「おもしろくて、カッコよければいい
と思えるようになった」結成25周年、
ハンバート ハンバートが歌う『FOLK
』ーーABCラジオ『真夜中のカルチャ
ーBOY』インタビューSPICE版

結成25周年を迎えたハンバート ハンバートが、2人きりの弾き語り演奏でお届けする人気企画シリーズ第4弾となる『FOLK 4』をリリースした。収録曲は、彼らが影響を受けたルーツ的フォークソングや誰もが口ずさむことができるようなJ-POPソング、そして自身の過去作のセルフカバーに新曲まで全12曲収録。今回SPICEでは、ライター・インタビュアーの鈴木淳史がパーソナリティをつとめる、ABCラジオ『真夜中のカルチャーBOY』(毎週金曜深夜2時〜深夜3時)で12月1日にOAされたインタビューの模様を紹介。本記事のみの話も含め、本作はいかにして生まれたのか、そして25周年という節目についてどう捉えているのか……話を訊いた。
ーー20周年の『FOLK 3』のインタビューを、ついこの間のような気持ちで読み直してまして。今回の『FOLK 4』は結成25周年、(音楽を始めた)当時はこんなに長く続くと思っていましたか?
佐藤良成:正直、思っていなかったですね。
佐野遊穂:25周年かぁ、考えてなかったね。ただ、一緒に共演する人が20周年とか30周年とか、例えばゴンチチさんとかさ、チーフタンズとか。
良成:そうだね、先輩と一緒になることが多かったね。チーフタンズは、ローリングストーンズと同期だからもっと先輩だね。
遊穂:当日、55周年だったかな。
良成:そう、だからどこか他人事というか、超ベテランだけの話だと思ってましたね。
ーーそういった大先輩方が今も新作を出されてて、シンプルにすごいなという思いとプラスアルファで、同業者として刺激を受けることもあるのかなと。
良成:すごくありますね。だけど、なかなか共演する機会がないので自分たちから動かないとなと思います。やっぱり刺激を受けるし、ヒントがあったり、すごく楽しいし。BEGINさんと共演させていただいたんですけど、すごく楽しくて。あちらは35周年だけど、小学校からの同級生だから3人の間柄はそれを遥かに上回る長さで。曲が最高に好きだとか声がいいとか何もかもが良いんだけど、何が羨ましいって、3人の仲がいいことなんだよね。
遊穂:そうだね。初めてゆっくり話ができて、役割分担やどういう風に曲を作っているのか教えてもらって。
ーーそれでいうと、ハンバートもずっと一緒にいる2人でつくっている、煮詰まらなさがすごいなと。
良成:煮詰まらないね。なんでだろう、音楽的にぶつかることはないね。
遊穂:私があんまりこだわらないから?
良成:歌詞をすごく直してくれることはあるよね。編集者のようにバサバサ切ってくれるんですけど、そこは俺もアテにしてる部分もあるし。ただ、音楽のことに関してはお客さんスタイルなので、むしろ彼女は俺が作ってくるものを応援してくれる感じですね。いわゆるバンドみたいに、お互いにああだこうだ言って決めるというよりかは、俺がやりたいことが色々あって、それを「これ、どうかな?」と聞いて「いいと思うよ」というような感じでやっていけてるので。言ってみれば支えられてるんですよね。
ーーメロディーやコードについて、遊穂さんが何か意見することは? 
遊穂:「どっちがいいと思う?」みたいに聞かれた時は「こっちの方がいいと思う」とか、「それはどこが違うかわかんない」とか、そういうことは言ったりします。どっちでもいいとか。
良成:「どっちでもいい」というのも1つの答えなので。なるほど、どっちでもいいんだと思って、こっちが好きな方にするとかね。これも25年。新曲を作って、最初に聞いてもらうのが彼女なんです。
ーー今年の『MONSTER baSH』が個人的にはこの夏一番の暑さで、そんな中ハンバート ハンバートのライブがそんな暑さを吹っ飛ばす感じといいますか。特にアルバムにも入っている「リンダ リンダ」を披露した時がすごい盛り上がりでした。「リンダ リンダ」は、ずっと前からアルバムに入れようと候補に上がっていたのですか?
良成:そうですね。ザ・ブルーハーツの曲は何度も取り組んだことがあるんですけど、人前でやったことはなくて。やっぱり、ザ・ブルーハーツをカバーするのはどこか禁じ手というか、よっぽど覚悟しないとやっちゃいけないカバーなんじゃないかなと。ほかにもそういう曲がいくつもあって、『FOLK』シリーズでは毎回、その領域に踏み込んでいるところはあるんですけどね。そういう意味でも「リンダ リンダ」のカバーは「とうとうやるぞ」というぐらい気合を入れて。いつも30曲ぐらい曲を出し合って、その中から5・6曲に絞ってるんですけど、とにかくひたすら歌ってみるんですよ。家で2人でやってみて、「これは行けそうだな」とか、「すっごい良い曲なのに、俺たちがやると“歌ってみた”みたいな感じになっちゃうね」とか。それで、最初はうちのマネージャーから、「ハイロウズの「日曜日よりの使者」は?」なんて言われて、やっぱりおいそれとはできないなと思いつつやってみようと。それでやってみた時に、やるんだったら「リンダ リンダ」がいいんだよなと、ふと思ったんです。それで、最初の1フレーズを遊穂に歌ってもらったら「これは頑張ろう!」と思えた。「これは俺たちなりにやるぞ」と。ただ、やるからには覚悟を決めないとと。
ーー遊穂さんもやはりザ・ブルーハーツは禁じ手のような領域でしたか?
