENT』の公演中でしたが、そのことを私はあまり公にはしていませんでした。自分の心に秘めていたのです。ですが、彼女(イディーナ)は『WITHOUT YOU』で私の性格や状況を知り、以後彼女とは友人としての距離感がぐっと縮まり、絆がすごく深まりました。
ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演舞台写真(オフィシャル提供)
ーー やはり、アンソニーさんにとって『RENT』という作品との出会いは特別なものですね。
『RENT』という作品は、本当にもう、あらゆる意味で私の人生を変えてくれました。『RENT』にはコミュニティがあって……物語の中にもコミュニティは出てきますが……例えば出演者のひとりが困った時とか大変な時には、他のメンバーたちがその人を思いやって、集まり、支え合い、面倒を見る、ということが行なわれるのです。もし、コミュニティの中のひとりが欠けてしまっても、その人を尊重し続け、亡くなってもなおその人を愛し続けるということになります。
ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演舞台写真(オフィシャル提供)
ーー その『RENT』の中のミュージカル・ナンバーの曲名「WITHOUT YOU」を、今回のショーのタイトルに採用されたわけですが、その名に込めた思いを教えていただけますか。
この『WITHOUT YOU』というショーは、自分にとって特別な人を失った時の物語をお伝えしています。同時に「WITHOUT YOU」という楽曲は、私が母の追悼式の場面で歌う重要な曲でもあります。本を書いている時にそのタイトルはまだなく、時折、私は友人たちにそのことを相談していました。すると、『RENT』のオリジナルの公演でコリンズ役を演じた、我が友人のジェシー・マーティンが「WITHOUT YOU」をタイトルにしてはどうかと最初に提案してくれました。私にとって「WITHOUT YOU」の“YOU”とは、ジョナサン・ラーソンと母のことを指していますが、これは誰にでも歌うことができる曲なんです。
当初、“YOU”というのが、少し奇異な感じがしないだろうかと思ったりもしました。ですが実際にこの曲をご存知の方々だったら、誰から誰に対しても、その気持ちっていうのは伝わるものなんじゃないのかなと思うようになりました。やはりこの曲および私のショーの意味を考えるならば、人は亡くなっても人生がそれで止まるわけではなく、ただ時が進み続けていくばかりなのだということ。そんな中で、私だって残念ながら死にます。人が死ぬことも、時間が進み続けることも、どっちも真実。でも、とにかく人生はそこで終わりではなく、続いていくということなのです。
ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演舞台写真(オフィシャル提供)
ーー 最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
日本で公演を行なうことができて、私は本当に恵まれています。今回で4度目の来日となる私ですが、日本のファンの方々の素晴らしい愛情に、毎回驚きを禁じえず、とても感謝しています。そして、『RENT』という作品は、私だけではなく、ファンの方々にも大変深い意味合いを持つ、存在感のある作品だと改めて思いました。『RENT』がお好きな方ならば、ぜひ『Without You』にお越しください。お待ちしております。
ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演舞台写真(オフィシャル提供)
取材・構成=安藤光夫(SPICE編集部)
【PROFILE】アンソニー・ラップ Anthony Rapp
アメリカ・イリノイ州出身。 9歳から俳優としてのキャリアをスタート(ミュージカル『オリヴァー!』題名役)。ジョナサン・ラーソンのトニー賞、ピューリッツァー賞を受賞したミュージカル『RENT』のマーク・コーエン役で知られる。また、クリス・コロンバス監督による映画版でも同役を演じた。ブロードウェイには『Precious Sons』でデビューし、ドラマデスク賞にノミネート。アウター・クリティクス・サークル賞を受賞。マイケル・メイヤー演出『You're a Good Man, Charlie Brown』のリバイバル、ジョン・グィア演出の『私に近い6人の他人』、『If/Then』等に出演。映画界でも活躍。出演に『ベビーシッター・アドベンチャー』『青春の輝き』『バッド・チューニング』『私に近い6人の他人』『Man of the Century』『Road Trip』『A Beautiful Mindbwoy』『Scrap』など。2000年にはデビューアルバム『Look Around』を、2006年にはニューヨークタイムズでベストセラーとなった『Without You A Memoir of Love, Loss, and the Musical Rent - which this show was based on -』がサイモン&シュスター社から出版された。ミュージカル『RENT』オリジナル・キャストとして舞台・映画版に出演し、作者ジョナサンとの絆、自分自身について、大切な人との別れ、などを描いた自伝的小説で、自らが出演するワンマンミュージカルとして上演、高く評価されている。

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