主要部門の本命はテイラー・スウィフ
ト? それともSZA? 音楽ライター
/ジャーナリスト・粉川しのによる第
66回グラミー賞予想! 

2月5日に授賞式を控え、主要部門のウィナー予想が白熱しつつある第66回グラミー賞。今年のグラミーはノミネートの段階で、早くも近年稀に見る女性アーティストの席巻ぶりが大きな話題を呼んでいる。とりわけ主要部門は女性優位が顕著で、「レコード賞」、「アルバム賞」、「楽曲賞」の3部門はなんと8組中7組(!)が女性アーティスト、という寡占状態になった。
昨年の「アルバム賞」では、最有力視されていたビヨンセの『Renaissance』を下すかたちでハリー・スタイルズの『Harry's House』が制したことで議論を呼び、2018年にはグラミーの会長が「(賞を獲りたかったら)女性アーティストはもっと頑張るように」と言い放って大炎上に発展するなど、(白人)男性権威的で保守的なグラミーへの世間の眼差しは年々厳しさを増していただけに、今年のノミネート傾向はグラミーの体質改善に一定の評価を与えうるものになったと言える。
実際、2023年は年間売り上げ的にも、各メディアが選出する年間ベスト・アルバム的にも女性アーティストが圧倒した年だった。単に素晴らしい作品を作り、尚且つ売れた女性アーティストの数が多かっただけではない。グラミー主要部門にノミネートされた唯一の「バンド」にして「ロック」が女性3ピース・バンドのボーイジーニアスだったように、女性アーティストがポップ、R&B、ロックetc.と複数ジャンルを横断して存在感を示したのが2023年だったのだ。オリヴィア・ロドリゴがポップ部門とロック部門の両方に、ラナ・デル・レイがポップ部門とオルタナティブ部門の両方にノミネートされたのも象徴的だろう。
今年もグラミーは部門に若干の変更があったので記しておこう。まず、主要部門が既存の4部門(「レコード賞」、「アルバム賞」、「楽曲賞」、「新人賞」)に「最優秀プロデューサー(ノン・クラシック)」、「最優秀ソングライター(ノン・クラシック)」を加えた6部門に増設された。また、「最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス」、「最優秀オルタナティブ・ジャズ・アルバム」、「最優秀ポップ・ダンス・レコーディング」の3部門が新設。アフロビートを筆頭とするアフリカン・ミュージックや、ジャズの新たな潮流は近年見逃せない動きとなっており、ポップ・ミュージックの多様化のトレンドを反映した部門再編となっている。
その一方で、チャートを席巻したK-POPアーティストのノミネートがゼロに終わり、北米における昨年の二大トレンドだったラテン・ポップ、カントリー・ミュージックのアーティストが主要部門に誰一人ノミネートされなかったりと、多様化の流れが必ずしも成功していないのが歯痒いところだ。
今年のグラミーの最多ノミネートはSZAの9部門(主要3部門含む)。ヴィクトリア・モネ、フィービー・ブリジャーズが7部門で続く。ヴィクトリア・モネは新人ながら驚異の活躍だが、グラミー会員好みの正統派R&Bだけに、グラミーらしいエントリーと言えるかもしれない。フィービーはうち6部門がボーイジーニアス名義でのノミネートだ。テイラー・スウィフト、ジョン・バティステ、ビリー・アイリッシュ、マイリー・サイラス、オリヴィア・ロドリゴ、ブランディ・クラークもそれぞれ6部門ノミネートとなっている。
では、果たして誰が主要部門を制するのか? 今年のウィナー予想はかなり難しいと感じる。大本命はやはりテイラー・スウィフトだろう。アルバム『Midnights』はポップ・スタート/シンガー・ソングライターの両面において彼女がピークに達した傑作であり、史上最大の『THE ERAS TOUR』の大成功も含めて、商業的、文化的インパクトの巨大さで近年のテイラーに匹敵するアーティストは他にいない。しかし、これだけ実力・人気を兼ね備えた女性アーティストがひしめき合うと、票が割れる可能性も高い。テイラーはオリヴィアやデュア・リパ、マイリーらと支持層が被っていることも、予想を不透明にする要因の一つだ。とは言え、やはりテイラーは強いはず。仮に彼女が「アルバム賞」を受賞した場合、史上最多の同賞受賞(4回)となる。
そんなテイラーと並んで主要部門の最有力候補は、最多ノミネートを誇るSZAか。クエンティン・タランティーノの同名映画をモチーフにした「Kill Bill」は、彼女にとって初のビルボード1位を記録、アルバム『SOS』は10週連続1位の偉業を打ち立てた。「Kill Bill」と『SOS』は2020年代のハイブリッドなポップのあり方を示した極めて重要な作品であり、テイラーに太刀打ちできるとしたら彼女しかいないのでは?と思う。SZAは過去2回のグラミー主要部門のノミネートで受賞を逃していることもあり、3度目の正直になるか?も注目だ。
レコード賞ではマイリー・サイラスの「Flowers」、楽曲賞ではビリー・アイリッシュの「What Was I Made For?」もオッズが高い。映画『バービー』旋風はグラミーにも及んでいて、ビリーの同主題歌やサウンドトラック部門を筆頭に、複数部門でノミネートが相次いでいる。ビリーは先のゴールデン・グローブ賞でも「主題歌賞」を受賞、アカデミー賞にもノミネートされている。なお、ビリー、デュア・リパ、オリヴィア・ロドリゴは授賞式でのパフォーマンスも決まっている。パフォーマーが必ず受賞するわけではないが、これもまた加算ポイントには違いない。
主要部門で一番読めないのが新人賞だ。同部門はグラミーの「好み」があからさまに反映されるため、昨年のサマラ・ジョイのような大穴受賞もしばしば生じている。敢えて有力候補をあげるとすれば、やはりヴィクトリア・モネか。また、主要部門での不振が際立ったヒップホップ/ラップ勢としては孤軍奮闘しているアイス・スパイスにも注目。日本ではまだ無名に近いが、TikTok時代のフォーク・ポップ・シンガーとして大ブレイクしたノア・カーンも個人的に推したいところだ。
何はともあれ、毎年のように番狂わせがあり、結果を巡って喧々諤々となるのがグラミーだ。まずは楽しみにその時を待ちたい。
文=粉川しの

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着