初のビルボード公演“Neighborhood”
で早くも次の扉に手をかけたBBHF 横
浜初演をレポート

Billboard Live presents BBHF “Neighborhood”

2023.12.11 Billboard Live YOKOHAMA
BBHFが初めてBillboard Liveに出演。食事やお酒が楽しめる“ライブレストラン”かつ、一晩で2回のステージは初めてのトライだ。国内外問わず、比較的ベテラン・アーティストの出演が多かったり、ロックバンドでも普段とは異なる形態や趣向で出演するケースが多い中、BBHFはいつも通りのバンドセットでの登場。メンバーは尾崎雄貴(Vo/Gt)、尾崎和樹(Dr)、DAIKI(Gt)に加え、今回はサポートで前回の「愛のつづき」から参加しているYohey(Ba)とGalileo Galileiのベースでもある岡崎真輝がキーボードとギターを務めるのも“Tsunagari Daisuki Club”のフレキシブルなミュージシャンシップの現れだろう。ここでは横浜公演の1stステージをレポートする。
BBHF
12月にしては暖かな陽気のこの日。通常、開演前に聴こえるナイフやフォークが立てる音やお喋りがほとんど聴こえない。バンドと会場がこの日のために用意した新曲「エデンの花」の名前がついたスペシャルカクテルなどを楽しみながら不思議な緊張感と心地よさの中、メンバーの登場を待つ。下手の奥からメンバーが通路を通ってステージに上り、位置につく。全員少しフォーマルなブラックジャケットやシャツ姿が新鮮だ。筆者は2階の上手から見たのだが、鳥の声が混ざったSEから始まったオープナー「月の靴」で、早くも天井の高い空間を満たす穏やかな音像に一気に引き込まれた。なんてバランスの良さだ。雄貴のまっすぐ放たれる高音、話すような低音も素晴らしくコントロールされている。この曲での始まりは昨年夏の『LIVE LOVE LIFE』ツアー同様だが、親近感やスケールが明らかに違う。そのまま同作から「クレヨンミサイル」に。DAIKI、雄貴、岡崎のトリプルギターにライブアレンジされているが、音数は選りすぐられ歌が際立つ。続いても同作から「リテイク」が披露されたのだが、例えばハンドマイクでカジュアルな感じに歌う雄貴、Yoheiのシンセベース、DAIKIのフルアコの音など、今の5人のバランスに生まれ変わっていた。バンドが肉体性や日常のリアルを意識し始めた頃の曲がさらに研ぎ澄まされた感じなのだ。
尾崎雄貴
DAIKI
尾崎和樹
ムードが変わったのはDAIKIのヒネリの効いたリフをはじめ、ちょっとやんちゃな「メガフォン」。ステージに近いカップルの肩が揺れている。普段のライブハウスより少し大人な装いのファンが多いのか、バンドとともに成長して今は社会人なんだなあ……と、当たり前と言えば当たり前のことに思い至る。続くR&Bテイストのポップチューン「愛を感じればいい」では雄貴なりのエンタテインするフロントマンの鮮やかさが窺えた。
最初のMCで雄貴は「多分僕らのファンの方が来てくれてると思うんですけど、どんな感じでやればいいかなと思ったんですが、音を鳴らしてるんで、ご飯食べながらお酒飲みながら、お水飲みながら楽しんでくれれば嬉しいです」の「お水」に笑いが起きた。続くブロックは演奏が透き通った空気と前向きな気持ちを作り出すような感覚を覚えた「真夜中のダンス」から。端正なエンディングを見事に決めて、自然に湧き上がる拍手と歓声。力強さがDAIKIの弾く「僕らの生活」のイントロのギターに繋がり、普通の日常の輝きがアンサンブルで紡がれていく。すぐさま歌始まりの「バック」では全員が和樹を囲むような陣形を一瞬見せ、この5人での新たな試行の楽しさを見る。そして淡々と演奏することで生み出されるこのバンドの鋭さを改めて知った。
Yohey
岡崎真輝
ひと連なりの映画を見るような体感は細胞が蠢き、深い森に入るようなSEとともに始まった「鳥と熊と野兎と魚」から「Work」まで続いた。「鳥と熊と野兎と魚」の異界めいた感覚からグッと明度の高い「友達へ」。変わらない部分やすごくダメなところも知っている友達との日々がちゃんと彼らの過ごした場所の空気を纏っているというか、こんな近い距離かつライブレストランでもしっかり立ち昇ることがちょっと驚異的でもある。それがさらにリアルな心情描写を伴う「Torch」で外から部屋に移った体感すらあったのだ。ちなみにこの曲での和樹のハイハットワークの正確さは曲の緊張感に寄与していたと思う。そしてBird Bear Hare and Fish名義での「Work」の人生の痛みとブルーズ。だが、悲しいとか苦しい感覚ではなく、心にこの歌を持っていたいと思わせる。雄貴の歌唱はタイプこそ違えど、手応えはベテラン・ロックボーカリストのよう。明確な答えのない小説や映画の後に感じる深い思考に落ちていくような4曲だった。
BBHF
演奏に没入していたフロアが現実に戻ってきたのは雄貴のMCがいかにも彼らしかったからかもしれない。なんでも観客が食事をしているところで演奏するのは中学3年の時、老人ホームでビートルズを演奏した時以来だとか。「じいちゃん、ばあちゃんは耳を塞いでて、それを思い出すと良くないですね」と笑い、スペシャルドリンク“エデンの花”のセールストークも(笑)。なんでも2ndステージでは売り切れる人気だったようだ。BBHFも曲のストックが増えてきて、その中からDAIKIの意見で「エデンの花」をリリースすることになったそうだ。もちろん、次の曲は「エデンの花」。パッと景色が変わるぐらい肉体的なビート、開けたメロディ、オーセンティックなバンド感が溢れ出す。バンドのやんちゃさや尖りを表明していた『4PIES』から先に進んだ今のBBHFの一端なのだろう。アウトロには少し60’ sっぽいニュアンスすら感じた。明るいムードはこの日最もAORというか、この空間にハマる感じの「君はさせてくれる」、そして白く強烈な光がフロアを照らす中、演奏したのは「太陽」。もはやいつの時代のどんなロックと比較するのもバカバカしいほど、このバンドの孤高を響かせていた。今どこにいるのか少し忘れさせるような演奏で。
BBHF
そしてSNSでも予告していた通り、雄貴とDAIKIが最近好きなアメリカのバンド・Wunderhorseの「Leader Of The Pack」を日本語翻訳でカバーした。パンキッシュなオリジナルをBBHF流に料理していたが、他の演奏に比べるとシンプルな良さがあった。そしてラストはトリプルギターとベースとドラムという編成が似合う「なにもしらない」。最近、最後に演奏されることが多いこの曲は、我々リスナーにとっても、ここからまた生きることを意識させてくれた。アンサンブルの繊細さや高い解像度で届けられる音響も相まって、BBHFとビルボードライブの相性の良さを満喫した70分。帰路に着くファンの満たされた表情が忘れられない。
BBHF

文=石角友香
撮影=Masanori Naruse

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