「ツユは解散しません」 不安を乗り
越え開催したZepp Haneda(TOKYO)公
演で示した未来への期待

ツユ LIVE TOUR 2024『革命前線』

2024.2.4 Zepp Haneda(TOKYO)
雨降って地固まる、という言葉がもしあてはまるのだとしたら。ツユはここからまた、我々にとって恵みの雨をもたらしてくれる存在になっていくことだろう。
このたび開催された『ツユ LIVE TOUR 2024『革命前線』』は、彼らにとって相当に重要な分岐点になっていたと言っていい。何故なら、昨年11月12日にツユ公式Xにおいて突如“ツユ LIVE TOUR 2024『革命前線』を最後に、『ツユ』は活動休止します。それ以降、動きが無ければ解散したと思って下さい。何卒宜しくお願いします。”というポストがなされ、いわゆるツユナー(※ツユのファンの呼称)の間では困惑と心配の声が多数湧きあがっていたからだ。
礼衣
ぷす
miro
しかも、その翌日11月13日には再び公式Xに「革命前線」の歌詞がまるごとポストされる、という事態も起きていた。もちろん、そのことを10月30日にデジタルシングルとして発表された新曲プロモーションの一環として解釈することもできなくはなかったが、いかんせんこの曲の詞の中に〈雨 雨 ちっとも降らないね ほら今日もずっと枯れたまま〉〈だ だ だから もう見放して!〉といったフレーズがあることを思うと、やはり情況を楽観視することは出来ないと感じた人が多かったに違いない。
そのうえ、いざ2024年に入り『ツユ LIVE TOUR 2024『革命前線』』が始まってみると、1月27日に予定されていた仙台公演[ - Upper Night - ]は開催の2日前に“ヴォーカリスト・礼衣の声帯出血を伴う声帯炎の症状により”開催中止がインフォメーションされることに。また、2月4日にツアーファイナルとして行われた東京・Zepp Hanedaについても、本来なら昼夜2公演が行われるはずだったが、昼公演[ - Downer Night - ]は開催中止が告知され、夜公演[ - Upper Night - ]のみが実施されることとなったのである。
ツユ
これら一連の流れはどれも不安要素でしかなかっただけに、いよいよ2月4日の夜公演[ - Upper Night - ]が始まって1曲目の「やっぱり雨は降るんだね」が場内いっぱいに響きわたった際は、ある種の安堵感がその空間を充たすことになったように感じられた。礼衣の伸びやかな歌いぶり、miroの軽やかな指さばき、ぷすの繰り出すエモいギターの音色。それらはいずれもツユならではのもので、この場に集ったツユナーにとっては自らの耳と目でそこにツユが存在していることをあらためて確認できた、という事実がまずは何よりの吉報だったと思われる。
この日のライブでは、ツユの結成から今までの軌跡を辿るようなセットリストの中に、途中にはmiroによるインスト「雨宿り」や「強欲」などもはさみつつ、本編後半ではぷすがギターソロ曲「Revolution」を披露する一幕もまじえ、彼らは良い意味で“しれっと”このツアーファイナルでツユらしいパフォーマンスを繰り広げていくことになった。その様子は、まるで昨年のXを巡るあれこれや、このところの礼衣の不調がなかったかのような面持ちであり、ツユナーたちの方も彼らのステージングに対してそれぞれの曲に聴き入ったり、あるいは自然と盛り上がったりできるような空気感が不思議と醸成されていたのだ。