遊穂:そうですね。どの曲もそうなんですけど、やっぱりカバーをするからにはたくさんの人が知ってる、みんなが大好きな曲をやることに意味があるというか。「ハンバート ハンバートが歌うとこうなるのか」と思ってもらえるように、オリジナルのイメージをみんなが持ってるものを選んでるんですね。その中でも「リンダリンダ」はみんなの思い入れも曲のパワーも強いから、「誰が歌っても本当にいい曲だよね」みたいな風にもなっちゃうかもしれないし。だからこれまでも候補にすら上げてなかったかもしれない。
良成:『FOLK』というタイトルをわざわざつけて、弾き語りでやってる以上は「俺らなりのフォークはこれなんだ」というのを感じてほしいですしね。
ハンバート ハンバート「リンダ リンダ」 LIVE映像
ーー以前にもお話したんですけど、ロックとかパンクは「あの人、ロックな人だよね」「パンクだよね」と日常会話にも出てくるけど、フォークはそうならないというか。
良成:言わないですよね、「あの人、フォークだよね」って。言っても、森ガールみたいな感じだったね(笑)。
ーーそうですよね(笑)。昔のフォークは骨太さとかもあるんで「フォーク」という屋号が、ロックやパンクのように使われてもいいはずなのにあんまりないんですよね。そういう中で、『FOLK』という屋号を掲げ続けているところがカッコいいなと。
良成:まぁ、始めちゃったからですね。
ーー昔、細野晴臣さんから年賀状が届いたのもキッカケとしてあるんですよね。
遊穂:そうですそうです。ある日、細野さんから届いた年賀状に「今年もフォークソングに励もう」と書いてあって。それが私たちに向けたすごいいいメッセージだと思って、「フォークソングに励まなくちゃ!」と思ったら、それは別に私たちに向けて書いたものじゃなくてね。
良成:そう。高校生の時の細野さんが、友達に向けて書いたメッセージをカラーコピーしたレプリカだったんです。それを48年後の俺らが受け取って、「これか!」と思ったという。
ーーこの『FOLK』というアルバムは今回で4作目になるわけですけど、あらためていいフォーマットだなと。フォークはもちろん、J-POPも入っていたり。
良成:これは4年前に亡くなった前のマネージャー・山口周が考えたことなんですけどね。
遊穂:山口が提案する前は、J-POPのカバーってぜんぜんやってなかったんです。
良成:そうか。初期の頃は俺が好きだった高田渡さんや西岡恭蔵さんだったり、「カントリーロード」とか外国の歌やボブ・ディランのカバーとか、どっぷりと60年〜70年代の歌をカバーしてたんです。どういう流れでJ-POPのカバーも始めたんだっけ?
遊穂:インストアライブが最初かもしれない。
良成:インストアライブか。「お金払ってライブに来てくれる人もいるのに、それと同じことをインストアライブでやっちゃうのはなんだか申し訳ないから、ちょっと違うことやろう」と、当時に山口が言って。その場で急いでコードと歌詞をプリントアウトして、それこそ「歌ってみた」だよね。それが最初で、自分たちのライブでもやってみようか、と言って始めたのが最初の『FOLK』に入っていた「さよなら人類」(たま)とか、「N.O.」(電気グルーヴ)だね。
ーーそうだったんですね。
良成:だけどこの『FOLK』の形は、ちょっとずつ拡大解釈してるんですよ。新曲が増えたり翻訳の曲があったりとか。
ーーインストアで無料で見れるイベントだから違うことをする、という山口さんの発想がすごいですよね。別にライブと同じことをしてもいいわけじゃないですか。
遊穂:何についてもこだわりがあって。インストアの時だけ飲めるオリジナルカクテル作ったりね。それの名前を考えてくるようにと言われて、宿題がめっちゃ出たりしたんですよ。「そんなのなんでもいいじゃん」というところで。
良成:「おなじ話」をもじって「おなじパナシェ」とかね。 あと「長いこと待っていたんだ」から「長いことマティーニ」とか(笑)。
ーー今でこそ、フェスでミュージシャン考案のフードやドリンクメニューがあったりしますけど、そのパイオニアですよね。
良成:まぁ、その時しかやってないんだけどね(笑)。これからやってこうかな?