ツユ

なお、今回の本編ラストを飾った曲はほかならぬ「革命前線」。この記事冒頭では詞の中の敢えてネガティヴな部分を抽出したものの、このライブにおいて特に印象的に聴こえてきたのは〈そして取り戻せよ初心 下克上〉〈命ある限り 創作人生 雨 雨 ざぁざぁ降ってんね ほら革命日和だね〉といったくだりで、つまりはさまざまな“騒動”こそツユにとっての革命を起こすために必要なステップだったのかもしれない……とようやくここで我々は気付かされることになったと言えるのかもしれない。
その気付きはこのあとのアンコールでより強い確信へと変わることになったのだが……なんと、まず再登壇したのはぷすのみ。それも、ぷすはギターを持たずにハンドマイク1本だけを手にして、「下克上」をセンターで熱唱し始めたのだ。この曲はぷすがツユの始動を前にした2019年5月に「この動画をもって『歌い手』としての活動を引退します」と表明したうえで提示されたもので、前述の「革命前線」にも歌詞として出てくるものだと考えると、こうした行動は彼にとっての所信表明だったということになると考えて良いはず。実際に「下克上」を歌い負えたあとのぷすは、オーディエンスを前に以下のような旨を述べ始め、そればかりか“土下座”をしてみせるにまで至った。
ぷす
「えー。去年の11月から、この2月になっても僕はやらかしています。(中略)「ろくでもないな」とここにいる皆さんは思っていらっしゃいますか? 本当にそれらの件については、すみませんでした! でも、ちょっとだけ理由を説明させてくれ!」(ぷす)
ここでぷすから語られた赤裸々な発言を要約すると、昨年夏から彼はハングリー精神を失って行き詰まり、曲も作ることができなくなって、そのフラストレーションから暴発して破壊衝動に駆られてしまっていたのだという。
「全てをぶち壊して、後に退けない情況を作って、このままだと誰も寄ってこなくなって俺はこのまま死んでいく、くらいの環境を作らないとマジでもう曲は作れねぇと思ったから、メンバーとかスタッフにも誰にも言わずに、ああいう流れになってしまいました。すみませんでした。でもね、これは後ろ向きなことじゃないです。俺はこれからもツユをやっていきたいから。もっと新曲もたくさんあげて、おまえらにもライブに来て欲しい。そのためにやったんだよ。やり方は荒っぽいし、そのせいで礼衣さんはノイローゼで声帯炎になっちゃったみたいだし、ぷす性格やべぇーって思った人も5万人くらいいると思うし、こういう性格だからこれからもおかしなことは言うと思うけど。それでも、さすがにここまで来たらもう「ツユを捨てよう」とかは思わないです。なので、ツユは解散しません!!」(ぷす)
高らかなるぷすの解散回避宣言を受け、ここで現われたのは礼衣とmiroのふたり。
「……被害者の会です(苦笑)。ほんとにわたしたちはかき乱されたよ。だって、病院の先生が言った声帯炎の原因聞く? 「ストレス」」(礼衣)
「ほんとにね! あの時はみんなのことをどんだけ心配させるんだろうと僕も思ってたよ。なんとか平静は装ってたけど、お腹は痛くなるし、熱も出るし、いろいろ大変だったもん。そんなツユが複雑な情況の中、こうして東京公演に来てくれたみんなと、各地でツアーに参加してくれたみなさん、本当にありがとうございます!」(miro)
ということで、ここからはしばし礼衣、miro、ぷすの3人でぶっちゃけまくりの後日談が展開されたものの、最終的には3人ともツユとしての未来に向けて前向きな気持ちでいる、ということがその会話の中からはよく伝わってきた。
「やっぱり、みんなに「ツユのことを応援しててよかったな」って思ってもらえるようなグループでありたいと、僕はそう思ってます!」(miro)
「ほんとにすみませんでした! これはマジで、曲だけはちゃんとまた良いのを作ってくから。俺にできるのはそれしかないんで。それだけはもうやめません!!」(ぷす)
「そうなんだよね。それがなかったら、うちらもここにいないからね。そして、いろんなことはあったけど、これからもツユは続くということなので。応援よろしくお願いします!」(礼衣)
ちなみに、こうした彼らの言葉のあとに演奏された「新曲」は近日中にYouTube公式チャンネルにて公開されるそうなので、期待して待とう。
ツユ
傍若無人なぷすと、健気な礼衣と、気遣いの出来るmiro。歪で不完全なところはあるとしても、この3人が揃うことで生まれるツユの音楽にはそこにしかない空模様があり、時に優しく時に強く降り注ぐ恵みの雨のように、聴く人の心に染み渡るのがツユの音楽なのだとしたら。このたび降った大雨によって地が固まるだけでなく、ここから一雨ごとに季節が進んで行くことを切に願いたい。

文=杉江由紀
撮影=森好弘

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