遊穂:そうだね。
良成:でもそれ、準備大変なんだよな。マティーニなんて言ったら結構、難しいじゃないですか。
ハンバート ハンバート "恋はいつでもいたいもの"(Official Music Video)
ーーちなみに、最初にこの『FOLK』を1枚目に出した時は、ここまでシリーズ化すると思っていましたか?
良成:していきたいなと、山口の中ではあったと思います。評判次第ですけど、うまくいけば宝の宝庫だと思ってたんじゃないかな。周年だし、コンセプトを絡めて作ると面白いぞと。オリジナルアルバムは俺が曲を作らない限りスタートしないけれど、コンセプト発でアルバムが作れるというのはハンバート ハンバートとしては画期的だったと思う。今までそういうものがなかったので。
遊穂:フォークの2枚目を出す時が、20周年で。その時は、最初はどんなものにしようかという話があったと思うんだよね。『FOLK』をそのままやるかどうかはその時点では決まってなくて、だけど山口が「タイトルが決まった。ズバリ『FOLK 2』」と言ったの。その時に、またあのフォーマットでやるつもりなんだと思ったのを覚えてる。
ーーそれが今ではオリジナルアルバムが出て、このコンセプトアルバムが出て、というサークルになっていますよね。
良成:去年の段階では結成25周年だということに気づいてなかったんです。年末ぐらいに気づいて、それならやんないといけないかなと思って。ここでやらなかったら、「フォーク」シリーズは終わったということになるから。まぁ、いま終わらせてもいいんだけど、せっかくだから25周年もやんないとなと。
ーー『FOLK』の1枚の中でも、フォークのカバーがあって、J-POPやロック、セルフカバーに新曲まで入っているところがリスナーとしてもすごく嬉しくて。新曲は毎回嬉しいんですけど、次のオリジナルアルバムの新曲作りにも繋がっていたりするんですか?
遊穂:『FOLK』のために創作モードに入るんだけど、その時に何曲か作るんだよね。できてみたけど弾き語りには合わない、ドラムやベースが入ってた方がいいな、という曲はよけて取っておくみたいなことはあるよね。
良成:やっぱりギター1本で成立しないといけないからね。そう考えると不思議なんだけど、別にセルフカバーにしろ誰かのカバーにしてもギター1本で成立してないものを成立させてるから、別にどんな曲でもギター1本にすりゃいいんですよね。だけど、自分で改めて作るときにはそういう風には思わなくて、「この曲はギター1本で成立するような曲にしよう」とか。そうじゃないと、本当はドラムやベースを入れたいんだよなと思いながら作るのが嫌だから。そもそもこの曲は、ギターのこのリズムがちょうどで、十分なんだっていう風な感じの曲を録音したいなと思うんですよね。それと、あとはちょっとポップになりますね。やっぱり編成が少ないから。
ーーなるほど。
良成:決して悪いことじゃないんですけど、いろんなサウンドを足したりレンジができるということは、メロディーとか歌詞、歌だけで聴かせる必要がないので。むしろそれらが、多すぎるとごちゃごちゃしちゃうというか、ある意味ちょっと薄味のパートがあるからこそ次が引き立つとか。なので、歌とギターで成立させるためには、味が濃いめの曲を作らないといけないんですよね。
ーー新曲を新しく生み出すだけでも大変なのに、新しくカバーもしてセルフカバーもしてということを並行して作っていくのがすごいですよね。
良成:これは年とともにできるようになってきたと思いますね。やっぱり若い時はできなかったんですよ。 1個のことをやったら、1個のことしかできない。ツアーやってる時は、ツアーのことしか考えられなかったり。だけど年を取ってくと、なんかいろんなことを同時にやんなきゃいけないですからね。子育てもそうだし、家事もあるし。それから同時進行で、曲を作る制作の依頼も増えたりしたことで鍛えられたところもあるかもしれないですね。逆に言うと、同じことばかりじゃなくて、箸休めというか、同時進行でパラパラやっていくことで程よく煮詰まらないコツでもあるのかな。同じことをしていて飽きることはないんだけど、ずっと1個のことやってるとわかんなくなっちゃうことがあるから。
ーーそれに新曲がいつも短編小説を読んでいるような物語性のあるものが生まれてくるところもすごいなと。
良成:25年もやっていたら、自分の体験だけだったら一瞬で終わっちゃいますよ。そんな人生経験豊富じゃないのでね。だからよく言えば、インスピレーションを得て、悪く言えばいろんなところから盗んできてね。それも若い頃は「人と同じことはいけない」とか「真似なんか絶対にしない」と思っていたけど、俺たちが大好きな超有名アーティストだってみんなみんな真似しまくってるし、それが作るということなんだということに、年を取ってくると気がついてね。「それでいいんじゃん」と思えるようになりましたね。自分に元々ある引き出しだって、結局は誰かの曲を聴いてできた引き出しだからね、無自覚なだけ。影響を受けまくってることに違いはないから。意識的か無意識かは違っても同じことじゃないですかね。おもしろくて、カッコよければいいわけだから。
取材=鈴木淳史 文=SPICE編集部(大西健斗) 写真=STAFF撮影

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